Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ka_be0320

    @ka_be0320

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    ka_be0320

    ☆quiet follow

    匋依さん練習

    Only for you「よ、旦那。ゴキゲンさん」
    「おー、依織か。珍しいな、こんな時間に店に来るなんて」
     カラコロとドアベルを鳴らして店内へと入る。入り口にはclosedの看板が下げられていたが、旦那は俺を追い返す気はないらしい。
    「ちょっと近くまで来たさかいな。ついでに旦那の顔見てこうと思って」
    「はっ……ついでかよ」
     まだ太陽が沈みきっていない時間。旦那が営む店は西日でオレンジ色に染まっていて、バーというよりは喫茶店のような雰囲気が濃かった。それに。
    「なんやええ匂いするな〜」
     ほっとするような甘い匂いが店内には漂っていた。少し背伸びをしてカウンターの中にいる旦那の手元を見ると、ホットプレートでなにかを焼いていた。
    「……ホットケーキ? なんや、ついに喫茶始めるんか?」
    「ちげえよ。……今日、四季が学校休んだんだ」
     話の流れがよく分からなかった。
     旦那のところの子が学校を休んで、それでホットケーキを焼く? 風邪なら、おかゆとかではないのだろうか。
    「風邪じゃねえんだ。風邪じゃねえけど、しんどそうだったら俺が休ませた」
     まるで俺の考えていることを読んだみたいに旦那が呟く。
     確かに旦那は、人の不調を敏感に感じとるところがあったなと思い出す。俺も何度も……。
    「あの子にとっては、それが一番の薬っちゅーことか」
    「そういうことだ」
     旦那が器用にホットケーキをひっくり返す。きつね色に焼けたそれからぶわりと甘い匂いが広がる。
    「美味そうやな〜。旦那、俺にも作ってや〜」
    「ダメだ」
     ぴしゃりと言われて驚いた。
    「……これは四季限定だからな」
     そう言った旦那の顔は、とても優しい表情をしていた。それがどういうわけか、無性に嬉しかった。
     昔一緒だった頃、「依織だけだ」とよく特別扱いされた。コイツの世界には俺しかいないのか? と思うくらい、旦那は俺に甘かった。そんな旦那が、俺以外にもこんな……。
    「ふっ……んははっ」
    「あ? なに笑ってんだよ」
    「いやぁ……微笑ましいなあ思て」
    「はあ?」
     訝しげな顔をしつつも、器用にフライ返しを操ってこんがり焼けたホットケーキをプレートに盛り付けている。メープルシロップとバターがじんわり染み込んでいく。
    「なんや安心したわ……」
    「なんか言ったか?」
    「いや、なーんも!」
    「そうかよ……ああ、そうだ。せっかく来たのに、なんにも出さずに悪いな。酒の時間には……まだ早えだろうから、これやるよ」
     旦那は冷蔵庫をパカリと開き、中から小さな器を取り出した。ことりとスプーンと一緒に目の前に置かれる。
    「ぷ、りん?」
    「それは依織限定な」
     明らかに市販のものではない。え、わざわざ作ったん? 俺のために? いつ来るかも分からんのに?
     旦那は「四季に届けてくるから」とホットケーキを持って奥へ引っ込んでいった。
     一人残され、スプーンを手に取りプリンを控えめに掬う。ふるりと揺れるそれをゆっくり口へと運んだ。
    「……甘すぎやろ」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍😍😍😍😍😍💯😭😭😭🙏🙏❤❤❤❤😍☺☺👍💖😍😭😭👏💕😍😭🙏👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works