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    綾崎寝台

    @kopa382

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    綾崎寝台

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    この前の月食ネタ捏ねてたらドナジル出来た!
    付き合ってはいそうなドナジルで、ちょっとセンチメンタルなジルとドナとお月様のお話。



    月といえば、かの文豪のあの言葉とその返しが私は好きなんだよ!っていう気持ちが最後を占めてる。

    月の温度月が見えた。
    月食の月だ。

    太陽の光を反射した薄ら白い筈の月が、時間と共に徐々に欠けていき、やがて完全に赤黒い色に染まっていくのが見えた。

    ジルはその月をひとり不愉快そうに見ていた。




    月食、太陽と地球と月が一直線上に並ぶことによって、地球の影が月に届くはずの太陽光を遮って起きる現象だ。

    ソリッドクエイク社のデカダンスにおけるエリア内に投影される夜空にも、月食は反映される。
    勿論、大気が汚染されている今の地球のそれを映す訳にはいかないので、月は清浄な大気を演算された結果の光の加減で夜空に投影されて浮かんでいるのだが。

    そんな事を深く考えもせず、デカダンスシティでは人々が何年だかに一度の見物だと大騒ぎしながら、皆空を見上げていた。

    ジルはその喧騒から離れたデカダンスの中央部、現在は崩壊の危険から一般人が立ち入り禁止されている旧デカダンス要塞の外壁上部にいた。
    月食を見る為ではない。誰も来ない所に来ただけなのだが、結果的に月のよく見える所に来てしまっただけなのだ。

    権限を利用して立ち入り禁止区域に来ているギアが少しばかり居るかと思っていたが、少なくとも視界内にひとりも見当たらないのを意外に思いながら、ジルは欠けていく月を眺めていた。

    「………まるで、サイボーグみたいですね」

    仄かに輝く月の光は太陽のそれを反射しているだけのもの、それを思い出してジルは呟く。



    サイボーグは、元を辿ればタンカーと同じ人間だった。だが、その生きていた人間の精神を、人工知能に宿らせ、冷たい機械の体を動かしているにすぎない。
    人間とは違う。綿密な演算に長け、微細な行動が可能、そして何よりシステムに忠実だ。

    言ってしまえば、機械なのだ。人間の真似事をしている偽物の生命なのだ。

    そのサイボーグが、素体なんて人間に似通ったものを操作して『生きている』実感を得ようとしている、だなんて、太陽の光を反射して恒星のフリをしている月のようで、滑稽だと思った。

    …ああ、だからこそ、あのカブラギという男は太陽のようなあの人間の少女にひどく惹かれたのだろう。
    明るい髪の色も、暖かく元気な言葉も、日差しのような真っ直ぐな思いも、太陽のようで眩しい。三年でそれをよく見てきたからわかる。
    あれは確かに『生きている』という気持ちにさせられるし、彼女のあの輝きをこれからも願いもするだろう。
    …だからといってあの男と違って、自分はあそこまでの入れ込みは決してしないだろうが。

    だが同時に、『自分』が偽物なのだと知らしめられた。

    どんなに素体で人間ぶったとしても、取り返しの効く体で活動するサイボーグと、一つしかない体で懸命に生きている人間とでは、そもそもの生命に対する考え方も立ち位置も違うのだ。

    それこそ、この月食で見えた赤黒い月のように、一皮下にある醜く冷たい基盤を『生命のフリ』で生き物のように見せかけた機械がいるだけなのだ。



    「嫌になりますね…」

    崩壊して高さが低くなったとはいえ、それでも高所には違いない要塞の外壁を風が吹き抜けていく。ジルは寒さ対策に服を重ねて着ていなかったので、自身の肩を抱きしめた。

    普段の自分なら頭の一片にも考えもしない事が思考回路に浮かんでいく。
    …認めたくはないが、マイナスな思考になっている原因となった事象は解っているつもりだ。


    一時間程前、ジルは月食イベントで賑わうシティの一角でドナテロを見かけたのだ。
    ドナテロは顔を赤らめた必死の様子のタンカーの女性に話しかけられ、彼は困った様に話を聞いていた。

    それだけ、といえばそれだけなのだ。
    だが自分はその顛末を見届ける事なく、逃げた。

    『生』の一瞬一瞬を輝かしく生きている彼女達に、バグの研究だけを目的にただひたすら長く存在しているだけの『生きていない』自分は敵わないのだと、そう思ってしまった。
    真昼の太陽は誰しもがその恩恵に喜ぶが、昼間の薄っぺらい月になんて誰も意味を見出さないのと同じように感じたのだ。

    特にドナテロは、面白い物や派手な物等の自分の興味を引く物事を好む性格だ。
    そんな彼は変化に富む『生きている』者の方を気に入るだろう。

    自分は、彼にとって価値のある何かになり得ない。

    そう思うと、ジルは自身のコアが軋んで傷んだように感じたのだ。


    そうして、通信の着信をオフにしたまま、こんなところまで来てしまったのだ。
    素体の自室に帰るなり、ログアウトするなりしても良かったのだが、誰かが訪ねてくる可能性があるのを考えると、その手段はとりたくなかった。


    一人になりたかった。


    己に自信が無くて逃げた。
    なんて女々しいのだろう。
    自分らしくない。


    自分に対して嫌悪を抱いていると、いつの間にか月からは赤色が失せており、普段の淡い光が端から姿を見せていた。
    シティも月食の終わりによって、馬鹿騒ぎも終わりつつあるようだった。

    ドナテロと、あの女性は、どうなったのだろう。

    …どうせ、彼の事だ。
    人間の女性に対して乱暴な真似はしないだろうが、淡白に告白は断っただろう。
    そして、何も考えずに月食イベントを楽しんだに違いない。

    勝手に感情に振り回されて、最悪な気分になっている自分とは天と地の差だ。

    ああなんて、自分は、

    「馬鹿なんでしょうね」
    「本当にな」

    「…っ!?」

    今、まさに考えていた人物の声に驚いて振り返ると、想像した以上に至近距離にドナテロが居た。高所の絶え間ない風の音で接近に気が付かなったのだろう。

    「ジルちゃん、こんな高ぇートコに薄着でいるなんて、頭良いのにバカだろ」
    「なん、で、アナタがここにいるんですか」
    「あ?連絡しても繋がんねーから物理でここまで来たからに決まってるだろ」

    やれやれとでも言うように肩を竦めながら、ドナテロは彼の着ていた上着を自分に羽織らせてきた。

    此処は立ち入り禁止区域なのだとか、そもそも自分がいる所に当てがあったのか、だとか。
    ざっと考えるだけで彼に聞きたい事は山のようにあった。
    だが、要するに彼は

    「私を探していた、んですか」
    「そーだよ」
    「どうしてです」
    「ああ?」

    「…私が居ても、つまらないでしょうに。
     人間の方が面白いでしょう?」

    不貞腐れたような物言いになった自覚はあった。人間の眩しい生き様と自分を比べていて、気が滅入っていた、なんて言える訳も無いのだけれど。

    「ジルが居なくちゃよ、
     俺が面白くねーんだよ」

    当たり前の事のようにドナテロが言い放つ。
    強く風が吹いているのに、不思議なくらい彼の言葉は真っ直ぐに自分の耳に届いた

    「つまんねーからよ、勝手にどっか行ってんじゃねぇよ」
    「…なんですかそれ。私、アナタの所有物じゃないんですけど?」
    「お前も俺もモノじゃねぇよ。だからジルちゃんが俺に付いて来ればいーんだよ」
    「なんで私がわざわざ付いていくんですか。嫌に決まってますよ」
    「だから今日、俺がわざわざ来てるんだろーがよ!
     あと、寒ぃから降りるぞ」

    そう言いながらドナテロは自分の手を掴むと昇降機のある方へと引いた。

    自分よりも幾周りも大きな紫の手がやけに暖かく感じた。

    「冷てぇな」
    「ずっと此処で月を見てましたからね」
    「もっと厚着して来いよ」
    「…思い付きで此処に来たもので」
    「次は呼べよ」
    「…はい?」
    「次の月食は一緒に見てやるって言ってんだよ。こっちは走り回っててマトモに月なんか見てねーんだよ!」

    勝手に機嫌を損ね始めたドナテロに思わず眉間にシワが寄る。
    だがそれ以上に気になる事がある。

    「次?次の皆既月食が何年後だと思ってるんですか?」
    「何年後だって一緒なんだからいいじゃねーかよ!どうせその間もお前が居たら退屈しねーんだ、構わねぇじゃねぇか」
    「なんでアナタは…恥ずかしげなくクサイ台詞を言えるんですか」
    「事実だろうがよ」
    「ほんっと馬鹿じゃないんですか」
    「バカでいーんだよ。難しいコトはジルちゃんがやってくれっから」

    昇降機手前でいつものような言葉の応酬をする。

    このやりとりを、ドナテロは次の月食の時も自分としたいのだろうか。
    次の月食を彼と見たら、きっと彼は喧しい事この上ないのだろう。


    だが、自分はそれを楽しみに『生きて』みたい。


    夜空が映し出されたドームを見上げると、太陽の光を淡く反射した月が描写されていた。




    「………月が、綺麗ですね」


    「…ああ、死んでも構わねぇと思うくらいには、綺麗だな」




    偽物の自分達が、作り物の月を見上げて、偽りの感情を語らうなんて、笑い話のようだ。

    それでも私と彼が此処に居るのは事実で、彼の手のひらの暖かさは本物なのだ。



    そう思うと、月の冷たくて暖かい光も悪くないように思えた。






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