【剣伊】さよならいつか がっかりしたでしょう、と己のマスターとなった少女はどこか申し訳なさそうに云った。
「何が?」
「ここにはまだヤマトタケルはいないから」
「そうなのか」
ここはカルデア。自分のマスターとなった少女の所属する組織、とでもいうのだろうか。彼女のサーヴァントとなった俺はこれからここで過ごすことになるという。
案内するね、と連れ出された館内は見たことのないものばかりで、あいつがいたら目を輝かせてすぐにあちこち駆けて行って見失ってしまいそうだ、なんて思って頬が緩んだのも束の間、どうやら彼はここにはいないらしい。
ヤマトタケル。
心の中でそっとその名をなぞる。
かつて自分は彼のマスターとして彼と共に在ったのだという。そんな自分が今度はサーヴァントとして現界し、かつての江戸とよく似た場所で彼と再び巡り合ったのだから、なんだかおかしな話だ。
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