ななたん2023 昼間の太陽に熱せられたビル群が熱を放出して気温がさがりきらない真夜中。生ぬるい空気の中を泳いで、僕はふわりととあるマンションの玄関先に降り立った。ズボンのポケットを手で探ると、硬い感触に当たる。鍵だ。それを握ってポケットから出して、目の前のドアに挿し込む。なるべくゆっくりシリンダーを回す。きっとこの部屋の住人はもうベッドの中で夢をみているはずだ。僕が来ることは伝えていないし、特に期待もしていなかったはずだ。たぶん。だからこれはサプライズ、というか、僕が逢いたくて、任務から直接飛んできた。それだけ。
僅かな音だけで玄関に入ると、僕にとって安心する香りがした。この香りがすると、帰ってきた感じがする。玄関にはプレーントゥの革靴が揃えておかれている。しっかり手入れもされて、今回の任務は無事に終わったらしい。僕もそのとなりに靴を揃えて脱いだ。黒いサイドゴアブーツと茶色のプレーントゥの革靴が並んでいるのは、ちょっと嬉しい。オマエも帰って来たんだね。
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