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    ka_be0320

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    ka_be0320

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    匋依さん練習

    Only for you「よ、旦那。ゴキゲンさん」
    「おー、依織か。珍しいな、こんな時間に店に来るなんて」
     カラコロとドアベルを鳴らして店内へと入る。入り口にはclosedの看板が下げられていたが、旦那は俺を追い返す気はないらしい。
    「ちょっと近くまで来たさかいな。ついでに旦那の顔見てこうと思って」
    「はっ……ついでかよ」
     まだ太陽が沈みきっていない時間。旦那が営む店は西日でオレンジ色に染まっていて、バーというよりは喫茶店のような雰囲気が濃かった。それに。
    「なんやええ匂いするな〜」
     ほっとするような甘い匂いが店内には漂っていた。少し背伸びをしてカウンターの中にいる旦那の手元を見ると、ホットプレートでなにかを焼いていた。
    「……ホットケーキ? なんや、ついに喫茶始めるんか?」
    「ちげえよ。……今日、四季が学校休んだんだ」
     話の流れがよく分からなかった。
     旦那のところの子が学校を休んで、それでホットケーキを焼く? 風邪なら、おかゆとかではないのだろうか。
    「風邪じゃねえんだ。風邪じゃねえけど、しんどそうだったら俺が休ませた」
     まるで俺の考えていることを読んだみたいに旦那が呟く。
     確かに旦那は、人の不調を敏感に感じとるところがあったなと思い出す。俺も何度も……。
    「あの子にとっては、それが一番の薬っちゅーことか」
    「そういうことだ」
     旦那が器用にホットケーキをひっくり返す。きつね色に焼けたそれからぶわりと甘い匂いが広がる。
    「美味そうやな〜。旦那、俺にも作ってや〜」
    「ダメだ」
     ぴしゃりと言われて驚いた。
    「……これは四季限定だからな」
     そう言った旦那の顔は、とても優しい表情をしていた。それがどういうわけか、無性に嬉しかった。
     昔一緒だった頃、「依織だけだ」とよく特別扱いされた。コイツの世界には俺しかいないのか? と思うくらい、旦那は俺に甘かった。そんな旦那が、俺以外にもこんな……。
    「ふっ……んははっ」
    「あ? なに笑ってんだよ」
    「いやぁ……微笑ましいなあ思て」
    「はあ?」
     訝しげな顔をしつつも、器用にフライ返しを操ってこんがり焼けたホットケーキをプレートに盛り付けている。メープルシロップとバターがじんわり染み込んでいく。
    「なんや安心したわ……」
    「なんか言ったか?」
    「いや、なーんも!」
    「そうかよ……ああ、そうだ。せっかく来たのに、なんにも出さずに悪いな。酒の時間には……まだ早えだろうから、これやるよ」
     旦那は冷蔵庫をパカリと開き、中から小さな器を取り出した。ことりとスプーンと一緒に目の前に置かれる。
    「ぷ、りん?」
    「それは依織限定な」
     明らかに市販のものではない。え、わざわざ作ったん? 俺のために? いつ来るかも分からんのに?
     旦那は「四季に届けてくるから」とホットケーキを持って奥へ引っ込んでいった。
     一人残され、スプーンを手に取りプリンを控えめに掬う。ふるりと揺れるそれをゆっくり口へと運んだ。
    「……甘すぎやろ」

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    menhir_k

    TRAININGムラアシュ(希望的観測)
    タイトル適当にあとで考えるわ 滴り流れ落ちる水に歪む窓の外の光景を眺めやりながら、己の判断にそっと安堵の息を吐いた。店を早くに締めたのは正解だった。この様子だと、雨は夜通し激しく降り続くだろう。夜の優れた聴覚が雷の声を拾い、ムラビトはそのまま一秒、二秒、三秒、と窓の外に視線を向けたままカウントを始める。六秒目を舌の端に乗せるより僅かに速く、外が昼間の明るさを取り戻した。雷はまだ遠い。
     雨のにおいがする。嗅覚に長けた魔物がムラビトにそう告げたのは、店の裏に積み上げられた道具の在庫をアッシュと確認している最中だった。まず、空を見上げた。天頂を少し過ぎた太陽が燦々と輝き目が眩む。それから、西の空を見やった。青空の下、緑の山々が常と変わらず連なっている。目を凝らすと山頂に雲がかかっているように見えなくもないが、それだけだ。最後に、ムラビトは並び立つアッシュを見上げた。同じように西の空を眺めていたらしいアッシュは、ムラビトの視線に気が付くと小首を傾げ、小さく肩を竦めて笑った。それでも魔物からのサインが気になったムラビトは、早めに店を閉めることにした。店の二階に居住スペースを構えるムラビトやマオと違い、店員であるアッシュは村外れの家に帰さなければいけない。午後の疎らな客足が途絶えた頃を見計らって本格的に店仕舞いを始める。売り上げの集計はマオに任せて、ムラビトはアッシュと一緒に外に干したままの洗濯を取り込みに行った。その頃には、西の空は重暗く厚い雲に覆われていた。アッシュを見送り小一時間程が経った頃、とうとう空が泣き出した。
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