はちみつ83の日「タカちゃーん!!」
夏休み。茹だる様な暑さが連日続いている。
あまりの暑さぐったり公園の木陰のベンチにもたれかかっていた俺の耳に元気いっぱい!と言う感じの声が届く。
ゆっくりと目をやれば手をブンブン振りながら可愛い弟分の柴八戒が走ってくる。
その姿がブンブンとちぎらんばかりに尻尾を振る犬が浮かび思わず口元に思わず笑みが溢れた。
「お待たせー!!って何かぐったりしているけれどタカちゃん大丈夫?」
「おー、てかお前が元気過ぎるだけだわ。暑くねぇの?」
「いや、暑いけど、タカちゃんがいるから平気」
「意味わかんねーよ」
ニコニコ笑顔で元気いっぱいの八戒が座れる様に三ツ谷は少しずれてベンチのスペースを開ける。
少しずれた場所はひんやりしていて気持ちが良い。
と言う事は今まで自分のいたところはぬるくて気持ち悪いかな?と心配になり隣に目をやれば「タカちゃんの体温…」と恍惚の表情をしている男がいて少し背中が冷えたので見て見ぬフリをした。
「あ、どーぞ」
「ん、ありがと」
八戒がガサガサとビニール袋から汗をかいた大きな缶のコーラを差し出したのを受け取る。
普通サイズの缶とほぼ値段は同じなのにこちらの方が多いのは何でだろーなとぼんやり考えながらプルタブを開け口に含む。
シュワシュワとした刺激が心地良い。
「一口どーぞ」
目の前にプラスチックのスプーンを差し出される。
ソフトクリームだろうか。
あまりの暑さに溶けかけたソイツを口に含む。
「甘っ!!」
「へへーどう?ハチミツがかかっているソフトクリームなんだってー」
どうりで喉が焼ける様に甘い。
しかも、コイツ沢山かかった塊の部分をよこしたな。
ニコニコと嬉しそうにソフトクリームを頬張る八戒を見るとどうでもよくなり自分もコーラを飲みすすめる。
「マジで暑いねーこれが地球温暖化?ってヤツなんかな?」
「え?八戒、温暖化とかわかるんだ?」
「ひっでぇ!馬鹿にすんなよ!」
とどうでも良いことをダラダラ話していたせいか八戒のソフトクリームが溶けて腕にたらりと垂れた。
「うわっ!冷てぇ!」
「何やってんだよー」
ハンカチをポケットから出し差し出そうとしたら八戒がベロリと自身の腕を舐めていた。
暑さのせいで気だるげな目がやや伏せられている。
自分より筋肉がつき筋張った腕。
長く赤い舌が滴った液をすくう。
さっきまで犬の様だと思っていたのに…
一つ下の弟分から自分の知らない大人っぽさを感じて思わずドキリとする。
「タカちゃん?」
ポーッと眺めていたら八戒の顔が近づいきた。
元々細身だったけれど小学生の頃より丸さが抜けたやや面長な顔。
やっぱ下まつ毛長ぇー。
綺麗な顔だな…と思う前に唇にヒンヤリとした感触。
え?
驚いて声をあげようとしたら口の中に甘い味とぬるりとした感触。
ちろりと舌と舌が触れ合った気がした。
あれ?俺、何されてんの?
あまりの事に思考が追いつかない。
「どう?」
呆然としていると俺から離れ口の端をペロリと舐めた八戒がニッコリと笑っている。
どう?って何だよ…
「欲しそうな顔していたからお裾分け。美味かった?」
ベンチから立ち上がり俺の目の前に立つ八戒。
今度は陰になっていて顔がよく見えない。
何か言おうとグルグル思考を巡らせていると
「手ぇベタベタするから洗ってくる」
これ、借りるねーと差し出したままのハンカチを抜き取り去ってしまった。
脱力。
思わずベンチからずり落ちそうになる。
何だったんだ?
キスされた気がするのだけれど…
お裾分け??
とりあえず口の中が甘ったるい。
コーラを口に含む。
少しぬるくなっている。
シュワシュワとした刺激が甘さと先程の感触を奪った。
顔が熱い気がした。