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    はなねこ

    胃腸が弱いおじいちゃんです
    美少年シリーズ(ながこだ・みちまゆ・探偵団)や水星の魔女(シャディミオ)のSSを投稿しています
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    はなねこ

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    シャミプチオンリー新刊のおまけ本のサンプルです。ミオリネに生えちゃった猫耳を引っ込めようとするシャディクのおはなしです。
    成人向けですがサンプルは健全パートです(スレちゃんとサビ先生のパートです)

    #シャディミオ

    キャラメリゼキティ 窓から見える空は雲ひとつなく、『天高く』という言葉の通りどこまでも青く澄みきっています。ソアリングをする鳥達さながらに、学校全体が祭りに向かって上昇していくような――ロッカーの内側からも立ち込める熱気とざわめきに、肌がちりちりします。段ボールや模造紙やスプレー缶で埋め尽くされた廊下をえっちらおっちら駆け抜けて、たどりついた保健室。失礼しますと入室の言葉をそえるのも忘れて、わたしはガラリと戸を開けました。
    「サビーナ先生! サビーナ先生、たいへんですっ!」
     保健室の中ほどに置かれた丸テーブルに腰を下ろして、何やら難しそうな書類をまとめていたサビーナ先生が、顔を上げてわたしに視線を向けました。
    「二年三組出席番号三十一番スレッタ・マーキュリー、廊下を走るな……と言いたいところだが、どうやら緊急事態のようだな。君の背中で眠っているのは同年同組出席番号三十六番ミオリネ・レンブランに見えるが……」
    「ミオリネさんです!」
     少しばかり前のめりになって、わたしは大きく頷きました。
    「見ての通り猫耳が生えちゃってますけど、間違いなくミオリネさんです!」
     あと一週間で文化祭が始まるため、昨日から午後の授業は文化祭準備に割り当てられています。わたしが所属する二年三組はクラス企画としてフルーツポンチのお店を開きますが、他にもゲーム大会を開催したりフリーマーケットやフォトスタジオを開いたりと、それぞれのクラスが様々な企画を予定していることもあり、準備期間中の校内は制服や体操服、ジャージだけでなく様々な格好をした生徒でいっぱいになります。
     わたしは制服のシャツの上からジャージを羽織り、ミオリネさんは脱いだカーディガンを腰に巻いていました。動きやすいように髪をおさげにしています。ミオリネさんの頭に生えた白い猫耳も、おそらく準備期間中でなければ奇抜なものに見えたかもしれませんが、文化祭の準備でにぎわう校内では仮装の衣装のように見えて、それほど目立ちません。
    (ちなみに三年生はクラス企画を行わないため、一、二年生が準備をしている時間は自由時間となり、文化祭当日も自由参加になります)
    「ふむ」
     椅子の背にもたれかかるようにしてサビーナ先生が腕を組みます。
    「文化祭の準備が始まってから切創、擦過傷、打撲傷等々を拵えてくる生徒は少なくないが、猫耳の症状を申告されたのは初めてだ。君の狼狽ぶりから察するに、その猫耳は文化祭仕様で装着したものではないということだな。とりあえずベッドに寝かせてやれ」
    「はい。ミオリネさーん、お布団ですよう」
     くるまってくださーいと、わたしは窓側のベッドへミオリネさんを寝かせて、腰に巻いたカーディガンをほどいてから掛け布団を被せました。ミオリネさんが寝苦しくないようにリボンを外し、シャツの襟もとをゆるめます。カーディガンとリボンをベッド横の脱衣カゴへ入れ、間仕切りのカーテンをそっと閉めました。
     くるりと回れ右をします。ここへ座れとでもいうように、サビーナ先生が目顔で指し示した椅子に座りました。
    「猫耳だけでなく猫しっぽも生えているようだが、何があった?」
    「ええっと、話せば長いのですがどこから話したものか」
     何かを説明するのは、ちょっぴり苦手です。わたしは肩をすくめました。
    「かいつまんで頼む」
     かいつまむ?
     かいつまむ、かいつまむ……。
    「お土産のキャラメルを食べたら、ミオリネさんにいろいろ生えてきちゃったんです!」
    「かいつまみすぎだ」
     丸テーブルを囲んで斜向かいの位置にいるサビーナ先生が、わたしに視線を据えながら、つと眉根を寄せます。叱られているわけではないのですが、何だか叱られているような気がして、わたしはオドオドしていましました。
    「はわわ」
     ドキドキする胸を片手でおさえて、十数分前の記憶をたどります。
    「えっと、あの、わたし達、教室で文化祭の準備をしながら、おねえ……姉からもらったキャラメルを食べていたんです。そしたら急にミオリネさんが猫ちゃんに……!」
     八つ年上の姉が、出張先で買ったお菓子――お友達と食べなよと渡された生キャラメル。ローストしたナッツやドライフルーツが入っていて、わたしもミオリネさんもおいしくいただいていたのですが、お口をもぐもぐさせていたミオリネさんの頭から突然にょきっと猫耳が生えてきたのです。「な、なによ、これ!」と、びっくりしたミオリネさんはそのまま気を失ってしまうし、わたしもどうしたらいいのか分からなくて、とにかくミオリネさんをおぶって保健室へ駈け込んだ――という次第です。
     キャラメルか……と、つぶやいて、サビーナ先生は言葉を継ぎました。
    「君は何ともないのか?」
    「あ、はい。わたしは何とも。それよりそれよりサビーナ先生、どうしましょう。ミオリネさん、このままずっと猫ちゃんのままなのでしょうか!」
    「落ち着け。そうだな……。そのキャラメルの成分が記されたもの――たとえばキャラメルが入っていた箱を持っていないか? 食品表示や注意表記があるかもしれない。持っていたら見せてくれ」
    「あ、あります! これです、どうぞ!」
     ジャージのポケットに入れていたキャラメルの箱を取り出し、サビーナ先生に差し出します。
    「ありがとう。ふむ。一見したところ普通のキャラメルの箱に見えるが……」
     黒猫のシルエットとお花が描かれた箱をひっくり返すと、サビーナ先生は印刷された食品表示へ目を落としました。べっこう飴の色をした瞳が文字を追います。
    「なになに――『本商品は特殊なハチミツを使用しております。体質によっては、ごく稀に猫耳や猫しっぽが発生することがあります』」
    「た、たいしつ?」
     ガムやチョコレートの中には、一度にたくさん食べると、体質によりお腹がゆるくなるものがある……という話を聞いたことがあります。実際にそういった注意書きを読んだこともありますが、猫耳が生える(かもしれない)ハチミツなんて話は初めて耳にしました。
    「どんなハチミツだと言いたいが、つまり彼女は、猫耳が生えやすい体質だったというわけか―ん?」
     何かに気づいたかのように、サビーナ先生の、かたちよく整えられた凛々しい眉がぴくりと動きます。
    「サビーナ先生? どうかしましたか?」
    「この箱、二重になっている。ふたの底が外れるぞ」
    「ええっ!」
     サビーナ先生の手の中で、ふたがぱっくり割れました。
    「内側に何か書かかれているようだが……」
     わたしの位置からはふたの内側が見えませんが、そこに書かれているという『何か』を読むサビーナ先生の表情がどんどん険しくなっていくのが、見ていて分かりました。サビーナ先生の顔つきからは、芳しいことが書かれているように思えません。ひょっとして、この先ずっと、ミオリネさんに猫耳が生えたままなのでしょうか。
    (ああっ! わたしがキャラメルを持ってきたばっかりに! でも、おいしかったんです! お友達と一緒に食べたいって思っちゃったんです!)
    「な、何が書かれていたんですか?」
     身構えながらわたしが訊ねると、サビーナ先生はふうっと息を落として、首の後ろへ手をやりました。やれやれと首筋を揉むようにしながら、
    「猫耳を引っ込める方法が分かったぞ」
    「ほ、本当ですか?」
     サビーナ先生は、身を乗り出すわたしを視線で制するようにして、
    「焦るな。すまないが、シャディクを呼んできてくれないか。猫耳を引っ込めるためには彼の手が必要だ。この時間なら、おそらく図書室か弓道場にいるだろう」
    「了解ですっ! いってきます!」
     保健室からだと、図書室よりも弓道場の方が近いです。まずは弓道場へゴーゴーです!
    (待っていてください、ミオリネさん! すぐにシャディクさんを呼んできますね!)
     猫耳を引っ込める方法がどんなものなのか、どうしてシャディクさんの手が必要なのか、想像もできませんが(後でサビーナ先生に訊こうと思います)、わたしはシャディクさんを迎えに行くために保健室を飛び出しました。
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