Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    maymfdear5

    @maymfdear5

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 17

    maymfdear5

    ☆quiet follow

    渉友です。
    長く付き合って同棲してる2人。友也くんがぼんやりしてる夜の話。春になるとなんとなく優しい感じがする夜ってあるよね的な。
    渉友の短編がもう少し増えたら後日pixivにまとめます。

    #あんさん腐るスターズ!
    ansanRottenStars!
    #渉友
    friend

    優しくて、やわらかい夜 ただぼんやりとしていた。

    ふと時計を見れば日付が変わってしまっていて少し驚いた。明日も早いと言って部屋に戻って行った彼はすっかり夢の中の住民になっているだろうな なんて頭の片隅で考えて、またぼんやりと意識を夜に混ぜていく。
    明日は遅起きでもいいかな、休みだし。でもな、彼は仕事だから朝ごはんも作ってやりたいし見送りもしたい。そうだ、しばらく出来てない掃除もしないと。明日は晴れるみたいだから布団も干したい。春のおひさまの下で干したらふかふかになるし。あぁ、今度の撮影の台本を読み返そうと思ってたんだ。あれ、この前撮影した雑誌の発売日が近かった気がするけどいつだったっけ。
    そんなふうにいろんなことが流れ星のようにチラリと脳裏を掠めて、また消えていく。

    手のひらをあたためていたはずのホットミルクはすっかり冷えきってしまった。それなのに何となくマグカップを手放す気にはなれていない。ただの牛乳になってしまったそれを一口飲んで、あーあ、とため息をつく。あんまり美味しくない。早く飲めばよかった。

    いつもと何ら変わらない夜のはずなのに、部屋の中に揺蕩う空気はいつもよりもふわふわと柔らかくて、お気に入りの枕のように優しい気がした。なんでだか、わからないけど。そんな感じがするのだ。
    こんなふうに優しくて、やわらかな夜だから。少しだけの夜更かしも、ただぼんやりすることも、飲まずに冷えてしまったホットミルクも、許してもらえる気がした。

    「眠れませんか?」
    はっとして顔を上げた。少しだけ開けていたカーテンの隙間から覗く月明かりに長い銀髪がきらめいて綺麗だ。ふんわりと鼻をくすぐった香りは俺と同じシャンプーのはずなのに、なんだか違うものみたく華やかで、それでいて落ち着く香りだった。
    持て余していたマグカップは俺よりも大きな手に奪われて、冷えた中身も飲み干されてしまった。もう美味しくないのに。
    「美味しくなかっただろ?」
    彼は何も言わないまま、ふっ と小さく笑って俺の隣に腰掛ける。ソファが2人に増えた重みの分ふかりと沈んだ。触れ合う肩からじわじわと伝わる体温がいつもよりも高いのは彼がさっきまで布団にくるまって眠っていたからだろう。
    「友也くんがなかなか部屋に来ないので、迎えに来てしまいました」
    「うん、ごめんな」
    彼の手が俺の髪を優しく梳いて、流れるように肩に引き寄せた。触れる面積が広くなって、その分体温が伝わってくる。呼吸の度に吸い込む香りがふわふわと俺を包んで、とくとくと耳許で聴こえるゆったりとした鼓動が心地よい。
    そうして、だんだんと、おんなじになっていく。

    「何かしていたんですか?」
    「んー、なんにも。ぼんやりしてた」
    そうですか と小さく呟いて、またサラサラと俺の髪を梳いていく。慈しむような手つき。優しさが蕩けて髪の毛一本から身体全体まで染みていくようだった。
    彼がそれ以上何も問わないから、俺ももう何も言わなかった。遠慮も配慮もなんにもせずに、ただ彼の隣でぼんやりと、また流れ星のような思考を繰り返していく。

    「今夜は、なんだか やわらかな夜ですね」
    不意に彼がそう呟いた。なんでもないことのように、そっと。ふっと息をふきかけたら飛んでいってしまいそうな、そのくらいちいさな声。
    俺が思っていた夜を彼が言葉にしてくれたことが嬉しくて、もう一度、その言葉を聞きたくて、肩に乗せた頭はそのままに問う。
    「──渉も、そう思う?」
    「えぇ。やわらかくて、優しい夜だと思いました」
    ぼんやりしたくなりますね と彼はそう言って、夜に紛れるように柔らかく微笑んだ。さも当たり前のことのように、それはもう普通に、そう言ったのだ。
    俺はそれがたまらなく嬉しくて、思わず彼に抱きついた。ぎゅうっと飛びつくように抱きついたのに、彼は難なく俺を抱きとめて背に手を回した。
    「おやおや。ずいぶん甘えんぼうな兎さんがいますね」
    喉の奥で小さく笑いながら、幼子をあやす様にゆらゆらと揺れる。いつもなら子ども扱いするなって怒るけど、今夜はやわらかい夜だから。

    「渉」
    ゆらゆらと揺れていた彼の腕のゆりかごが止まる。彼は何も言わず、俺の言葉をただ待っていた。
    「俺も。俺も、そう思ってた」
    抱きついたまま耳許で話せば、背に回る彼の手の力が強くなる。近くなった心音が2人分重なって、夜の中に響いていく。
    ずっとこのまま抱きしめ合ったら、ほんとうに、おんなじになるんじゃないかと思った。

    彼が器用にソファにかけていたブランケットを広げて俺も一緒に包み込む。彼の腕の中も、ブランケットも、夜も、全部がやわらかくて優しい。
    流れ星の思考はいつの間にか止まって、彼と俺だけの静かな夜になった。
    「渉、寝なくていいの?」
    「そうですねぇ……。今夜はここで眠りましょうか」
    「身体痛くなるよ」
    「明日は取材だけですし、大丈夫ですよ」
    「そっか」
    「えぇ」
    短い会話を密やかに交わして、目を瞑る。彼がいいと言うなら、いいのだろう。ほんとうならアイドルの身体が痛くなるのなんて駄目なのに、今夜だけは、ぜんぶ許されてしまう気がしているから。

    深い呼吸を繰り返して、とろとろと瞼が落ちていく。もう少しだけこのやわらかな夜の中で揺蕩っていたいのに、抗えない睡魔が俺を包み込む。蕩けていく微睡みの隙間を潜るように彼が俺の名前を呼んだ。
    「友也くん」
    「ん……なに?渉」
    「友也くんは、明日何をするんですか?」
    「あぁ、布団、干そうかなって」
    「1人では大変でしょう?」
    「大丈夫だよ。明日は晴れるから、きっとふかふかになるぞ」
    「そうですか。それは楽しみですねぇ」
    そう言って、また深く呼吸をする。今度は睡魔に逆らわない。夜に優しく包まれて、眠る。

    明日の夜が今夜みたくやわらかくなくても、春のおひさまの下に干した布団はふかふかとやわらかくて、あたたかいだろうから。
    きっとまた、優しくてやわらかい夜になる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤😍😭❤❤❤😭😭❤❤💞🙏💘❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    maymfdear5

    DONE渉友です。
    前に上げた「優しくて、やわらかい夜」と同じ時空の秋の話です。
    くっだらないネタだなーと思いながらも、「ありふれた日常」がテーマなのでこんなことして遊んでて欲しいです。渉友、幸せであれ。
    前回と今回の2作に夏と冬の話を追加していつかpixivにあげます。
    こどものままでシガレット ガチャリと開けたドアの中が暖かくて、惚けたようにはぁと息を吐く。日中はまだ汗ばむのに、夜はさすがに半袖じゃもう寒い。日が落ちるのも随分早くなった。つい最近まで歩けば途端に汗が吹きでるような暑さだったのに、今では吹く風が頬をひんやりと冷やす。
    今年もきっと短い、秋。

    靴を脱ぎながらはたと気付く。今日は出迎えがなかった。あの人は一日オフだったはず。玄関に靴はあったし、出かけてるわけではなさそうだけれど。
    あ、そういえば俺もただいまを言うの忘れてた。まぁ彼は仕事部屋で何かしているか、俺を驚かせようとして隠れているかだろうな。後で言えばいっか。なんてぼんやり考えながらまっすぐ寝室に向かって部屋着に着替える。前にRa*bitsでコラボしたブランドのルームウェア。ふわふわで柔らかい生地が気に入って買い取ったら彼も欲しいと言うので結局お揃いにしたものだ。
    3860