お疲れ彼氏夜の帳も降りた深夜、世界探偵機構が拠点にしているホテルの一室にて俺ことエイフェックスはキッチンに立って消化にいい雑炊を作っていた。
何故こんな深夜にと言えば、それは“ジルチのため”
動物探偵という能力の特殊さから、ジルチにしか出来ない依頼というものが出来やすい。そんな依頼が重なり、アイツはここ最近寝る時間もロクに取れなくなってしまっていた。
そして今日やっと全ての依頼が完了し帰ってこられると連絡がついた次第だった。
ジルチの奴、ボロボロになって帰ってくるだろう。澄ましたアイツを思いっきり甘やかせるチャンスだ。
クククと笑いながら少しだけ雑炊を掬って味見をする。うん、旨い。スラムで一人暮らししてた時はメシなんて食えりゃいいって思ってたもんだが、恋人に食わせるとなっちゃ上達するもんだな。
ガチャン、パタン。
と、お疲れの彼氏がご帰宅だ。
「おう、帰ったかジルチ」
「あぁ……ただいま……」
出迎えるとジルチは半目でふらつきながら朧気に返事をした。風呂入れたら完全に寝るなこれは。やっぱ先にメシだ。
まずは帽子と上着を剥ぎ取ってソファーに座らせておき、器に注いだ雑炊を持って俺も隣に座る。
「ほら、口開けろ」
スプーンの上で少し冷ましてからジルチの口元に持っていくと素直に口を開いて食べ始める。そして最初の一口を飲み込むと食べ物が入った胃袋が活発化し、もっと食べさせろと求めているようにぐうぅーと鳴った。
エサ欲しがって鳴いてる雛鳥みてェ。
「んむ……むぐ…………」
一口、また一口とゆっくり食べ進めさせて、終わったら次は歯磨きだ。膝枕の体勢で仰向けにして歯ブラシを丁寧に動かしてやる。
ジルチの奴、腹が膨れた上に横になったせいで瞼が下り始めてる。
「もうちっと起きてろー? うがいはさせらんねェぞ」
「ぅ……」
うとうととしながらもまだ聞こえてはいるようで、頑張って目を開こうとしている。まァ雑炊だったから歯は使ってないし、今日は早めに終わらせてやるか。
肩を貸して洗面所でうがいをさせ、そのままの流れで風呂に入れるために全裸に剥いてやる。やらしいこともする仲なのにこんな状況じゃ風情もなんもねェな。
俺も脱いで共に浴室に入り、ボディタオルに出した洗剤を泡立ててジルチの身体を洗い始める。ジルチはもう完全に俺に身を委ねきっていて、凭れかかられた俺も泡まみれになっていく。
身体をシャワーで流したら湯気を立てる浴槽に肩まで沈ませ、首をフチに傾けさせて洗髪にとりかかる。
ボサり気味のクセっ毛をワシャワシャと泡立てて、頭皮をマッサージするように押し揉むととうとう瞼が下りきって寝息をたて始めた。これほどに安心しているのだと分かると可愛くて仕方がない。
「オメェはこれするとすーぐ寝ちまうもんなーうらうら」
手櫛がよく通るようになったら顔にかからないよう丁寧にシャワーをしてやる。そしてタオルで軽く水分をとってやったら風呂は終了。
抱え上げて洗面所へ連れていき、身体を拭いてパジャマを着せてドライヤーもかけてフワフワの髪にしてやる。いつも思うがこんだけ耳元で音鳴ってても起きねェのな。図太いのか眠りが深いタイプなのか。……両方だな。
「ほい終わりっと。一緒に寝ような」
また抱え上げて幼子にするようにベッドに寝かしつける。
電気を消して俺も添い寝すると、静かな空間にジルチの寝息だけが聞こえてくる。
「お疲れさま。おやすみ、ジルチ」
布団の中でジルチの手に指を絡ませて目を瞑る。
俺の意識は眠りに落ちていった……。