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    ytd524

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    リクエスト
    お題:喧嘩する五伏

    ※未来軸の話を含みます
    ※事変はなかったことに
    ※のばら視点
    ※伏・釘の飲酒シーンがあります

    リクエストありがとうございました!つらつらと書いてしまってすみません…

    「そういえば、アンタたちって喧嘩したことあんの?」

     なんてことはない雑談の延長であった。入学前からの知り合いであるらしい伏黒と五条に、ふと思いついたその話題を投げてみたところ、何故かひどく怪訝そうな表情を返され(五条は目隠しがあるから分からないけど)、思わず首を傾げてしまう。そうして眉間に寄ったシワをそのままに、はぁ、とため息を吐いた伏黒は「ねぇよ」とだけ口にした。そんな返しに真っ先に反応したのは虎杖だ。

    「え? ないの? 結構昔からの知り合いなんだろ? それなのに?」
    「いや、なんで驚くんだよ。てか、この人相手に喧嘩も何もねぇだろ」
    「わぁ、言うねぇ恵。ねぇ、もしかしてそれって貶してる?」
    「別にそんなつもりはないです。てか先生だって、十三も年下の相手と喧嘩することなんてないでしょうよ」
    「あっはは、確かに」

     伏黒の言葉を受けてカラリと笑うと、五条は持っていたフォークで目の前のステーキへと食らいつく。その後、慣れた様子で伏黒の皿からも一切れ取っていったかと思うと、その一切れ分を補うように伏黒もまた五条の皿からステーキを摘んだ。

    「え、なに今の」
    「あ?」
    「なんで無言でステーキ交換してんのよ」
    「同じ味が続くとすぐに飽きるんだよ、この人。俺のはバーベキューソースだから」
    「……いやいや」

     さも当然のように返され、頭の中がバグりそうになる。なんなのよこれは。普通無言でそんなことしないでしょうが。
     ただ、そんなやりとりが普通のものであるというように、二人の距離感は非常に近かった。きっと今まで気づかなかっただけで、意識したら他にも同じような行動がたくさんあるのだろう。
     ……なるほど。そんな意味不明なやり取りを当たり前にこなしているのだ、そりゃあ喧嘩も何もない。いや、これはきっと伏黒が諦めただけね。きっと自由奔放な五条の行動に対して慣れてしまったのだと、私は自分の中でそう結論づけた。

    「まぁほら、僕も大人だしね? そんな子供相手に喧嘩なんかしないって! 大人だし」
    「伏黒、よくこれで喧嘩せずにこれたわね」
    「苛つくと喧嘩はイコールじゃねぇしな」
    「それってつまり?」
    「昔はムカついて殴りに行ってたけど、毎度無下限で止められるから、そのまま疲れて寝た」
    「「あぁ〜」」
    「ほら、僕って包容力のある大人だからさ」
    「全然違います。ほら、さっさと食べて」
    「はぁーい」

     五条が最後の一切れを口の中に放り込んで、全員が一斉に立ち上がる。何故か伝票を持つのはいつも伏黒で、そのまま会計の前で五条から財布を預かって支払いをするのだから、これまた不思議なものだ。

    (まぁ、これが二人の距離感ってことね)

     ご馳走様、と心の中で軽く呟きながら、私は迷うことなく会計の前を通り過ぎ、店の外へと歩いて行った。




    「──って言ってたのはどこの誰だっけ? アァン?」
    「何年前の会話を蒸し返すんだよ。もう時効だろ」
    「歳の差が埋まってないんだから時効も何もあるわけないでしょーが!」

     ガン、とジョッキグラスをテーブルに叩きつけてやると、目の前に座る男はしかめっ面のままキュウリの浅漬けを摘まむ。昔から渋いものばっか好んで食べるやつだとは思ってたけど、いざ自分が同じような食べ物を美味しく感じ始めてしまってからは、もうそうやってからかうこともできなくなった。そうして同じ穴のムジナとなった私は、空になったグラスを持ち上げて「おばちゃん! おかわり!」と声を上げる。

    「お前の方が飲んでんな」
    「毎度毎度、話聞かされるこっちの身にもなれってんのよ。で? 今回は何が原因なの」
    「……」
    「はよ言えや」
    「……ティッシュ入れたまま洗濯機回された」
    「あー……アウトね」
    「すんません、俺にもおかわりください」

     再びなみなみと注がれたジョッキの中身を呷っていると、目の前からまた「はぁー」と深いため息が吐き出される。いいだろう、今日は許してやる。手元にずらしていた砂肝の皿を伏黒の方へと押してやると「さんきゅ」と小さく返された。

    「にしてももうどれくらいだっけ。一年経った?」
    「まだ。半年いったぐらい」
    「その期間でこんだけ喧嘩できるってんだからすごいわ、ほんと」
    「いや、あの人が壊滅的に家事できなさすぎんだよ」
    「でも五条だって一人暮らし長いでしょ。なんでかしら」
    「知らねぇよ。今までも誰かにやってもらってたんじゃねぇの」

     そう言う伏黒の表情はひどく不機嫌そうで、あぁこれは酔ってるな、と頭の片隅で思う。
     そう、高専を卒業してしばらくしてから、伏黒は五条と同棲し始めたのだ。同居じゃなくて同棲。まぁその辺りは割愛するとして、問題はその後だ。出会ったばかりの頃『十三歳差で喧嘩とかねぇだろ(笑)』とか言ってたはずのこいつらは、事あるごとに喧嘩をしては私か虎杖を呼び出すようになったのである。それだけじゃない、喧嘩の内容があまりにも幼稚なのだ。今日のはまぁ置いておくとしても、この前二人して呼び出し食らったときの原因なんて。『沸かしてた出汁をお茶だと間違われてキレられた』だ。なんだそれ。風呂でも入って忘れろ。
     運の悪いことに今日は私しか捕まらなかったらしく、久しぶりにサシ飲みをしているわけだけども、本当に人生というのは何が起こるか分からないものだと伏黒を見るたびに思う。こんなに導火線の短い伏黒に出会える日がくるなんて夢にも思っていなかった。

    「まぁでも、たまーにのやらかしなら見逃してやってもいいんじゃないの」
    「これで三回目」
    「うわぁ」
    「しかも『じゃあ恵がひっくり返して確認すればいいじゃん』ってキレられた」
    「もう一杯頼んどく?」
    「たのむ」

     早々にグラスの中身を空にしそうな伏黒を見やりながら、私もまたビールを喉の奥へと流し込む。だが、そこまで酔わない伏黒の頬が、この電球色の中でも赤らんでいることが分かってしまったため、店員にはお冷やを持ってくるように伝えた。
     ついこの前まで出張を含む任務だと言っていたし、疲れも溜まっていたのだろう。まぁここまで日頃の鬱憤を吐き出させてやったんだから、回りが早いのも仕方ない話である。若干船を漕ぎつつある伏黒を見つめながら、私は「ねぇ」と一言だけ声をかけた。

    「楽しい? 同棲」
    「……お前、俺の話聞いてたか?」
    「聞いてたに決まってんでしょ。なんのための酒だよ」
    「じゃあ分かんだろ、そんなの」
    「じゃあなんでしてんのよ、そんなの」
    「……」

     私の言葉に、伏黒はひどく不機嫌そうな表情だけを返してくる。無言を貫こうとするな、ちゃんと言葉にしろや。そう言って片肘をついて正面から向き直ってやると、伏黒は残っていたビールを全て飲み干し、テーブルに額をつけた。

    「おいこら」
    「……それこそ決まってんだろ」
    「あ?」
    「好きだからに決まってんだろ」
    「……」

     それだけ言って、伏黒は突っ伏したまま微動だにしなくなる。寝たわけではないだろうが、起き上がる気力もないほどに酔いが回ったのだろう。私は隠す気も起きないため息を深々と吐いて、残っていた塩キャベツを指先で摘まんだ。
     全くもって馬鹿馬鹿しい。これを痴話喧嘩と呼ばずしてなんと呼ぼうか。私はさっさと今日この場に引導を渡すべく、伏黒の背後、店の入り口へと向けて声を上げた。

    「──ってことなので、さっさと連れ帰ってくれる?」

     いつからそこにいたのかなんて分からない。ただ、気配を隠す様子がなくなったてからは、きっとこちらに乗り込む機会を伺い続けていたに違いない。
     私が呼び掛けたと同時にドアから入ってきた件の男は、真っ直ぐに私たちの席までやってくると「恵」と声をかけた。

    「帰るよ」
    「……なんでアンタが迎えにくるんですか」
    「出て行ったのが恵だからでしょ」

     テーブルに突っ伏したままの伏黒と、サングラスをかけたままの五条。二人の視線が合うことはなく、会話が続けられていく。その様子を、私はテーブルを挟んだ目の前でぼんやりと見守らされることとなった。

    「ティッシュ」
    「もうしない。ごめん」
    「いや、どうせしますよ。アンタのことだし」
    「はぁ?」

     おっと。案外伏黒の機嫌はまだ治っていなかったか。あの発言があったから大丈夫と思ったけれど、今日は少しだけタイミングを見誤ったかもしれない。
     このまま目の前で喧嘩をされたら面倒だなと思いながら、私は帰り支度をするため腰をあげようとした。すると、テーブルに突っ伏していた伏黒が顔を上げ、迷うことなく五条の方へと向き直った。

    「だから、次は喧嘩するんじゃなくて、一緒に洗濯し直して下さいよ」

     そこに浮かぶ表情にはもう、先ほどまでの不機嫌さは見当たらなかった。どこか不貞腐れたような、拗ねたような顔だ。私たちの前では見せないだろう、幼さが見え隠れするその表情を、五条は深いため息で持って受け止めた。

    「ごめん」
    「はい」
    「……かえるよ」
    「はい」

     言われて腕を伸ばす伏黒の体を、五条は難なく受け止めて肩を組む。そこでようやく視線をこちらへと向け「ごめんねぇ」と眉尻を下げながら言葉を投げられた。

    「いい加減落ち着きなさいよ。何回目だよこれで」
    「うん。いつもありがとねー、野薔薇」
    「あと、ティッシュ忘れるのは重罪だから」
    「え、マジ? そんなに?」

     おそらくサングラスの奥で丸くなっているであろう瞳を想像しながら、私は伝票を五条へと押し付ける。迷いなく受け取られたそれは、きっと色をつけて支払われるはずだ。だったらその分、私もきっちり飲んで帰ろうじゃないか。

    「あぁ、そうだ野薔薇。一個だけ訂正しとくね」
    「何が?」
    「僕、自分の家事くらい自分でできるよ」
    「はぁ?」

     一体何の話だと首を傾げると、五条は人差し指を立てて小さく「しぃ」と息を吐く。そうして私の脳内に、先ほど伏黒とした会話が蘇ってきた。

    『いや、あの人が壊滅的に家事できなさすぎんだよ』
    『でも五条だって一人暮らし長いでしょ。なんでかしら』
    『知らねぇよ。今までも誰かにやってもらってたんじゃねぇの』

    「……どっちもどっちね、アンタら」

     胸焼けしそうな状態を押さえ込んで吐き捨ててやると、五条はにっこりと笑顔を浮かべたまま右手をひらりと振る。そうして伏黒の体を引きずると、会計レジで渡した伝票の支払いをし始めた。
     そう、つまりこれは、甘えた同士の痴話喧嘩というやつだったわけで。
     ご馳走様、と心の中で軽く呟きながら、私は迷うことなく手元のジョッキをひと息に飲み干した。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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