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    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
    CPもの、健全、明暗、軽重、何でもありのためご注意ください。
    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

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    sangurai3

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    ダイ大二次創作 竜騎将と陸戦騎の出会い捏造 ラーハルト過去ネタバレ有り
    バラン→ラーハルトと続く一人称語り 双方だいぶ拗らせてしまいました。腐では無い、はず。
    続き物推敲の合間の息抜きほぼ一発書き。色々おかしいですが見逃してください。

    うつくしいもの初めて彼を見たときは、獣の仔かと思った。
    衣服ともいえない襤褸布と、生臭い毛皮を身にまとったその子は
    大きな瞳でぎょろぎょろとこちらを睨みつけ歯を剥いてきた。
    飛びかかってくる小さい体を難なく押さえつける。
    毛皮の内からばたばたと暴れる細い手足が見えた。
    人の子か。
    そう問うとぶんぶんと頭を横に振る。
    月影に浮かぶ浅黒い肌色は汚れによるものだけではなさそうだ。
    魔族の子か。
    その問いにもまた首を振る。
    どちらにせよ、言葉を解す程度の知能はあるようだ。
    暴れる手足はそのままに、子の首根っこを掴み上げ歩き出す。
    着いてこい。
    地に足が着かぬほど掲げ上げておいて言う言葉では無いと、その滑稽さに気付いたのは随分後のことだった。

    子を掴み上げたまま枯れ木を拾い集め、呪文で火をつける。
    眩しそうに眉をしかめたものの、怯える様子はない。
    思っていたよりは野生に馴染んではいないようだ。
    逃げぬように押さえ込んだまま懐から携帯食を取り、差し出す。
    食え。
    子は黙ったままそっぽを向いた。端を一口かじり、その前に放り投げる。
    毒など入っていない。食え。
    しばらくそれをじっと見つめた後、子はもそもそと口にし始めた。
    横から水の入った革袋を寄こす。
    飲め。
    今度は素直に、勢いよく飲み始めた。

    食事を終わらせると、掴んでいた子の首筋から手を離した。
    子はハッとしたような顔でこちらを見つめる。
    私はここで休む。お前は好きにするがいい。
    そう告げて目を閉じる。
    瞼を下ろす瞬間、鋭くこちらを睨んでいたようだった。
    しばらくしても何処かへ去る様子も無く、もぞもぞと体を動かしている。
    私は目を閉じたまま、静かにその気配を感じていた。

    すっと目を開けると眼前には愕然とした顔。
    私の喉元には鋭く手折られた小枝が突きつけられている。非力な子どもが狙うにはいい場所だ。
    刺してみろ。
    そう言うと目を怒らせ、ぐっと小枝を押しつけてくる。
    小さな手が震えているのは恐怖故では無い。どんなに力をこめても小枝が喉に刺さっていかないからだ。
    私を殺したいのか。
    その問いに子は目を見開き、はくはくと幾度か口を開閉した。
    耳で言葉を解しても、長らく会話を交わすことを忘れた喉は声の出し方を忘れる。
    何とか喉の奥底から引き絞るように紡がれた子の声が、私の耳に届いた。
    にんげんは、しね。
    幼い子が発するにはあまりに惨い言葉だが、私にはひどく美しい響きに思えた。
    懲りず小枝を押し込んでくる子の手に触れ、告げる。
    私は人間ではない。
    眉をひそめる子の頬に手をやる。驚いて後退しようとする体を逆の手で押さえる。
    目元から流れる黒い筋をゆっくりと親指でなぞる。痩けた頬に目立つそれは涙の跡のようだと思った。
    体を押さえていた手を子の頭に移す。ぱさついた髪を梳くと乾いた泥や木の葉の屑や虫の死骸がぽろぽろと落ちてきた。
    ゆっくりと頭を撫でる。自らの子は泣かせてばかりだったので正しいやり方かは分からなかったが、目の前の子の表情は次第に落ち着いてきた。
    お前、名は。
    そう問いかける。子はまた大きく口を動かした。その唇が言葉を紡ぐまでゆっくりと待つ。
    燃した火が消えかかる頃
    ラーハルト。
    子の口から答えが零れた。
    良い名だ。
    言葉の意味が分からなかったのか少し首を傾げる。その様子は相応に幼く見えた。
    ラーハルト。
    子の名を呼びかける。名付けたのは彼の父だろうか、母だろうか。今この子がその身に持つたったひとつのもの。
    子はじっと私を見つめてきた。その目には深い闇がある。憎しみと怒りの色。私を駆り立てるものと同じ色だ。
    私に、着いてくるか。
    再びじっと答えを待つ。先よりは短い時間ののち、子は頷いた。細い指は小枝を落とし、頬に添えたままに私の手におそるおそる触れてきた。
    お前は美しいな。
    感じたままにそう言うと、困ったように子は目を瞬かせた。


    アルゴ岬近くの泉に、子を伴って行く。
    此処に誰かを連れて来ることなど無いと考えていたが、彼なら良いだろうとも思った。
    子はあれから成長した。
    言葉を交わすことに難は無くなり、知識も戦う力も得た。
    獣のような荒れた形(なり)も、月日を重ね洗練されていった。瞳の中の闇はそのままに。
    二人、泉の前に並び立つ。
    水面に映るお互いの姿を見つめながら、私は此処で出会った愛しい人のことを子に語った。
    思い出すままに語り隣を見遣れば、子はその頬にはらはらと涙を流していた。
    ラーハルト。
    声をかけるとハッとしたようにこちらを向き、慌てて目元を擦る。その手を制し、まだ幼さの残る頬に触れた。
    初めて会った夜のように、皮膚の黒い筋を親指で撫でる。
    子は瞼を伏せ、されるがままになっていた。付き従う相手に涙を見せたことを恥とでも思っているのだろうか。
    私が最後に涙を流したのは愛しい人を亡くしたあの時。
    竜も魔も流すことは稀である涙。神より与えられた力の中で、最も無駄で醜いものが溢れさせるのが涙だと思っていた。
    しかし、今この子が流す涙は、私が忘れようとしていた温かい何かを呼び起こそうとしていた。
    ラーハルト。
    もう呼び慣れた彼の名前。はい、と子は応える。伏せていた目をゆっくりと私に向ける。
    やはりお前は、美しいな。
    そう言う私に、子はただ、ありがとうございます、バラン様、と応えた。



    初めて出会ったときは獣のようだったとあの方は言うが、あの時のオレは獣ですらなかった。
    人からも魔からも弾かれた存在。
    ひ弱な人であれば、媚びて助けを求めたかもしれない。
    強き魔力を持っていれば、抗う手立てを考えついたかもしれない。
    そして獣のような本能があれば、近づかずただ去るのを待っていたかもしれない。
    オレはそのどれもできなかった。
    強さも弱さも無い、野生に返ることもできない、ただ息をしているだけの矮小で醜い「モノ」。
    オレはただの「モノ」だったからあの方に拾われ、命を繋ぐことができた。
    何にも属せないただの「モノ」だったからこそ、この世界で唯一絶対の存在であるあの方のお側にいることを許されたのだ。
    あの方はオレに多くのものを授けてくれた。
    その恩に報いるため、オレはあの方の願いを阻むものは何であろうと滅すると決意した。
    あの方にとって有用であるために、オレは「モノ」であり続けた。
    お側に付くために必要な知識と力は身につけたが、今更に何かに属そうとは思えなかった。
    あの方と、父母に与えられたこの名前のほかに、オレにとって必要なものなど何も無い。

    涙を流す様を見せてしまったとき、オレはただ自分を恥じた。
    矮小な「モノ」であるオレの醜い泣きざまを見られてしまうなど。
    この身の中に残る人の心の残骸を晒してしまうなど。
    あり得ないことだった。
    しかしあの方はオレを咎めず、初めて出会ったときのように柔らかくオレに触れた。
    強く気高い方がオレの涙に触れる。やめてください、貴方まで汚れてしまうと言いたかったが言葉にならなかった。
    ラーハルト。
    あの方がオレの名を呼ぶ。人でも魔でも無いオレが持つ唯一のもの。父母が遺した、たったひとつのオレの財産。
    お前は美しいな。
    時折あの方はオレにそう言う。オレにはその意味が分からない。醜く矮小な「モノ」だからこそ、貴方に見いだされたのだと思っているのに。
    バラン様。
    あの方の名を呼ぶ。美しいとはあの方のことを指すのだ。気高い孤高の存在。神にも及ぶほどの圧倒的な力は美しいというほか無かった。
    オレは醜い「モノ」だ。ただあの方のためにだけ生きている「モノ」。それがオレの唯一の価値で有り、あの方だけがオレの生きる理由なのだ。
    オレの中に美しいものがあるとすれば。
    父母に与えられ、あの方の呼ぶ、この名前だけ。
    バラン様。
    美しい貴方に名を呼ばれることを幸福だと感じてしまう、醜いオレをどうかお許しください。
    そしてこの生きているだけの「モノ」が、貴方のお側にいつまでも在りたいと願うことをお許しください。
    神になぞ祈らない。「モノ」であるオレの声を聞き届ける神などいるはずも無いから。
    願うはただ、美しいあの方にだけ。
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