黄暁黄昏の顔色を窺うようになったのは、いつからだろう。暁、と呼んでくれる声が平坦に堕ちたのは、いつから。
何度でも傍に行くのに、黄昏はいつだって一人で歩いて行こうとする。引き止める方法を自分は知らない。教えて欲しいのに、こういう時だけ黄昏は兄ぶって黙ってしまう。自分にも独占欲はあるし、弟として支えてみたりもしたいのに。
黄昏、と呼ぶ自分の声が怖くなったのはいつから? 花火杖に手を掛けることを躊躇うようになってしまったのは、いつ?
引き留める言葉を持たない自分は、常に死へと向かおうとする黄昏の手を掴むことしかできない。物理的に掴んで、引き留めて、引き寄せて、命火を分けるように鳴くしかできない。大きく鳴けば蝶が来る。マンタが来る。鳥が飛ぶ。
「黄昏はそれじゃ救われないんだよ」
「どうして? 自分を含め、黄昏はたくさんを、たくさんの心を救ってきたのに」
「それが分からないうちはお前マジでクソってこと」
「救ってきた事実は、救われる要因にはならないんだよ」
救う側が救われないのはどうして? 友人たちは、それこそ自分で気付かないといけないのだ、と手がかりをくれない。
苦しい。
「プェ」
「ポァ」
「……ん、あ、ごめん」
ここからどこに進むの、と雀たちが鳴く。地の試練、無窮の孤独。それをこうやって複数人で乗り越えるのは、自分的には一つの解法なのだけれど。
友人は「一人で越えるからこそ孤独は孤独なんだよ」、ともっともらしいことを言っていたけれど、それってつまり社不なんだよなぁ。
回り続ける石の道。回転する岩の一本道。
「ここを抜ければ、終わりだよ」
その声が鈍った、と思った。
瞬間、世界が別たれる。……位相の違う、空間。形は同じだけれど、違う世界。
「……黄昏?」
直感的に、呼ばれた、と思った。黄昏が呼んだから自分は雀たちと別れた。雀たちには申し訳ないけれど、断わり一つもなく。自分的には構わないことなのだけれど、合図もなくいきなり。
対岸で仮面をずらした、双子の姿。手を伸ばして、忘れていた足の下の空虚。
墜ちる。あ、死んだ、と思う。
ホワイトアウト、それからぐちゃぐちゃになる上下感覚。頭に何か硬いものが当たる。ぐわんぐわんする。自分に何が起こったのか分からない。
痛みに軽く呻いて目を開ければ、瓜二つの顔が仮面越しに笑うのが見えた。口元、ほんの少しだけ見える弧を描いた唇。
はく、と飲んだ息を重ねた唇。赤い、温かい体温に黄昏の目元は何も示さなかった。仮面に現れるのは何か、自分は鈍いから分からない。
どろり、蕩け落ちる箍の音。はっきりとは聞こえずとも、消えたことが分かる理性。
……穿たれた痛みは、戒めだ。