『誕生日のプレゼントは』「ボス!誕生日おめでとうございます!」
「これ、皆で金出して買ったっス!」
十二月。そろそろ雪でも降り出しそうな程に寒さが身にしみてきた頃。いつも溜まり場にしていた屋上は流石に寒いと、秋の終わりから新たに確保した音楽室。それなりに広いし、中で声は響くが、外にはあまり響かない。アイドル校の奴らは練習室というのがあるらしいので、授業以外で使われることはないらしい。存外居心地も良く、気に入っている。
そこにいつも通り集まったチームのメンバーは、ボスであるブラッドリーが来るのを待ち構えていたように、入り口前に集まっていて、ドアを開けた瞬間に期待に満ちた目で出迎えられた。後ろではバースデーソングをピアノで弾いている奴までいる。いったいいつから待機していたのやら。
「おぅ。サンキュ」
勢いに押されつつも、これだけ祝われて嬉しくないわけはない。差し出されたプレゼントを笑顔で受け取れば、ちらほらと「ボス!早くあけてください」と声が上がる。
それを収めながら、中央の教卓まで持って行き、ゆっくりと包みをあけた。
紙袋から服だろうとは予想していたが、現れたそれは質のいい黒の革ジャケット。
一体いくら集めたのかとか、誰が選んだのかとか、色々と思うことはあるが、聞くのは野暮というものだろう。なによりも、一目見て、気に入った。これを着てバイクに乗れば、きっと気持ちいいだろう。
「お?いいライダースじゃねえか」
「本革ッスよ」
「皆で考えたッス!」
ブラッドリーの好感触に笑顔を浮かべたメンバー達は口々に話し出す。それを聞いて頷きながら、ひとつ一つ感謝を返した。
それぞれの言葉を一通り聞き終わると、「ボス」と後ろから声がかかる。
「これとは別にいい肉をネロに託したから、なんか美味いもん、作ってもらえよ」
「ネロに?」
突然でてきた幼なじみで相棒の名前に思わず反応する。昨日から何度も連絡するが、素っ気なく誘いを断わられていたから余計に、だ。
「はいッス。ボスにはいい肉! って思ったんスけど、そこらの店で買ってくるよりボスの好きな味を知ってんのは絶対ネロさんッスから」
「あ、一緒に買いにいったんで、間違いないっスよ」
「普段買えないとびきりのやつだって言ってたッス!」
「それで昨日から……」
恐らくその買い物に行ったのは昨日だろう。「今日会えるか?」という問いに「用事がある」とバサリと切り捨てられたメッセージを思い出す。その後に続いた「冷蔵庫のやつ温めて食っとけ」という言葉に誕生日前だというのに冷たい奴だと思ったのだが、それもブラッドリーのプレゼントの為だったと思えば少し違って見えてくる。自然とこぼれ出た呟きに一番近くにいた奴が反応した。
「どうしたんスか? ボス?」
「いや、何でもねぇ。楽しみだと思ってよ」
静かに微笑むその顔に、満足したのか、周りはより一層盛り上がった。ネロが最近チームに顔を出す回数が減って、真面目に授業を受け出したとしても、このチームのナンバー2であることは変わらない。そして、慕われていることにも変わりはないのだ。
「いいな~! ネロさんの手料理!」
「絶対美味いのが確定してる」
「ボス、ほんとずるいっスよ~。あんな美味いもん毎日食えるなんて~」
「うらやましい~」
「はは。やらねぇよ」
この言葉を聞いていたら照れながら悪態をつくだろう相棒の姿を思い浮かべながら、冗談交じりに言う。
「ネロさんをボスから盗ろうだなんて命知らずいませんよ」
「そうッスよ」
「ボスに敵うわけないじゃないっスか~」
「その前にネロさんにボコられます」
「なんだよそりゃ」
思いの外真剣に返ってきた答えに、周りからネロはブラッドリーのものであると認識されているようで気分が良くなる。これを言うとまた「は?ふざけんな。俺はお前のじゃねぇ」とかなんとか言ってくるのだろうが、それもブラッドリーは受け入れてやれる。なんと言ったって、
「まぁ、俺様が以上にいい男はいねぇからな」
そう言ってニヤリと笑えば、あちこちで歓声が上がる。
「くあぁぁ。かっこよくてむかつく! でも大好きっス」
「ボス~!」
「はいはい。分かってるからはやくネロんとこ行ってやんなよ」
数名は長年チームメンバーとして関わってきた奴だから、呆れたように笑って、ネロが授業終わってすぐに帰ったと教えてくれた。
「そうか。じゃ、帰るわ」
「ボス、お気をつけて!」
「おぅ。誕プレ、ありがとな」
音楽室を背に、ゆっくりと歩き出したはずの足はいつの間にか愛車のバイクに向かって、息を弾ませる程の早さに変わっていた。
「今から帰る」
一言、メッセージを送ればすぐに既読がつく。
返された「気をつけてね」のスタンプを見る前に、エンジンのかかった愛車は白煙を上げて走り出していた。
続→→
ペーパーラリーへ。