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    五伏版ワンドロワンライ 第48回「嫉妬」

    ※パラレル設定
    ※支部投稿作品『絡繰街の人とヒト』の設定にて続編
    ※人間五条×アンドロイド恵

    1.5hほどかかっております、すみません…。
    多分これ単独でも読めますが、大元読んだ方がわかりやすいです、よかったらぜひ…!
    支部作品はこちらより→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15079987

    登場人物

    先生(28) ……天才科学者。アンドロイドである恵を開発し、また絡繰街の運用を機械メインにした立役者。おおよそ百年前に他界した(とされている)。
    恵(?)  ……先生によって作り出されたアンドロイドのプロトタイプ。他のアンドロイドとは違い、自身の意思を持つ。絡繰街の中に立つ時計塔の中で暮らしている。動力源はゼンマイ。見た目年齢は15歳。
    五条悟(18)……絡繰街で生まれ育った機械のメンテナンス技師。実は先生が『若返りの薬』を使って新生児まで若返り、そのまま成長した同一人物。先生であった頃の記憶はない。一人称は俺。恵が好き。



     カチカチと、歯車が噛み合い回る音が響き渡る。幼い頃、五条はあまりその音が得意ではなかった。機械特有の、正確で無機質な音。それを聞き続けていると、何故だか何かに追われるような気持ちになったのである。
     そんな音が平気になったのは、はたしていつからだっただろうか。そんなことは考えるまでもなく分かりきったことではあるが、改めてその時のことを思い出したくて、五条はひとり思い出に耽った。あの時計塔の中で、まるで人形のように座り込んでいた姿を。背中に空いた穴へとネジ巻きを差し込み、回した時のカリカリという感触を。そして開かれた瞳の奥、キラキラと輝くガラス玉に自分が映った時の興奮を。
     あの出会いの後ろでずっと鳴り響いていた音。カチカチと、歯車が噛み合って回る、時計の音。
     あの日から五条は、その音がいっとう好きになったのだ。

     絡繰街。
     人とヒトが共存する、機械によって動かされる世界。
     その街で今日も、彼らはひっそりと息をする。



    「めぐみ〜」

     鉄造りの螺旋階段を駆け上がると、足元からカンカンとリズミカルな金属音が聞こえてくる。吹き抜けになっているこの空間は音がとてもよく反響するため、五条は好んで足音が鳴るような登り方をしていた。そして今日もまた、メンテナンスという名目で時計塔を訪れた五条は、軽い足取りで最後の階段を登り終えてお目当ての姿を探す。壁一面に見える、大小様々な歯車。それらがカチカチと音を立てる中、そのヒトはまたもや作業台に突っ伏し、その動きを止めていた。
     何度言っても治らない悪癖だと、五条はため息混じりにカバンから取り出したネジ巻きを服の下に隠れている穴へと差し込む。カリカリ、カリカリと音を立てながら回るそれは徐々に抵抗が大きくなり、やがてカチ、という音と共に終わりを伝えてくる。これ以上回らないことを確認してから引っこ抜くと、倒れ込んでいた上半身がゆっくりと持ち上がり、真っ直ぐに直った。そうして閉じられていた目蓋が開かれると、いつものようにその表面へと五条の姿を映し、パチ、と視線が合う。

    「……おはようございます、五条さん」
    「うん、今度は何してたの」
    「昆虫型ロボットの調整です。この前、久々に鳥のロボットに触れたので、油が悪くならないうちにと思って」
    「そっかぁ。でもそれさぁ、夜通しでゼンマイ切れるまでやることだったのかなぁ」
    「でも、切れてもまた五条さんがネジ巻きしてくれますし」
    「……はぁ、いいよもう……」

     相変わらずの問答にため息を吐くと、五条はそのまま床にしゃがみ込む。そして、こちらを見下ろしてくる瞳を見上げながら口元に笑みを浮かべ、改めて言葉を発した。

    「おはよ、恵」
    「? おはようございます」
    「はは、律儀」

     どこか不思議そうな様子を見せるそのヒトに声を上げて笑い、五条は目元を緩める。
     今日もまた、このアンドロイド──『恵』との一日を迎えられるのだと、喜びを噛みしめながら。



    「にしても蝶のロボットなんて珍しいね。初めて見た」
    「そうですね。鳥型よりも造りが難解ですし、特に実寸サイズは現存するものも少ないと思います」
    「だよねぇ、だってその小ささで飛ぶんでしょ?」
    「飛びますね」
    「……ねぇ、もしかしてそれも?」
    「? あぁ、はい。先生が造ったものです」
    「へぇー……」

     返答を聞き、途端に声音を低くした五条に対し、恵は怪訝そうな表情をしてみせる。だがそれもすぐに元へと戻り、手元のロボットへと集中し出してしまった。

     ──まただ。また『先生』。

     思わず口をついて出そうになる言葉をグッと飲み込み、五条は恵の手元へと視線を向けた。先ほどまで行っていた会話などはもうすっかり頭の外なのだろう。いや、その言い方は正しくないだろうか。だって相手はアンドロイドだ。頭の外というより、つまりはそう、『モードが切り替わった状態』なのだろう。今、彼は手元のロボットを直すことだけに処理能力を全部傾けている。だからこの作業が終わるまでは五条のことなど見向きもしないのだ。
     それはアンドロイドとして当然の動きであるし、今までもずっとそうだった。だがそれでも、五条の中のモヤモヤが晴れることはない。

     ──もしかして、『先生』が造ったロボットだからそうなんじゃないか。
     ──もしかして、『先生』が相手だったらこうならないんじゃないか。
     ──『先生』 、『先生』。

    「〜〜っ、あー、もう!」

     頭の中でグルグルと巡っていく思考回路に、五条は思わず声をあげてソファへと身を投げた。そんな大袈裟な行為にだって恵は無頓着だ。手元のロボットを直し切るまで、彼の『モード』が切り替わることはない。そんな行動ルールだって、製作者である『先生』が組み立てたものだろう。それを思ってしまうと、出会った頃から変わらないその行動基準さえもがひどく恨めしい。
     乱雑に頭を掻きむしると、五条は提げていたショルダーバッグから小さなロボットたちを取り出す。そしてソファに仰向けになりながら、取り出したソレのメンテナンスを開始した。

     今日の顧客は五条の昔馴染みであった。機械だらけのこの街で、機械を頼ることなく自らの体で行動を繰り返し『変わり者』だと言われ続けた五条にとっての、唯一の理解者。一緒に走り回ることはなかったけれど、同年代よりも飛び抜けた知能を持っていた五条にとって、その人と話す時間は非常に有意義なものであった。
     そんな人から依頼された、ロボットの修繕依頼。手のひらよりも少し大きなその機械は、五条が初めて造った『自立型ロボット』であった。とはいえ、アンドロイドのような知能も技術も持ち合わせていない、ちょっとダンスができる程度の愛玩用だ。今となっては非常に拙い出来であるそれを、五条の古い知己は大切に保管し続けているのだ。そして、少し動きが鈍くなったりすると、五条本人にメンテナンスを頼むのである。
     そんな手塩にかけてきたロボットだ、寝転がりながらのメンテナンスなんて屁でもない。細長いドライバーを関節部分に差し込むと、カチャカチャと部品のぶつかる音が聞こえてくる。手に伝わってくる振動に意識を向けていると、徐々に回っていた思考も穏やかになっていった。白く塗りつぶされ、何も考えが浮かばなくなる感覚。それこそが『集中している』という状態で、意外と五条はそんな時間を好んでいた。自宅では寝食を忘れて作業に没頭してしまう日があるほどである。
     だから今日もまた、五条はぼんやりと、何も考えられなくなるその感覚に身を任せながら手を動かし続けた。

     カチャカチャ、カチャカチャと。
     だが、その音は唐突に遮られることとなる。

    「五条さん」
    「っうわ!」

     持ち上げたロボットの先、突然現れた恵の顔に五条の集中は一瞬で途切れる。ついて出た叫び声はひどく間抜けな音をしていて、思わず手を離してしまったロボットは真っ直ぐ五条の顔へと落ちてきた。

    「っ……い、てぇ……!」
    「大丈夫そうですね」
    「いや、大丈夫なわけないじゃん! 目にぶつかってたら大変なことじゃん」
    「? ぶつかってませんよね」
    「そうね」
    「なんで怒ってるんです?」

     理解ができないと首を傾げる恵に、五条は涙目になった顔を両手で覆い隠す。落ちたまま放置されていたロボットはソファとの隙間に転がっており、恵は迷うことなくソレへと手を伸ばし、拾い上げた。そうして繁々とロボットを見つめると、こてん、と首を傾げて「五条さん」と声をかける。

    「これも、メンテナンスの仕事ですか」
    「あァ……? うん、そー」
    「工場で作られていない、ハンドメイドのロボットですよね」
    「そうねー」
    「五条さんが造ったんですよね」
    「そうー……えっ」

     会話を続ける中、突然突かれた核心に五条は隠していた両手をどかして恵のことを見上げた。恵の視線は手元のロボットに向けられたままで、五条の方を向くことはない。だが、その表情はひどく優しい顔で、思わず五条は目を開いたままゴクン、と喉を鳴らしてしまう。

    「丁寧なメンテナンスですね。細かいところの部品交換までちゃんとしてある」
    「……なんで、俺が造ったってわかったの?」
    「? だって、五条さんらしいじゃないですか。ここの組み立て方とか、あとはこっちのバネの通し方も。あ、ここのネジ、五条さんが好きで使ってるA Kタイプのものですよね」
    「……それだけで……?」

     このロボットを造ったのは、五条が恵と出会って一年経ったかどうかといった頃であった。ロボットのことを知るために造った、今となってはこんな組み立て方などしないであろうというほど拙いもの。それを恵は迷うことなく言い当てるのだ。
     それがアンドロイドゆえの知識だと分かっていたとしても、こんなにも嬉しいと感じてしまう。

    「でも、ここの欠けは早めに直した方がいいです。五条さんの目では難しいでしょうし、このまま俺がやりますね」
    「っ、それはダメ!」
    「え?」
    「そのロボットは、俺が初めて造ったやつだから。だからこれは、俺だけでメンテするってアイツと約束してんの。だからごめん、ダメ」
    「……」

     そう言いながら、五条は手を伸ばして恵からロボットを受け取ると、再びメンテナンスの箇所を探り始める。先ほど指摘を受けた場所はどのあたりだろうか。おそらくこの部品のことだろう。であればいっそ新しいものに全交換してしまって──。
     そんなことを考えながら、五条はふと視線をロボットから離し、そして絶句した。思わずロボットを持ったままの手が固まり、なんなら息だって止まりかける。ポカンと間抜けな顔をしたまま見上げた先、恵の顔には、今まで見たことのないような表情が象られていた。

    「……え?」
    「なんですか」
    「いや、こっちが聞きたいんだけど」
    「知りません」
    「……なに、その顔」
    「知りませんよ。感情については五条さんの方が上手でしょう」
    「いや……え?」

     言いながら思わず上半身を起こし、五条はソファに座った体勢で再び恵のことを見上げる。視界に映るその顔に宿る感情は、そう。まるで先ほどまでの自分を見ているようで。

    「……こっち、座る?」
    「座りません」
    「えぇ……」
    「俺、時計のメンテナンスするんで」
    「そんなの後でいいじゃん」
    「ダメです」
    「なんでよ」

    「これは、俺と五条さんだけでメンテナンスしてるから。五条さんがいる時にやらなきゃ、ダメなんです」

    「……は」
    「だから五条さんも。そんなロボットよりも先に、こっち来てください」

     そう言うと、恵は先ほどまでの表情が嘘のようにいつもの顔に戻ると、壁に広がる時計へと向かいあい、歯車の噛み合いを調べ始めた。その後ろ姿を見つめながら、五条は無意識に自身の頬へと右手を伸ばす。鉄を触り続けて冷たくなりつつあった指先に、伝わる熱は焼けるようにあつい。
     信じられない。だって今の言葉も、表情だって、それが表すものなんて、一つしか思い浮かばない。

    「……はぁぁ……もー……」

     溢れでたため息を隠すこともできないまま、五条は手元のロボットを再びショルダーバッグの中へと仕舞い込む。そして、これのメンテナンスはこれからも絶対ここ、時計塔の中でやろうと決めるのであった。
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    ytd524

    DONE※ほんのり未来軸
    ※起伏のないほのぼのストーリー

    伏から別れ切り出されて一度別れた五伏が一年後に再結成しかけてるお話。
    akiyuki様が描かれた漫画の世界線をイメージしたトリビュート的な作品です。
    (https://twitter.com/ak1yuk1/status/1411631616271650817)

    改めまして、akiyukiさん、お誕生日おめでとうございます!
    飛ばない風船 僕にとって恵は風船みたいな存在だった。
     僕が空気を吹き込んで、ふわふわと浮き始めたそれの紐を指先に、手首にと巻きつける。
     そうして空に飛んでいこうとするそれを地上へと繋ぎ止めながら、僕は悠々自適にこの世界を歩き回るのだ。
     その紐がどれだけ長くなろうとも、木に引っ掛かろうとも構わない。
     ただ、僕がこの紐の先を手放しさえしなければいいのだと。
     そんなことを考えながら、僕はこうしてずっと、空の青に映える緑色を真っ直ぐ見上げ続けていたのだった。



    「あっ」

     少女の声が耳に届くと同時に、彼の体はぴょん、と地面から浮かび上がっていた。小さな手を離れ飛んでいってしまいそうなそれから伸びる紐を難なく掴むと、そのまま少女の元へと歩み寄っていく。そうして目の前にしゃがみ込み、紐の先を少女の手首へとちょうちょ結びにした。
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