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    azumino_no

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    azumino_no

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    完結したら、支部に投稿します!
    みなさまも誰が攻めか推理してね!!

    ラブレターの差出人を推理するBL「えっ」

     人生において一生無縁だと思っていたものを目にして、僕は固まってしまった。

    「どうし……、あっ!ラブレターやん!」

     毎日一緒に登校してる池田は俺の下駄箱に入っていたラブレターらしきものを僕より先に手に取って、すぐ読もうと真っ白な封筒から手紙を取り出した。

    「ちょっと勝手に見ないで!」
    「ケチくさいこと言うなよ~。どれどれ~」

     池田は僕に背を向けるのと同時に意図的かどうかは分かんないけど、無駄にデカいリュックを僕にぶつけてきた。そのせいで、僕よりも先に池田は手紙の中身を読み始めた。

    「えーと、平川君へ♡突然の手紙、ごめ、痛っ!」
    「返して!僕が先に読むんだから!」

     僕は池田のリュックを引っ張って、無理矢理手紙を奪い取った。今度は僕が池田に背を向けて、手紙を黙って読もうとしたけど、池田は後ろから僕に抱きついて、手紙を覗いてきた。

    「ん~……、あっ!好きって書いてある!好きって!」
    「うるさいってば」
    「えー!マジでラブレターやん!ひゃー!初めて見たわ!」

     常に騒がしい池田を黙らせることは無理だから、僕はもう池田のことは無視して、真剣に手紙を読んだ。

    「……ほんとにラブレターだ……」
    「やろ!?え~!どうする!?オッケーしちゃう!?」

     なぜか僕よりテンションが高い池田を冷めた目で見た後、もう一度、手紙に視線を落として、差出人の名前を探したけど、手紙の最後にも封筒にも名前は書いてなかった。

    「どうしたん?」
    「名前が書いてない」
    「え?」

     池田も俺と一緒に手紙の隅々まで見て、なんなら、封筒の底まで確認してたのに、見つけることはできなかった。

    「えー、誰か分からんとなんも進まんやん」

     正直、誰であろうと僕に想いを寄せてくれてるのはめちゃくちゃ嬉しい。告白されるなんて人生で初めてだから、僕も見知らぬラブレターをくれた子のことを好きになりそうなくらい浮かれてる。ただ、池田の前だからちょっとカッコつけて、余裕がある雰囲気を出してるだけ。

    「でも、この子は別に平川と付き合いたいわけじゃないんやな」
    「え?」
    「ほら。ここにさ、平川君に想いを寄せてる人がいることを知って欲しかっただけです♡って書いてあるやん」

     俺は池田が指差してるとこをジッと見ながら、ちょっとだけ複雑な気持ちになった。だって、誰が俺のことを好きって思ってるのか分からないなんてモヤモヤする。もちろん、ラブレターをくれただけで十分嬉しいんだけど、僕的には直接話をしてみたいというか……。

    「え~。にしても、誰なんやろな!平川のことが好きな物好きは」
    「物好きって言わないでよ」
    「あ、口が滑っちゃった~」

     僕は手紙を折りたたんで、制服のポケットに入れた後、靴を履き替えた。池田はラブレターのことをもっと話したかったみたいだけど、みんなにはあんまり知られたくなかったから池田を黙らせて、教室まで向かった。


    ****

    「ねぇねぇ、平川は誰がラブレターくれたんやと思う?」

     お昼休みに池田はわざとらしく小声で俺に聞いてきた。

    「もうその話はいいでしょ」
    「だってー、気になるんやもん。まずさ、平川ってそんなに女子と喋ってなくない?」

     僕だって、池田以上に気になってるし、なんなら午前中は一切授業に集中せず、ラブレターのことだけ考えてた。でも、池田の言う通り、僕は女子と話さないし、差出人だって思い当たる人が1人もいない。

    「ん~、誰やろう……」

     池田は真剣に僕のことが好きそうな女子を考えてくれたけど、特定の名前を出してくることはなかった。それはそれで僕がモテないみたいで嫌だけど。

    「でもさ、卒業まであと1年あるわけだし、そのうち分かるんちゃう?」
    「まぁね……」

     明日の終業式で高校2年生という肩書とおさらばするわけだけど、あと1年の高校生活は今よりも恋愛っていう面も含めて、充実することを期待することにした。


    ****

    「あ!俺、2組や!平川は!?」
    「えーと……、田中、橋本……、んー」
    「待って!一緒や!平川!一緒やで!」
    「うわっ!?抱きつかないで!」

     僕がまだ自分の名前を探してる最中だったのに、池田は僕に抱きついて、耳元で大きな声を出してきた。

    「やったなぁ!」
    「まぁ……、良かったね」
    「まぁとか言うなよ~」

     2年連続で同じクラスになるとは思ってなかったけど、一番仲良い池田と同じクラスなのは嬉しかった。本人には絶対に言いたくないけど。

    「よしっ!んじゃ、教室行こうぜ!」

     僕と池田は「教室まで遠くなってだるいなぁ」とか言いつつ、なぜか疲れるのにどっちが先に3階まで行けるか競争した。でも、階段の踊り場でなぜか惹かれるものがあった。

    「よっしゃぁぁ!俺の勝ちな!……って、なんで踊り場で止まってるん!?」

     僕は池田の声には一切耳を貸さず、壁に貼ってある1枚の紙をジッと見つめた。

    「ちょっと無視せんといて~。なに?いい事でも書いてあった?」
    「……この字、見たことある」
    「字?」

     池田は踊り場まで降りてきて、僕の隣に立ったから、僕は考え事をしながらも、池田のために紙を指差した。

    「達筆やな。俺は見覚えないけど」
    「ラブレターの人と一緒」
    「え?」
    「この払いの感じとか漢字だけ大きめに書くとことか」

     達筆だけど、めちゃくちゃ上手いってわけじゃないとこも、「す」の丸が大きいとかも、全体的なバランスがいいとこも、全部が全部似てる気がする。

    「えっ。平川……、お前……そんなにラブレター読み込んでるん……?」
    「うるさい」

     池田には絶対に言わないけど、春休みの間、ずっとラブレターのことばっかり考えてたし、毎日眺めては幸せな気持ちになってた。自分でも浮かれすぎなのは分かってるけど、僕のことを考えて書いてくれたって思うと嬉しくて仕方がなかった。

    「でも、男子バスケ部の勧誘ポスターやで?」
    「え?」

     僕は文章を読まず、字だけを見てたからなんの張り紙か分かってなかった。でも、池田に言われて、見てみると大きな字で『来たれ!男子バスケ部!』って書いてあった。

    「でさぁ、平川君はラブレター何回読み返したのぉ~?」
    「黙って」

     でも、この字は絶対にラブレターの人の字だと思う。もしかしたら、僕が差出人を知りたすぎて、勘違いしてるのかもしれないけど、なんというか、そんな気がしてならない。男子バスケ部のポスターなのは気になるけど、女子のマネージャーが書いたかもしれないし。

    「えー。……ところで、平川さんは春休み中に何回ラブレターを読まはったんですかぁ?」

     僕は池田のことを無視して、階段を上って、教室に向かった。教室に着くと、黒板に自分の席がどこか書いてあって、僕は自分の席を見るより先にバスケ部員の名前を探した。

    「平川~、置いてくなって~」
    「うるさい。……あ、岩泉いるじゃん」
    「いわいずみ~?」

     僕は端っこの席に座ってるバスケ部のキャプテンである岩泉のとこに急いで駆け寄った。

    「おはよ」
    「あ、平川。同じクラスだったんだな。よろしく」
    「あのさ、部活の勧誘ポスターって誰が書いたの?」
    「え?」

     岩泉が「よろしく」って言ってくれたのに、返事をするのも忘れて、聞きたいことを先に聞いてしまった。岩泉は話しが唐突だったせいか、なんの話か分からないような顔を浮かべていた。

    「えっと……、踊り場でポスター見かけて、誰の字かなって気になったから……」
    「あー、それか。あれは……、誰だったっけな?……思い出せないな」
    「マネージャー?」
    「いや、今はマネが全然いないから選手だと思う」

     選手ってことは100パーセント男だ。確かに僕は女子と話さないから、男子からラブレターをもらったとしても、納得できないわけでもない。それに、今は性別なんかより誰がラブレターをくれたかが一番気になるし。

    「そうなんだ……」
    「平川も入部する?」
    「しないよ」

     僕がバスケ部からの勧誘を受けてると、池田が岩泉の前の席に座りながら、こっちに話しかけてきた。

    「こんちゃー。えっと、いわいずみ君?」
    「うん。よろしく」
    「俺、池田。席前後だからめっちゃ話しかけるわ」
    「あ、転校生の……」
    「そうそう!関西の池田で覚えて!」

     2人で話が盛り上がりそうな雰囲気があったから、僕はあのポスターを書いた人を探すべく会話から抜け、廊下に出た。

    「あ!平川、何組だった?」
    「2組だったよ。何組になった?」
    「俺は4組~」
    「あのさ、丸森って何組か知ってる?」
    「あ、さっき4組に遊び来てたよ」
    「ありがと」

     僕は友達に言われた通り、2つ隣のクラスを覗いてみると、僕と仲が良いバスケ部員の丸森が他の友達と楽しそうに話してた。

    「丸森、今いい?」
    「あ、マリーちゃん!」
    「マリーちゃんはそっちだよ」
    「えー、俺はマリーちゃんって名前似合わないよ。ゴールドの方が俺には似合うもん」
    「ダメ。僕がゴールド」

     僕と丸森は1度も同じクラスになったことはないけど、1年生の時に2人とも美化委員会に入ってて、一緒に話しながら花壇の雑草をむしってたら、意気投合しすぎて、話に夢中になったせいで雑草以外の花も抜いて、先生に「これはマリーゴールドでしょ!」って怒られた仲だ。

    「んで、どうしたの?」
    「あのさ、勧誘ポスターって誰が書いたの?」
    「あ!あれ、俺が絵描いたんだよ!上手いでしょ!」
    「字も?」
    「え?字?」

     丸森は少しだけ固まった後、視線を泳がせながら、記憶を辿ってるみたいだった。

    「字は、あー……、分かんないや。俺、絵だけ描いて、部長にパスしたから」
    「そういえば、今って部長誰なの?」
    「井川だよ」
    「え、そうなの?意外……」
    「あみくじで決めたからね」

     うちのバスケ部は部長とキャプテンを一緒の人にしちゃいけないらしくて、一番部長に向いてそうな岩泉がキャプテンになった時点で部長は誰がやっても変わらないくらい他のメンツはヘラヘラしてるイメージがある。だから、あみくじで部長を決めたのも理解できる。

    「井川は何組?」
    「あ、俺と同じ組だから3組だけど、あいつはバスケしてんじゃない?」
    「分かった。ありがと」

     僕は3組の前を通って、少しだけ教室を覗いて、井川がいないことを確認した後、その足で体育館に向かった。

    「あ、井川」
    「え?……あっ!」
    「わっ!?」

     今日は入学式もあるから、部活は禁止なのに、井川は第二体育館で1人でこっそりバスケをしていた。それなのに、急に僕が声をかけたから驚いたみたいでシュートし損ねたボールが僕に向かってきた。

    「悪い!大丈夫か?」
    「大丈夫……。びっくりした……」
     
     運動神経が良くないせいで、ボールをキャッチすることはできなかったけど、どうにか避けることはできたから良かった。

    「怪我してない?」
    「うん、大丈夫。あ、あのさ、唐突で申し訳ないんだけど、バスケ部の勧誘ポスター見たんだけど、あれって誰が書いたの?」
    「マジで唐突だな。んーと、あれは丸森が書いてたな」
    「絵じゃなくて、字の方」
    「字?」

     井川も丸森と同じようにちょっとだけ眉間に皺を寄せていた。まぁ、急にこんなこと聞かれたら、誰だってこんな反応になる気もする。しかも、井川に関してはわざわざこんなとこまで探しに来たわけだし。

    「あぁ、あの字は……、あー……」
    「うん」
    「誰だっけな……」
    「でも、丸森から絵を受け取った後に誰に渡したとか……」
    「一応広報係みたいなのがあって、そっちに任せっきりにしてたから俺は分かんないわ」

     井川に聞けば絶対分かると思ってたのに、もう1人くらいに聞かないとあの字を書いた人物が分からなそうだった。

    「広報係は誰なの?」
    「中山だな」
    「あ、中山なんだ」
    「にしても、なんで?誤字ってた?」

     僕は井川に適当な言い訳をした後、また校舎の方に戻って、中山を探す旅に出た。でも、タイミングよく中山が廊下を歩いてたから、僕はすぐに後ろから声をかけた。

    「中山」
    「あ、平川君。今年度もよろしくね。何組になった?」
    「2組。中山は5組なんだね」
    「そう。離れちゃったね」

     中山はバスケ部っぽくないというか、すごく物腰が柔らかい。去年同じクラスだったし、波長が合うから、廊下で会えば毎回話すくらいに仲がいい。

    「あのさ、バスケ部の勧誘ポスターって中山が字書いたの?」
    「ううん。僕はあんなに字綺麗じゃないよ」
    「じゃあ、誰に頼んだの?」
    「僕も知らないんだよね。同じ係の後輩に任せちゃって」

     さすがに中山は知ってると思ったのに、また違う人に聞かないと分からない状況になってしまった。

    「後輩の字ってこと?」
    「その後輩も字が上手くなかったから、誰かに頼みます~みたいなこと言ってたかな」
    「そうなんだ……」

     朝から必死に4人に話しかけたのに、誰一人としてあの字のことを知らなかった。僕は少しだけ落ち込んだまま、朝礼のために自分の教室に戻って行った。


    ****

    「結局、誰が字書いたのか分からんかったってこと?」

     入学式が終わった後、僕と池田は教室で昼ご飯を食べてながら、少しだけ朝の話をしていた。

    「そんなにたらい回しにされて可哀想やったなぁ」
    「まぁ……」
    「でも、誰も把握してないっていうのも変やけどな」

     確かにキャプテンも部長も広報係も知らないのは変な気がする。それに、丸森だって自分が頑張って書いた絵に誰が字を書くかくらいは知っててもおかしくない。

    「そんなに悩むんなら、後輩に聞いてみれば?俺も付いてってあげるで?」
    「いや、そこまでするのは……」
    「いいやん!行こうや!後輩なんて名前なん?」
    「知らないよ……」
    「ほらっ!立って!俺がラブレターの差出人突き止めたるから!」

     池田は僕の腕を引っ張って、後輩の名前を聞くために初対面であるはずの中山にグイグイ話しかけ、名前だけを頼りに後輩の元へ突撃しに行った。

    「え?字ですか?」
    「そうそう!教えて欲しいなぁって!」

     後輩は少し驚きながらも、先輩である僕達に気を遣ったのか、そこまで深いことは聞かず、素直に答えてくれそうだった。

    「あの、僕、なにもしてなくて……。中山先輩が全部やってくれたんです」
    「え?そうなの……?」
    「はい。丸森先輩が絵描きたいってずっと言ってたんで、先輩達全員で盛り上がりながら、ポスターの構図とか文章とか考えてましたよ」

     思ってた答えと違うものが飛んできて、僕は心の中で「え、どういうこと?」って何度も言いながら、表には出さず、後輩に作り笑顔を向けた。

    「そっか。ありがとう」

     僕と池田は後輩に手を振った後、真っ直ぐ教室に向かって歩き出した。池田は珍しく悩んだ顔をしながら、少しだけ小さな声で話しかけてきた。

    「なんか、変やな。だって、先輩達全員って言ってたで?」

     池田の言う通りだ。後輩の話が本当なら、僕が今日の朝話しかけた4人は全員あの字が誰のものか分かってるはずだ。なのに、それを全員が隠すなんて絶対におかしい。

    「ちょっと俺、真面目に平川にラブレターくれたやつ考えるわ!」
    「え?」
    「なんてたって、昔はなにわの探偵って呼ばれて、一世を風靡したんでね!」
    「絶対嘘じゃん」

     堂々適当なことを言う池田を冷めた目で見ると、池田はヘラっと笑って、勢いよく僕の肩に手をまわしてきた。

    「よしっ!そうと決まれば、今から謎解きしひーんな!」

     正直、僕1人だったら、モヤモヤして終わりだったけど、池田は僕よりも気になることには貪欲に向き合うから、今回は少しだけ救われた気持ちになった。まぁ、池田は自分が楽しんでるだけだと思うけど。

    「まず、容疑者候補は……」
    「ねぇ、僕にラブレターくれた人のこと容疑者って言わないでよ」
    「細かいなぁ」

     今日は午前で終わりだったから教室にはもう数人しか残ってなかった。池田は僕の前の席に勝手に座って、今日配られた紙とペンを用意し始めた。

    「まず、容疑者が同学年のバスケ部にいると仮定して、その中でも平川と仲良さそうなやつに絞ろ!」
    「僕と仲良い人……」

     うちのバスケ部はそこそこ人数がいるから、全員を知ってるわけじゃないけど、思い返すと6人くらいは会えば話す仲の友達がいる気がする。僕は池田が持ってきた紙の裏にその6人の名前を書きだした。

    「んー、6人か。多いなぁ。でも、岩ちゃんと丸森っちと部長と中山君は嘘吐いたのが確定なわけやん?」
    「そうだね」
    「だから、まずはここの4人を容疑者候補にして、他の2人はこの4人が全員白だったら考えるって感じにして~」
    「なんか、楽しそうだね……」
    「めっちゃ楽しい!1人ずつ情報ちょーだい!」

     池田は体を乗り出して、僕に4人の性格やら僕と友達になった経緯を聞いてきた。その間、池田は楽しそうにペンを走らせていた。

    「なるほどなぁ~!」

     一通り、僕が話し終わると、池田は紙を見ながら、重要そうなとこに赤ペンで線を引き始めた。僕はそれを見ながら、客観的に一番僕に想いを寄せてそうな人を考えた。でも、どうしても主観が入るせいで全員僕にラブレターをくれるわけがないと思ってしまう。

    「んー、俺の予想だと、丸森っちが一番怪しい!」
    「え、丸森?」
    「このマリーちゃんって呼んでるのが平川のこと恋愛対象として見てそう」
    「うーん。丸森はなんも考えてないだけな気がするけど……」

     丸森はこの4人の中だったら、一番仲が良い気がするけど、やっぱり友達というか……。いや、これは僕が友達としてしか見てないからかもしれないけど……。

    「でも、この美化委員会が一緒で花壇で花を一緒に摘んだっていうのが少女漫画っぽい!」
    「花を摘んだっていうより雑草抜いただけだよ」
    「あやしいなぁ~」

     池田は顎に手を当てながら、僕の方を見てきたけど、まるで僕が事情聴取されてる気分になってきた。僕は池田から紙に視線を移すと、ふいに当たり前なことを思い出した。

    「あのさ、真剣に考えてるとこ悪いけど、字見たら分かるんじゃない?」
    「……確かに」
    「みんなにノート貸してとか言えばいいだけの話じゃない?」
    「えー、それじゃつまんないやん」

     ラブレターの差出人を知りたいだけなんだから、つまるつまらないとかの問題じゃないでしょって思いつつも、推理するのは地味に楽しかったから言い返すのはやめておいた。

    「明日授業が始まったら、みんなに聞いてみる」

     少しでも早く差出人を知るために僕は楽しさよりも早さを取ってしまった。


    「岩泉。ノート貸してくれない?」
    「ノート?」
    「さっきの授業のやつ」

     授業が終わってすぐに岩泉の元に行くと、岩泉は少し気まずそうな顔をした後、いつも通りの凛とした声を発してきた。

    「いや、黒板にまだ字残ってるし、今日は初回だったから俺もノート碌に取ってない」
    「でも、」
    「というか、俺、今日はなんも書いてない」

     確かに僕が早く岩泉の字を見たすぎて、初回の授業終わりに声をかけちゃったのは良くなかった。でも、ノートくらい気軽に貸してくれても良さそうなのに。

    「岩ちゃん、そんなこと言わんとってや~。見せてあげて~」
    「でも、俺より池田の方が手動かしてたし、池田に借りた方がいいよ」

     岩泉は面倒見がいい人だから、こんなにノートを貸すことを渋ると思わなかった。僕は池田と視線を交わして、お互いに一回2人で話し合おうというアイコンタクトを送った。

    「ほな、俺の貸すわ」
    「ありがと」

     僕は池田と一緒にロッカーに向かうフリをしつつ、2人で廊下に出た。池田は真剣な顔をしながら、ヒソヒソ話をし始めた。

    「岩ちゃん、黒やな」
    「うん……」
    「あれはあからさまやったな……。岩ちゃんがラブレターの差出人確定やな」

     岩泉が僕にラブレターを……。いや、でも、岩泉って僕のこと、そういう意味で好きなのかな?正直、信じられないというか、確証が持てない。

    「でも、字を見るまで分かんないよ」
    「えー、絶対岩ちゃんやって!」
    「とりあえず、丸森にも聞いてみる」

     僕はそのまま隣のクラスを覗いてみると、丸森はいつも通り仲良さそうに友達と話していた。また邪魔するのも気が引けると思って、しばらく様子を見てたら、ふいに丸森と目が合った。丸森は友達に一言何かを言った後、こっちに来てくれた。

    「マリーちゃんじゃん。どうしたの?」
    「来てくれて、ありがと。えっと、あのさ、国語のノート貸してくれない?」
    「え?ノート?」
    「うん」

     丸森はキョトンとした顔をした後、何も考えて無さそうな感じですぐ返事をしてきた。

    「え、なんで俺?違うクラスだよ?」
    「先生一緒だし、ノートの内容も一緒だろうから」
    「いや、でも、あっ、えーと、俺より同じクラスの人に借りなよ」
    「いいじゃん。貸してよ」
    「えぇ……。俺、字汚い、いやっ、汚いわけでもないけど、ちょっと、その……、貸せないや……」

     丸森は嘘が吐くのが下手くそだ。こんなに狼狽えてるってことは何かを隠してるに決まってる。でも、もし、丸森が僕のことが好きだったとしたら、根掘り葉掘り聞くのは可哀想な気がする。

    ****

    「つまり、全員ノート貸してくれへんかったってこと?」
    「うん……」

     結局、池田が言う容疑者4人全員にノートを貸すように頼んだのに、みんなその場しのぎみたいな言い訳をして、貸してくれなかった。

    「待って。なんかヤバない?裏に大きな陰謀を感じる……」
    「ちょっとだけ分かる」
    「え、もしかして、みんなグル?え?」

     確かにここまで来るとバスケ部全員で僕にラブレターをくれた人を隠してる可能性が高い気もする。でも、本当にあのメンバーの中に僕にラブレターをくれた人がいるとも思えない。

    「うーん、でも、俺が絶対犯人を見つけたるからな!」
    「犯人って言わないでよ」

     お昼休みの間、池田のマシンガントークを聞きながら、僕は1人で想いを寄せてくれそうな人を考え続けていた。

    ****

    「なぁなぁ、今日暇?」
    「暇だけど……」

     帰りのホームルームが終わって、教科書を鞄に入れてると池田が楽しそうに話しかけてきた。

    「ほな、部活見に行こ!」
    「え?」
    「俺も容疑者達の顔見てみたい!」
    「えー……」
    「体育館ならこっそり見てもバレへんやろ!今は新入生もいるやろし!」

      ノリノリの池田を冷めた目で見てると、急に腕を掴まれ、体育館まで連れてかれそうになった。でも、なんとか池田を説得して、見に行く代わりに部活が始まる時間まで教室で大人しくすることを誓わせた。

    「おぉ!どれが誰!?」

     相変わらず、声が大きい池田の隣でこっそり体育館を覗くと個人で練習してるとこが見えた。

    「えっと、あ、あそこで制服の子達と話してるのが井川」
    「部長?」
    「そうそう」
    「へー!全然顔見えへんけど、背高いな!」

     柵の隙間から池田が知りたそうなメンツを探してると、僕の隣に居たはずの池田が堂々見つかりそうなとこで立ってたから無理矢理ドアの近くにしゃがませた。

    「勝手な行動しないで」
    「ちょっとくらいええやんか~……」
    「あ、中山だ」
    「中山はわかるで!後輩の名前聞き出したからな!」

     まだ部活がちゃんと始まってないのか思ったよりも人が散らばってるし、みんな早足で移動しちゃうから僕が真剣に丸森を探してると、池田の陽気な鼻歌が聞えてきた。

    「あとは花巻君やな!」
    「丸森だよ。丸森は……、あ、いた。今ペットボトル持ってる子」
    「おぉ!あの子や!あの子やろ!」
    「えぇ?」
    「カッコいいやん!俺の推しはあの子やな!」

     確かに丸森はカッコいいし、人懐っこいから印象はめちゃくちゃ良さそう。池田が推しにする理由も分かる。でも、差出人かと言われるとちょっと違う気がする。

    「あ、岩ちゃん見っけ!」
    「ん?どこ?」
    「あそこあそこ。岩ちゃん~~!」
    「ちょっ、呼ばないでよ!」

     見つからないようにこっそり見るだけって約束だったのに、急に大声を上げられ、岩泉はもちろん他のメンバーとも目が合ってしまった。僕が諦めのため息を吐いてると、岩泉が駆け寄ってくれた。

    「どうした?」
    「岩ちゃんが部活頑張ってるとこ見に来たでーっていうアピールしてみただけ!」

     岩泉は僕の方を一瞬だけ見た後、少し気まずそうな顔をした。

    「ちょっと待ってて」

     どこかに向かって行った岩泉の背中を見ながら、僕が池田に文句を言ってると、僕達のとこに部長である井川が来てくれた。

    「見学?」
    「あ、いや、」
    「そうっす!」

     井川にバレないように池田の背中を叩くと、池田は嬉しそうにヘラヘラしていた。

    「こんな時期に珍しいな」
    「高校最後の1年をエンジョイしようと思って!なっ?」
    「え、あ、うん……」
    「へー。池田はともかく平川は意外だな」

     井川に疑われるのも当然なくらい僕はインドアだし、部活に入るとしても絶対文化部にするようなタイプ だから、苦笑いをすることしかできなかった。

    「マリーちゃん!」

     返事に困ってるとちょうどよく丸森の声が聞こえてきた。

    「その名前、他の人の前では呼ばないでよ」
    「えー、可愛いのに」

     丸森は少し視線を外して、僕の隣に居る池田を見た後、嬉しそうな顔をしていた。

    「あ!この子、去年来た転校生?」
    「うん。僕と岩泉と同じクラスの池田ね」
    「池田っす。よろしく~」
    「俺ね!関西弁習得したくて、ちょっと今時間あるから教えてよ!」
    「おっ!ええで!まずはなんでやねんの特訓からやな!」

     想像以上に相性がいい池田と丸森に驚いてると、2人は仲良く関西弁講座を開催していた。僕は目の前に居る井川に視線を合わせようとすると、井川はさっきまで話してた新入生の方を見ていた。 

    「えっと、僕達邪魔になってる?」
    「全然。今日は新入生に部活紹介するって感じだったんだけど、別にそんなに人いらないし」
    「部長なのにいいの?」
    「岩泉の方が向いてるしな」

     新入生の方を見ると、岩泉が何かを説明してるみたいだった。確かに井川もしっかりはしてると思うけど、真面目って感じではないし、正直岩泉の方が新入生に話すのは上手そう。

    「それで、平川はマネージャーにでもなりたいの?」
    「え。あー……」
    「この前もポスターについて聞いてきたし、興味あんの?」
    「……少しだけ………」

     本当は興味なんてないのに、ここに居る以上話を合わせるしかなかった。

    「えっ!マリーちゃん、マネになりたいの!?」
    「え、いや……」
    「なりなよ!というか、なって欲しい!」
    「あ、その……」

     まさか丸森が食いついてくると思わなくて、逃げ場を探すべく池田にアイコンタクトを送ると、鈍感な池田は「へー、平川ってマネージャーになりたいんだ~」みたいな顔をしていた。 

    「いや、なりたいというか……」
    「じゃあ、お試しでやってみればいいじゃん!池田っちもするよね?」
    「おっ!するわ!」

     池田に抗議の視線を送ると、池田はニコニコしてるだけで僕の考えを1ミリを理解していなかった。もう唯一の望みも無くなってしまった。 

    「なら……、お試しだけ……」
    「やったぁ!」

     何故かバスケ部のマネージャーになる流れが出来上がってる気がする……。

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