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    ka_be0320

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    ka_be0320

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    綺麗だけど、少し不安になる。

    春の匋依 待ち合わせ場所は、いつも古ぼけた自動販売機の前だった。
     今日十年ぶりに、ここで依織と待ち合わせをしている。
     春の夜の、少し冷えた風を頬に感じる。待ち合わせ場所へ向かう間に、満開の桜の木を何本も見かけた。夜だから、いまいちきれいだとも思えなかったが。そういえば、待ち合わせ場所にも桜の木があったような気がする。気がするのは、桜が咲く時期に依織と待ち合わせをすることがなかったからだ。
     遠目だが、目当ての自動販売機の明かりが見える。よくある白い光の街灯が横に並ぶ。その明かりの下に、よく知った人影が見えた。依織だ。突然、風が吹く。息を呑んだ。
     桜の花びらがひらひらと宙を舞った。暗闇で、街灯の無機質な光の中では、淡いピンク色なんて見えもしない。ただただ白い光を反射した花びらが、依織に降り注ぐ。その花びらを掴もうと、子供みたいに手を伸ばした依織を見て思わず走り出した。
    「い、おり……っ!」
     ぶらん、と無防備に体の横に垂らされた腕を掴んだ。
    「ははっ、旦那、走ってきたん? 俺も今来たところやで」
     ぱっ、と依織の顔が明るくなる。その顔を見ていると、急に走り出したことで暴れまわっていた心臓が落ち着いてきた。
    「…………綺麗だな」
    「あ、えっ? なんの話? ……ああ、桜……桜な。ほんま、えらい綺麗に咲いとるなあ」
     そっちじゃねえんだけどな、とは言わずにおいた。
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