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    hiyori_HAL

    TRPG自宅、うちよそのやつ。基本的にネタバレの海。

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    hiyori_HAL

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    ステガノげんみ❌
    ラストグラスお返しの夏色の独白文

    飲み干したそれはあなたが笑っている日常の味がするカクテルに詳しくはない。むしろ、外で食事をする、お酒を飲むという行為は控えていた。気が付いたら、バーのようなところにいたのには少し驚いてしまったが、ああ、こういう夢もあるのだと周りに客もバーテンダーもいない様子を見て納得した。夢なのか現実なのかはいっそどうでも良く、無人であるということに対して少しの安堵感を覚えてしまう。
    ただ、カウンターテーブルに置かれたコースターの名を見て、また先ほどとは違う感情が芽生える。

    「留依」様から 「夏色」様へ。

    るい先生の名前がある。安心感、妙な居心地の良さは、僕の嗅覚にこびりついた消毒液の匂いをどこからともなく感じとった。ここは、あの落ち着く保健室ではないのに。
    どうやらここはバーさながらカクテルを飲める場所らしく、僕のためにカクテルが用意されているというのは手に取るようにわかった。
    カクテルには、詳しくない。少し、勉強しようかと思った。るい先生は僕と違って社交的だから、きっとこういうおしゃれなバーにも精通しているだろうし、いいお店も知っているのかもしれない。僕がそこに行くことは、きっとないのだけれど。でも、コースターの名前を鵜呑みにするのであれば、どうやらるい先生は僕に一杯奢ってくれるらしい。
    カクテルには詳しくないが、備え付けられたノートを確認すれば、それを教科書に見立てて、ある程度の意味を理解することは可能だった。
    美しいグラスは、「幸福」を意味している。
    ラストグラスと呼ばれるらしいカクテルの下に意味を添えられた紙は水分で滲んでよく見えなかったが、目を凝らせば、解読はできた。
    「あなたはわたしのそばにいて」。
    素直に言えないことを、カクテル言葉にして託すというのは、知識として知っている。偶然か必然か、彼がこめた想いが水分に滲んでしまっているというのは、なんだか本心が読み辛かったるい先生を彷彿とさせて、ああ、間違いなくこの人が残してくれたカクテルなのだろうと思う。
    僕とるい先生はまるで違う。人間無人島のような性格の僕に対して、るい先生は生徒からの信頼も人気もあって、でも、それでも僕をそばにおこうとしている。おいてくれようとしている。きっと本当の意味で理解し合えるのが、お互いだからだ。本当の自分を曝け出して、理解して、受け入れてもらえるのはなかなか難しい。理解と受け入れることは違うのだから。そこにはどうしたって、尊重し合えるものがないといけない。
    僕は、るい先生を尊敬している。僕とは全然違うから。ああでも。憧れとは違うのだろう。
    るい先生もまた、僕の性質を理解して、受け入れてくれている。尊重してくれている。
    それって、普通に生きているだけでは手に入れ難い、大切な関係だと思うから。この関係の名前をつけるとしたら、僕にはその判断材料がまだ足りないのだけれど。友人よりは上でいいのかもしれない。今度るい先生に聞いてみようかな。
    あたたかい味がするカクテルは、まるでるい先生みたいで、お昼の保健室の味がした。
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