朝のるしいぶずいぶんと長く眠っていたような気がする。重たい瞼をこじ開けて窓の方を見たところで、魔界の暗い空は時間を教えてくれることはなかった。今、何時だろう。
枕元に置いてあるはずのD.D.D.を探し求めてゴソゴソと動かした手は、私よりもひとまわり大きい手に絡め取られてしまう。
「まだ起きるには早い時間だぞ、伊吹」
「あれ、ルシファー?」
執行部の仕事が押しているから今日は帰れないかもしれない、先に寝ておいてくれと宣っていた傲慢を司る悪魔さんがすぐ側にいる。なんと。嬉しい驚きだ。そのままルシファーはベッドに滑り込んできて、腕枕をしながらギュッと私を抱きしめてくれた。
「先に寝ておいてくれとは言ったが、まさか俺の部屋にいるとはな。寂しかったのか?」
「……うん」
だってこの部屋で待ってたら絶対にルシファーに会えるし。もし会えなかったとしても枕とかからルシファーの匂いもするし。そこまで考えたところで少し気恥ずかしくなって、彼の胸にぐりぐりと額を押し付ける。密やかに笑うように息を漏らしたルシファーには、私の思考なんて全て見通されてしまっているのだろうか。
「ふふふ、今日のおまえは素直だな」
「きのせい!」
「そういうことにしておくよ」
「なんか言葉に含みない?」
「それこそ気のせいじゃないか?」
目線を少し上に向ければ、うっすらと笑みを浮かべて余裕の表情、と言った顔つきのルシファー。パチリと目が合えば、くしゃりと眉を下げて笑っている。私の一番好きな彼の顔だった。
「ニヤついてるがどうかしたのか?」
「ん〜、すきだなあって」
事情を話すとルシファーも目を細めた。俺も好きだよ、とすぐに返してくれる。
「眠いんだろう?寝ようか」
「まだ、しゃべりたい……」
「続きはまた明日、だ。起きたら思う存分甘やかしてやる」
規則正しく背中を叩かれてしまっている上に、人の温もりを感じていては眠気に抗うことはできなかった。とろとろと瞼が重たくなる。
「おやすみ、るしふぁー」
「ああ。おやすみ、伊吹」
額に落ちる柔らかい感触と共に、意識が眠りに落ちていった。