「恵さん、お願いがあります」
「帰っていいですか」
「いや、せめて聞くだけ聞いてよ」
「いや、すげぇ嫌な予感がするんでマジで聞きたくないんすけど」
「悟ってさぁ、Sから始まるじゃないですか」
「聞けよ」
「そんでね、恵はMから始まるわけですよ」
「いや、マジで帰っていいですか」
「恵」
「っうるさ、」
「SMプレイしよう」
「いやぁ、だってすごくない? 悟と恵だよ? 生まれた時からSとMなわけよ、分かる? 気づいた時僕、自分のこと天才だと思ったね! そんなのもうするっきゃないでしょ! やるでしょ、そりゃあ!」
「いや、やりませんよ なんですかそのこじづけ!」
「こじづけじゃなくて事実です〜!」
「今日日小学生すらしねぇよそんな発想……っ、ちょ、何すんですか!」
「いやぁ、でもさぁ。僕自身は別にサドっ気があるわけじゃないじゃん? 恵のこと痛めつけるとか、考えただけでぞっとするし」
「…………」
「え、何その目」
「その言葉、五年前の自分に言ってもらえますか?」
「五年前?」
「初めて俺を任務に同行させた時」
「…………」
「…………」
「…………だからやっぱりさぁ、ムチとかそういうのはないよなぁって」
「おいコラ」
「ってなるとやっぱこれだよね! ほいっ」
「は? いや、ちょっ、はや、早いな っくそ!」
「うわ、思ってたよりも絵面やばいね。写真撮っとこ」
「……」
「っちょ、いた! 痛いって! 容赦ないな」
「うるせぇ! だったらこれ外してくださいよ……っ、あ」
「あーあ。足癖悪いのは関心しないなぁ」
「っ、はなし……うわっ」
「はい、完成〜! これで手足どっちも使えませーん」
「…………」
「うわ、すっごい冷たい目」
「アンタの趣味の悪さにドン引きしてます」
「趣味じゃないよ、SMプレイだよ」
「一緒ですよ、バカ」
「で」
「ん?」
「どうすんですか、この後」
「どうするって?」
「いや、手足後ろで縛って転がされて、一体どうするんですかっていう」
「……」
「……」
「…………ん?」
「いや、ん? じゃねぇよ」
「ねぇねぇ、そもそもSMプレイって縛るとムチ以外に何があると思う?」
「十五歳にそれ聞きますか? 知るわけないでしょ」
「ロウソクとか?」
「絶対ぇヤです」
「網タイツにハイヒール?」
「それ、やるとしたら着るの五条先生ですからね」
「……えっ?」
「待ってください、なんでそんな目ぇ輝かせてんですか。いや、携帯を取り出すな。いや、ちょ、やめろ! 開くな! ショッピングサイトを! 開くな!」
「手持ちの物じゃプレイが進められない件について」
「よかったですね、やめましょう」
「えー、こんなのまだ始まってもないじゃん! やめるわけないでしょ? やるでしょ!」
「なんでまだ飽きねぇんだよこの人」
「あっ」
「なんですか」
「あるじゃん、手持ちの物! SMプレイにぴったりの物!」
「なんの話──」
「ジャン」
「……」
「五条先生愛用のアイマスクでぇ〜す!」
「……」
「え、反応薄くない? SMプレイといえば目隠しは基本でしょ?」
「……はぁ」
「ちょっとちょっと、さっきまでの勢いどこいったのさ」
「疲れたんですよ……もういいです、さっさと終わらせましょ。はい、つけてください。俺今手ぇ動かせないんで」
「……」
「なんですか」
「今更なんだけど」
「はい」
「自分じゃ何もできない恵って構図、かなりクるね」
「訂正します。さっさとこれ解け馬鹿野郎」
「さぁ、というわけで目隠しも終えたわけだけど! 恵くん、今の気持ちは?」
「なんでこんなバカなことしてんだろうって思ってましたが、今は無ですね」
「うーん、もうちょっと盛り上がると思ったんだけどなぁ。やっぱ事前知識と準備がなきゃどうにもならないものなんだね」
「いえ、そもそも俺たちに合ってないんですよ。もう二度と金輪際SMプレイはやめましょう」
「悟と恵なのに?」
「悟と恵でもです」
「恵、もっかいいって」
「言いませんのでボイスメモは切ってください」
「ちぇーっ」
「……」
「……」
「……先生?」
「……え? 五条先生?」
「いや、いますよね? 物音しませんでしたし……え?」
「いますよね?」
「五条先生……?」
「悟さn」
「はいはい悟さんいます! いますよ悟さん」
「うっ……るさ……」
「え、ねぇねぇ恵寂しかった? 不安になった? ねぇねぇ」
「いや、やるならドア閉める音くらい立てないと意味ないですよ」
「えー。でもそれじゃあ恵の寂しがってるところ僕が見れないじゃん。意味ないじゃんそんなの」
「そうです、意味ないんです。なのでもうやめましょうね」
「はーい」
「……」
「……え、待って。マジで寂しかった? え、マジで」
「はーっ、難しいなぁSM。ん、なになに、どうしたの手首なんか見つめて」
「……あんだけしっかり結ばれてたのに痕ひとつ残ってねぇ……」
「そりゃ、恵の肌傷つけるわけにはいかないでしょ」
「うわ……」
「待って、マジのドン引きはやめて。泣くから」
「ていうか、そもそもこういうのって俺たちみたいなのがやることじゃないでしょ」
「ん?」
「普通は恋人とか、なんかそういう嗜好の人同士でやるものなんじゃないですか。なんで俺とアンタでやるんですか」
「悟と恵だから」
「もう復唱しませんよ」
「ちぇっ」
「少なくとも、教師と生徒じゃやりません」
「えー」
「なのでもうこれは捨てましょう。ほら先生、縄ください」
「ねぇ」
「なんですか」
「理由があればいいってことだよね?」
「は?」
「こういうことする理由がさ、僕と恵の間にあればいいんでしょ?」
「……」
「ねぇ」
「縄」
「めぐみ」
「早くよこせって」
「作ろうよ、理由」
「っ……放して、くださいよ」
「離さないよ」
「……」
「もう僕は縛ってないんだから。嫌なら、自分から放して」
「……」
「恵」
「……はなせるわけ、ないじゃないですか」
「……うん」
「何笑ってんですか」
「めぐみぃ」
「……」
「すき」
「……しってます」
「知ってたかぁ」
「じゃあ、SMプレイ再開する?」
「それはしません」
「えっ」
「ほら、縄捨てますよ」
「えーっ、えーっ アーッ!」