頑張り屋キッスその日、エンは手作りのクッキーを土産にキルシュの元に訪れていた。
「失礼するね、キルシュ君………」
部屋のドアを開けると、どっと疲れた顔をしたキルシュが机の前で書類を書いては重ねてを繰り返していた。
「ごめんね、日を改めるよ」
邪魔してしまったかなと、部屋を出ようとしたが呼び止められる。
「いや、いてくれ」
「わ、わかったよ…?」
クッキーをテーブルにおいて、高級な柔らかいソファーに腰掛ける。未だにこの感触には慣れない。
それでも、羽根ペンと紙の擦れる音しかしない部屋でじっと待つ。
一時間経ったが、書類は未だ沢山ある。
「キルシュ君、休憩しないかい?」
「もう少ししたら」
「うん……」
そこからもう一時間、漸く半分になった所だったのに、部屋に入ってきた部下が追加の書類を持ってきた。
「すみません副団長…」
「構わない。もう下がっていいよ」
そしてもう一時間、エンは居ても立ってもいられなくなったのかソファーから立つと、キルシュの傍に来た。
「なんだい?しなびたキノコ君。もう少しで終わるから……んッ!??」
顔を横に向かされたと思った時には乾燥した唇が触れていて、更に舌まで入り込んできた。
たどたどしく口内を探る舌に自身の舌を絡ませながら椅子から立ち上がり、形勢逆転。
「んぐ、ん…っ、ぅ…」
頬を真っ赤にして、閉じた瞼から涙を僅かに滲ませるエンの色っぽい顔にそそられる様に深いキスを続ける。
そのキスが与える熱を耐えようと、エンはキルシュの肩に手を置き爪を立てる。
早くこうして欲しかった。
済まない、寂しがらせて。
声にならない会話をして、唇を離して、またくっつけてを繰り返しながら、エンをソファーまで導き押し倒す。
「…疲れて、ないのかい……?」
「寧ろ元気になったくらいさ」
「仕事は?」
「……後でもいい。今は君に癒されたい」
タートルネックのボタンに手をかけた。