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    Shijima_shhh

    @Shijima_shhh

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    Shijima_shhh

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    酔った勢いでどうこうなる降風を書きたかったはずなんです。

    寝ても起きても酔っても醒めても(降風)「かわいい人ですね」
    そう言ってにこにこ頭を撫でる大きな手。
    「かわいい。本当にかわいい、です」
    にこにこ。なでなで。何が起こっているんだこれは。真っ白になった思考の中、ひたすらその手を受けいれ、目をつぶる。気持ちいい。
    「ふふ。いい子ですね。いい子。がんばりやさん。かわいい」
    背中がむずむずして、居心地が悪い。それなのにこのやさしい手と柔らかな手から離れられない。この手がずっと僕のものだったらいいなあと蕩けた思考の中、ぼんやり思う。
    「こんなにかわいくてがんばりやさんないい子なん だから、あなたは幸せにならなきゃいけないんですよ。もっと、もーっと。世界でいちばん」
    なでなで。にこにこ。その手にそっと擦り寄る。もっと。声に出さない願いが届いたのか、その手の主がやわらかに囁く。そうか。僕は幸せにならなければならないのか。そうか。だったら。
    「君が、ずっとそばにいてくれれば、きっと幸せになれるよ、僕は」
    膝小僧をしょっちゅう擦りむき、顔に絆創膏を貼っていた頃にすら口にした覚えのない甘ったれた願い。深く考えずにまろび出たその言葉が、信じられないほど幼い口調で響く。
    「じゃあ、ずっと一緒にいましょうね。一緒に幸せになりましょうね」
    ゆびきーりげーんまーん。差し出された小指をからめて、他愛のない約束。それがたまらなくうれしくてどきどきして、胸がいっぱいになる。
    「うん。幸せになろうな」
    知らず、顔が笑ってしまう。たぶん幸せってこんな気持ちだ。その喜びのまま目の前の笑顔に唇を寄せて、そのまま重ねる。一瞬驚きに見開いた目は、すぐにとろりと蕩けて、それからそっと伏せられた。だからそのまま目の前のやさしい手のその人を抱き寄せて、抱きしめて、だいすきだ、と囁いた。



    というところまでは覚えてる。
    「……」
    「……」
    長年の宿願を果たし、例の組織の壊滅に成功。お互い生きて日の目を拝めたことが嬉しくて、共に果たした功績の大きさが誇らしくて、後処理に一段落ついた昨晩、二人揃って祝杯を上げた。管理官から今日から3日間の特別休暇ももらっていて、何の憂いも気がかりもなくひたすら楽しく飲んで食べてたくさんのことを話した。
    そして、したたかに酔った。お互いに。かつてないほどに。
    「……覚えて、ます、よね?」
    「……ああ、君も、だよ、な?」
    その結果、これまでになく気まずい空気が流れている。僕と風見の間に。幸か不幸か二人とも酔ったからといって記憶を失うことはなかった。
    「…………えーっと」
    「…………うん」
    どうするべきか。何を言うべきか。机の上には昨晩二人で飲み散らかしたままのグチャグチャの食器やグラス。寝乱れたベッドに不審な汚れは無いけれど、抱き合って寝ていたせいで腕やら背中やらが不自然に凝っている。
    さて、どうする。何を言う。どう振る舞う。梓さんに突然の早退の言い訳をするときよりも言葉に悩み、ジンに銃口を向けられた時よりも言動に慎重になる。

    「あの、ですね」
    意を決して口を開いたのは風見の方が早かった。
    「ええっと……昨日は、無礼講、でした、よね?」
    「あ、ああ」
    「じ、じゃあ、その、えっと……ぼ、僕が、ふるやさんにした、こと、は……お咎めなし、ということで、その、いいんでしょうか」
    「も、もちろんだ!無礼講、だからな」
    あのやさしい手と甘い笑顔を思い出し、ぼぼっと顔が熱くなる。咎めるどころかまたああしてほしいくらいだ、なんて29歳の男として恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないけれど。ありがとうございます。眉を八の字に垂らしてほっと息を吐く風見の赤い耳を見つめながら、ああ、ともう一度頷く。どうやったらもう一度、頭を撫でてもらえるだろうか、なんて考えてしまうのはまだ酔いが残っているのだろうか。
    「そ、それじゃあ」
    緊張しきった声で風見が言う。顔中、真っ赤にして。
    「あの約束の扱いは、その、どう、なる……んでしょうか!」
    しどろもどろ。からの、ぎゅっ。目を思い切り瞑って、自分を鼓舞するように最後は勢いよく。
    「あのやくそく……」
    思わず繰返した言葉に、風見が恐る恐るというようにうっすらと目を開けて僕を見る。その期待するような恐れるような目を見た瞬間、ぶわわわわっと僕の中に何かが溢れた。
    「幸せにします!!!」
    その瞬間、何かを考えるより先に僕の体は素早く風見の両手を捉え、口は叫んでいた。
    「えっ」
    「幸せにします!!!誓う!!!僕は君を幸せにするからな!!!!!」
    叫び終えてから、気づく。僕の中に溢れた何かはつまり言葉にすれば愛しさというやつだ。それから、この壁の厚くないアパートで叫ぶには大きすぎる声だったことにも気がついたがそんなことはどうでもよかった。
    「ふ、ふるやさん」
    びっくりした。そんな副音声が聞こえそうなくらい三白眼を丸くした風見は、一拍置いてからふわりと解けるように笑い、もぞりと手を動かして僕の手を握り返した。
    「約束が違います」
    それは思いがけず落ち着いた声だった。さっきまでのしどろもどろはどこにいったのか。僕はまだ全力疾走した後よりもなお、心臓が暴れているのに。
    「えっ」
    「幸せにする、じゃなくて、一緒に幸せになる、ですよ」
    風見が笑う。少し涙の浮かんだ目で。それを見た瞬間に本当にもう、どうしようもない気持ちになって僕はがばっと風見を抱きしめる。そしてもう一度叫ぶのだ。
    「幸せにする!!!」
    ぎゅうう。絶対に離さない。絶対にそばにいる。そんな思いと共に強く抱きすくめれば、痛い痛いと小さな悲鳴。それに慌てて渋々力を弱めれば、あはは、耐えきれないように風見が笑う。
    「だから、一緒に、ですってば!」
    やっぱりかわいい人だなあ、もう!そう言って本当に楽しそうに、本当に嬉しそうに風見が笑うから、うん、そうなんだ。ときゅうきゅう絞られる心を押し付けるように胸を重ねて、風見に甘ったれたことを言ってみる。
    「また、頭を撫でてくれないか」
    だって風見は許してくれる。
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