caramel フローリングの冷たさに眉を顰める。そんな季節だ。
風呂場から寝室まで歩いている間に、足のぬくもりはすべて奪われた。旦那の、スリッパを履けだのルームソックスを履けだのとうるさい声が耳元で聴こえたような気がした。
寝室の扉を開けると、ベッドの上で行儀悪く煙草を吸っている旦那がいた。さっきまでお互い裸だった。
「おかえり。ちゃんと温まってきたか?」
「ただいま〜。風呂場からここに来るまでで冷えてもうたわ」
旦那が溜息をつく。半分笑っている感じだ。
「ほら。はやくこっち来い」
毛布をがばりとめくって、俺が収まるスペースを空けてくれる。少し心臓がきゅっとなって、誤魔化すようにそこに飛び込んだ。ベッドのスプリングが激しく軋む。
「ばっ、か! 壊れる!」
「さっきまでもっとギシギシいわせとったや〜ん!」
すけべ、と小さく付け加えると、旦那が吸っていた煙草を俺の口に咥えさせた。黙れということだろう。昔から変わらない、苦い旦那の煙草だ。煙草の気分じゃなかったから、すぐに灰皿に押し付けた。
お互い手持ち無沙汰になって、俺はひとつイタズラを思いついた。足は一向に温まる気配がない。毛布の中で、そっと足を旦那へと近付ける。
冷たいそれを、旦那の足に絡めた。
ぴくりと旦那の体が跳ねる。しかし、それだけだった。もっと驚くなり文句を言うなり反応があるかと思ったのに。
拍子抜けして、黙って絡めた足を解こうとすると、今度は旦那の方から足を絡めてきた。いや、絡めるというか……俺に体温を分け与えようとする動きだ。
「……冷えてんな」
そのまま体ごと抱き寄せられた。
「ちょ、だんな……」
こういうの、困る。
ふざけたじゃれ合いならいくらでもできる。でもこうやって静かに真正面から来られると……どういう顔をすればいいのか分からない。どういう顔をしているのか分からない。恥ずかしさで、動けない。
「足、ちょっとあったかくなってきたな」
「っ……」
「このまま寝るか」
「……むり…………」
絞り出した俺の声に、旦那は笑っていた。体に回された腕も、絡まった足も、朝まで解かれることはなかった。