プリクラ撮るルシ伊「そうだルシファー、プリクラ撮ろうよ!」
「……プリクラ?」
今日は彼と人間界のショッピングモールでデートをしている。買い物袋を悉く回収されている上に、右手はしっかりと手を握られているから、手持ち無沙汰になった左手でプリクラコーナーを指差した。
「なんて言えばいいのかな。お金を払って写真を撮ってもらう機械みたいな?ルシファーと撮ってみたいなって思ってたの」
「ふむ。種類があるようだが、おまえはどれがいいんだ?」
「じゃあこれにしよう」
複数並んでいるプリクラ機の中から一つを指差した。正直に言うと、久しぶりの人間界で久しぶりのプリクラだから機種なんて分かりやしなかったけれど、ルシファーと撮れるのなら何でもいいのだった。
「分かった」
彼の大きな手によってチマチマとコインが入れられていくのを見守る。背が高いため、少し屈む形になっているのがひどくアンバランスで笑いを堪えていると、ルシファーにバレて脇腹を小突かれてしまった。ごめんってば!
「背景とやらを選べるらしいぞ」
「どれがいいとか、あったりする?」
「おまえの好きにすれば良い。おまえの望みを叶えてやるのが、俺の望みでもあるからな」
耳元で紡がれる甘くて蕩けそうな言葉に顔が熱くなる。それを誤魔化すように首をブンブンと振れば、密やかな笑い声が鼓膜に響いた。
プリクラ機の中へと移動すればすぐに撮影が始まった。
待って、このままだとルシファーが映らない!一枚目、試しにルシファーに抱き付いてカメラ目線を向けた時に気が付いたけどもう遅い。
「ルシファー、もう少し屈まないと顔が映らないよ」
「何?」
ほら、と画面に映し出された一枚目のプリを示せば、ルシファーはククッと静かに肩を揺らした。
「笑い事じゃないってば。ルシファーも映らないと」
「悪かったよ。……こうだな」
仕切り直してニ枚目、三枚目、と、機械に言われるがままにポーズを決めて撮っていく。ピース、指ハートなどなど。撮影回数も残り僅かにになったところで、私の中にある欲望が沸々と湧いてくるのを感じた。欲が胸をついて出るのに任せて、撮影前のカウントダウンが始まるのを耳にしながらルシファーに声をかける。
「ルシファー」
「どうした、…ッ!?」
ルシファーの肩に手を乗せて、思い切って彼の頬にキスを落とした。
頬が熱くなるのを感じながら画面を見れば、驚いたのだろう、ほんの少し目を見開いたルシファーと、ギュッときつく目を閉じながらキスをしている私が映し出されていた。よしよし、密かに夢見ていた一枚の完成だ。
頬が火照っているのをパタパタと手で扇ぐ。じわじわと込み上げる嬉しさと気恥ずかしさで、機械が再びカウントダウンを告げていることに気が付かなかったのが私の敗因。
「今度は、こちらの番だな」
「え?」
ルシファーに声をかけられたときにはもう遅かった。グイッと顎を掴まれて、そのまま口付けを落とされる。思わず後退りそうになったけれど、彼が後ろに回した手によって簡単に遮られてしまう。挑発するように下唇を噛んで、彼の唇は離れていった。
「良い写真だ」
画面に映し出された写真を見つめながらルシファーは満足気に笑った。顔があまりの恥ずかしさで沸騰しそうになっているけれど、ルシファーが楽しかったのならいいかな、と思ってしまうのは私が彼に溺れているからなのだろうか。
彼の言葉に無言でこくこくと頷けば、柔らかな暖かさを滲ませながら、ルシファーは再び静かに笑ったのだった。