振り回されロマンチカいつもの香水を首筋に吹きかけ、ローブの襟を正し、庭の花で作った花束を持って意気揚々と外に出た。
「やぁ!しなびたキノコ君!!」
突然開くドアにも、響く美声にもとっくに慣れてしまったエンは内心で溜息をつく。
「今日も仕事を頑張っているようだね、私は君のその真面目さも好きだ!」
椅子に座り、書類と向き合ったままのエンの傍に来て跪いて花束を捧げるキルシュ。
「本当に君が好きだ、エン。私の恋人になってくれないか」
「……はぁ…」
内心からはみ出た溜息。
復興作業が大体終わり始めた頃から、何を考えているのかは分からないが珊瑚の孔雀の副団長であるキルシュ・ヴァーミリオンがこうして自分の元に来ては毎日告白をしに来ている。
朝昼夜問わず、任務に行っていても探し出してきて、なんなら入浴中にも来たことがある。
最初は驚いたし、冗談かと思って笑って受け流していたが、こうも毎日来られると疲れてきて仕方ない。元から痩せてるのに余計に痩せたのは気のせいだと信じたい。
一度、喋るキノコ君で『王族がこんな事にかまけていていいのか!!』と怒鳴ってみたことがあるが、
『その内に秘める情熱が見れて今日は幸運だ!』と逆効果だった。
だからもう、エンは諦めてくれるまで待つ事にした。
心が痛むが、そのためには冷たい態度をとることを選択して。
「本当に毎日飽きないね君も…」
「飽きるわけないじゃないか!私は君が好きだからね」
嬉々として返答すると、立ち上がって花束を押し付ける。
「置き場所に困るから花束はもう…」
渡される度に増やした花瓶と一応は世話している花達で埋まりつつある自室。最早花屋と変わらなくなってきている。
「じゃあ今度は菓子類を持ってこよう!最近痩せてきてしまってるようだからね」
連日告白を始めた時より痩けた頬に優しく手を添える。
「(君のせいなんだけどなぁ……)」
「それじゃあまた明日」
「うん……」
来た時と同じように軽い足取りでキルシュが帰っていくと、深く溜息をついてから花束を予め買っておいた水入り花瓶に入れると書類を渡しに団長の部屋に向かった。
「いい加減返事してやればいいだろ」
書類の確認をしながらジャックは言う。
「前に断りましたよ…。でも、何故か逆に燃えてきたようで…諦めが悪いにも程があります…」
「テメェが折れるまで待つのかもな」
「え〜………それは、困りますね…私ももう限界なので…」
そんなに嫌なら毎回断ればいいだろと思ったが、口には出さず代わりにこう言った。
「面倒だな、テメェも」
「…?」
翌日、本拠地裏で育てているキノコの世話をした後、どこかに買い物に行こうとした時だ。
奴が来た。
「しなびたキノコ君!!これからおでかけかな?」
「うん、まぁ……」
「では、出かける前に言わせてくれ。君が好きだ、私の恋人になってくれないか!?」
本当の本当に気力が限界で、エンはほぼ朦朧とした状態で返事をしてしまった。
「…いいよ……」
奇しくもこの日、連日告白の記念すべき百日目。
それもあったのかキルシュはハイテンションになり、エンの手を掴むと
「では早速デートに行こうじゃないか!」
と言って桜の絨毯に乗せて空へと飛び上がった。
いきなりすぎて、頭が追いつかないまま高級フレンチレストランで食事をし、美術館に行き、商店街でウィンドウショッピング。
記憶にさして残らぬまま、夜を迎えてしまい最後に来たのは魔法を使った雑技団のショー。
炎魔法のジャグリングを見ながら、エンは訊いた。
「…楽しいかい、私なんかと遊んで」
間髪入れずにキルシュは答えた。
「楽しいに決まってるじゃないか。好きな人と共に時を過ごしているのだから」
どんな顔して言っているのだろうと、横目で見ると、ショーの煌びやかな光のせいで余計に輝いて見える微笑みが見れて思わず心臓が跳ねて、それから本拠地に戻るまでずっとドキドキしたままであった。
「……好きに、なっていいのかな」
薄いシーツに包まって、落ち着かない夜を過ごす。