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    Hgrs172

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    Hgrs172

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    丑参り友也に神隠しされそうになる話です。

    手記りーーん、 りーーんと、鈴の音が聞こえる。


    いや、耳鳴りなのかもしれない。







     
    両親と喧嘩し、家を飛び出したのだが、随分と森の奥深くまで走って来てしまっていたようだ。


    母や祖母が口酸っぱく何度も何度も行くなと言っていた森の奥に来てしまったという焦燥感と共に、ほんの少しだけ、森の奥になにがあるのか知りたかったという好奇心があった。


    もうここまで、深く入ってきてしまっているのなら、引き返すことも無理だろうと諦め、とぼとぼとさまよい歩くことにした。

    いくらか歩いてみると先程よりもずっと霧が濃くなって、息がしにくくなってきているのを、感じた。

    ハッ、ハッと、浅くなる息。上手く呼吸が出来ずに苦しくなっていると、ふと、赤い光が木々の先に見えた。




    炎か何かの火かもしれない。そう思い、重い足を必死に運ぶとその光は提灯の光であることがわかった。

    提灯は、ずらりと並べられた鳥居に点々とついて、辺りを爛々と照らしていた。




    もしかしたらこの先に神社があるかもしれない。
    遅い時間だが、助けてくれるのではないか、帰り道を教えてくれるのでは、と思い提灯の灯りだけを頼りに歩みを進める。




    ガサガサと足元の雑草を踏み鳴らしながらも長く長く歩き続けていると、ふと自分が先ほどの地点から進めているのか不安になった。
    しかし、不安はあるが振り返る勇気は持ち合わせていなかった。





    進むしかないと思った、1つ1つ鳥居を数えながら歩く事にした。
    1つ、2つ、3つ…と、数えていき、それが2桁になった頃、クスクスと誰かの笑い声が近くでなった。




    「誰だ?!」





    そう言いながら声の主を探すようにグルグルと森の中を見渡すと、鳥居の先からユラユラと赤い提灯の光が揺れながらこちらに近づいてきた。

    光が大きくなると共に暗闇の中からゆっくりとその人物が浮かび上がってくる。





    クスクスと笑う口元を袖口で隠しながら、右手には鳥居につけられているものと同じ提灯を持ち、歩く度にふわふわと揺れるその柔らかな栗毛の頭にはコツンと先が黒く染まっている赤い角が生えていた。

    赤く彩られている目尻を下げるようにニコリと笑いこちらの目の前に立つその人物が、先ほどのクスクスと言う笑い声の主であることがわかるとドッと汗が流れ始めた。

     


    「こぉんなところに迷い込んじゃって……

     怖かった?ううん、きっと怖かったんだろうね


     大丈夫、俺が連れてってあげる」





    真赤な手袋を嵌めた指先がこちらに手を伸ばされると、気がついたら何かに取り憑かれてしまったようにその指先に己の掌を重ねてしまっていた。

    グイっと、その細腕からは想像ししにくいぐらいの力で引っ張られると、彼を先頭にグングンと鳥居を歩んでいく。




    繋がれた彼の手は、手袋越しでもヒンヤリと冷たく感じ、得もいえぬ寒気が身を捩った。
    だが、彼はこの薄ら寒い森の奥、霧の中を自分と同じように歩いていたのだと考えると手先ぐらいは冷えていてもおかしくないのでは無いか、なんて呑気に考え事をしていた。








    しばらく手を引かれながら歩いていると歩く先に木々が門のようにそびえ立っているのが見えた。

    あそこが出口かな?なんて思いながらも彼の手を軽く引き、ねぇ、なんて呼び止める。

    彼は歩みを緩め、先に見せた緩やかな笑みを浮かべながらこちらを振り向くと、どぉしたの?って軽く首を傾げる。胃のあたりがゾワゾワとする感覚を覚えながらも、震える声であそこが出口なのかと問うと、彼は笑みを変えぬまま前に顔を向け、


    「そうかもねぇ」


    なんて呑気に言うと止めていた足を動かし始めた。




    先ほどと変わらないはずのその表情が、何故か、とびきり不安に感じ、彼の手を強引に振りほどき彼とは反対の方向へと駆け出した。




    ここまで歩いてきた道を逆走しているのか、新しい道を走っているのかも何もわからぬまま駆けていると、気がついたら見知った道まで戻ってきていた。


    夢中になって走ったせいで気づいていなかったが、露出していた腕や足には葉っぱで切れたであろう切り傷や、枝にぶつけたのかアザが出来ていて、それは酷い有様であったが、1番酷かったのは彼と繋いでいた左手だった。



    くっきりと握られたままの跡が出来ており、青紫に濁るその跡に気持ち悪さすら覚えた。

    嘔吐きながらも足を必死に動かしていると、懐中電灯の光と共に自分の名前を呼ぶ母の声が聞こえた。



    こっちだよ!と必死に叫ぶと汗だくになった母がこちらに駆け出してきて、抱きしめてくれる。
    母の体温に触れると、今までの不安や恐怖が全て身体中に駆け巡り、ボロボロと涙が出てきた。
    これまでに無いぐらいに声を上げてクシャクシャの買おをしながら母に抱きつき泣くと、母も自分と同じように泣きながらキツく抱き寄せてくれた。




    2人の泣き声を聞いた他の家族たちもゾロゾロと集まって来てくれて、探したんだぞ、なんて涙ながらに伝えてくれた。


    一生分の泣いたと思うぐらいに泣いた後、母と手を繋ぎながら家までの帰路についた。







    ザワザワと山の木々が大きく音を立てながら揺れているのがいやに耳に響くと思っていたら、



    「残念。後ちょっとだったのになぁ」


    なんて、彼の声が届いた。




     

    ような気がした。

















    あの後家に帰ってから知ったが、自分が家を飛び出してから1週間はとうに過ぎており、警察も捜索を諦めてしまっていて、家族総出でずうっと探していたのだという。




    森の奥に入ったことは言えなかったが、祖母は気付いたのだろう。
    己を抱きしめながら、連れていかれなくて良かったと確かめるように何度も何度も頭を撫でてくれた。










    大人になって、家を出て今でも、あの時のことは何かの夢だと思いたいのだが、今でも実家に帰り、森の方を見ると、腹がザワザワとする感覚があるのと、確かに彼に掴まれた手はうっすらと痣を残しており、あのときの出来事は夢では無いのだと何度も思わさせられる。



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