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    しいげ

    @shiige6

    二次創作オンリー※BLを含む/過去ログは過去に置いてきた。

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    【獄都事変】生存本能ではない
    木舌×谷裂短文

    ※イメージによる身体重傷の描写があります。
    ※獄都事変ゲーム本編と獄都新聞を見た程度の知識で書いているため、獄卒達の生活描写等は想像により、公式設定との相違があるかもしれません。

    ##獄都事変
    #舌裂
    tongueCleft
    #BL

    こんなのは言ってしまえばよくある状況で、獄卒達の間ではトラブルにも入らないということだ。

    今日は確か斬島、佐疫、田噛、平腹が仕事、谷裂は非番であったと思う。
    木舌も休日のため朝から軽く一杯飲んでいた。散歩のつもりで外に出たらそれに出くわしたのだ。

    「ごめんなー谷裂!大丈夫か?!」
    「…折れてんだから返事できねえだろ」
    「平腹…大丈夫だけど、大丈夫じゃないと思うよ」

    騒がしい平腹と、呆れる田噛、眉を顰める佐疫。そして、屈みこむ平腹の前に倒れ伏した谷裂。
    ぴくりとも動かない上に、頭と体の位置が少々おかしくなっているのが見てとれる。

    「やあおはよう。どうかしたのかい?」
    「あ…木舌。うーん、見ての通りなんだけど」

    佐疫から事情を聞いたところでは、平腹が振り回した丸太状の何かが谷裂の頭にクリーンヒットしたものらしい。非番とはいえ谷裂が油断していたわけでもないだろうが、たぶんお互い無意識だったのだろう。
    結果、手加減を知らない平腹の一撃で、谷裂の首が折れてしまったとのこと。

    「谷裂、起きたら怒るよなー?」
    「当たり前だろ。だが今起きられるとお前の首の方が折られるだろうし、面倒くせえな…とっとと行くぞ」
    「ちょ、二人とも。放置はだめだよ」

    悪気のない平腹と悪びれない田噛の行動は悪ガキと変わらず、優等生気質の佐疫が引き留めても、逃げられることもしばしば。
    ここに木舌が居合わせたことは彼にとって幸運だった。

    「三人ともこれから仕事なんだろ。谷裂はおれが運んでおくよ」
    「あ…じゃあ木舌、悪いけど頼むよ。実は俺も斬島を待たせてるんだ。平腹、帰ったらちゃんと谷裂に謝った方がいいよ」
    「ああ。いってらっしゃい」

    肋角さんや災藤さんに見つかれば優しく怒られるだろうな、などと考えながら、脱力した谷裂を背に担ぐ。
    筋肉質の体はそれなりに重いが、仲間内で最も恵まれた体格を持つ木舌にとっては難しいことではない。
    穏やかな笑みを絶やさない巨漢の肩で、赤子よりも危うい谷裂の頭がぶらぶらと揺れる。




    そもそも医療の類をほぼ必要としない獄卒だが、通いの職員等のために邸内に医務室だけは用意されている。常駐医師もいないので、施設は傷病人自身が自由に使える。
    慣れた仕草で、かろうじて一台ある寝台に谷裂の体を横たえた。
    木舌はそのまま寝台の横に椅子を持ち出し、何となく休む態勢に入る。急いで復活しなければならないこともなし、整復術はいらないだろうと、そのまままったり谷裂の様子を眺めてみた。

    窓から差し込む日差しが温かく、心地がよい。
    喧騒からは遠く、食堂が騒がしくなる時間からもまだ間がある。
    鳥の声以外で微かに聞こえるのは、折れた首の骨が元に戻る音くらいのものだ。

    谷裂は剃毛しているようだから、非番の今日は少し髪が伸びているかな?とか。
    休日でも鍛錬をするつもりだったのだろうタンクトップ姿のせいで、患部の様子がよく見えるなとか。
    ああ、呼吸が戻った。そろそろ目を覚ますかな、とか。
    横たわる谷裂を眺めながらとりとめなく考えている木舌の顔からは、終始ほのかな笑みが絶えない。



    生き物であれば間違いなく死んでいるこんな大怪我でも、獄卒にとっては単に行動不能の時間に過ぎない。
    生者であった記憶はもはや遠く、痛みはあっても恐怖が、死そのものは訪れることがない。
    永劫に近い時間を生き物のように仕事と休養とに区切り、やりがいと食事と酒と仲間との生活を楽しむ。それは考えてみれば不思議なことかもしれないが、確かに必要なことなのだ。
    終わりのない時間の中で過ごす自分たちにも情愛は存在し、それに支えられているのだから。

    それは通常、友情であったり信頼であったり尊敬であったり親愛であったりするのだけど、木舌が谷裂に抱く情は、すこし特別なもののような気がしている。
    恋や愛とも違う気がするが、他に向けるものとはやはり違う。と思う。
    なんだか今の状況が、自分が谷裂を独り占めしているみたいでつい頬が緩む。その程度のやさしい情念。

    こんな気持ちがいつから始まったか、いつまで続くかは木舌自身にもわからない。生者ではない自分たちが、生存本能に基づく情動を抱くのはおかしいと言われるかもしれない。
    が、もしかしたらいつかはっきりとした「それ」を抱くかもしれないと思うと、悪い気がしないと木舌は思うのだ。

    いつか触れてみたくなる時が来たときに。もしそれを直接的に告げたら。と、谷裂の態度を想像するとおかしさがこみ上げ、一人笑ってしまう。
    それを合図にしたように谷裂が身じろぎし、繋がった首がゆっくりと壁から天井へ回された。

    う、む、と唸るような吐息のあと、ゆっくりと開いた紫の瞳が自分を探し当てる。
    それを楽しむように見つめながら、やがて焦点が合った谷裂に向けて。



    「おはよう、谷裂」



    緑の瞳が、心底嬉しそうに笑った。
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