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    t_imukan

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    ジャケット脱いだら半袖が出てきた!?なルシ伊

    初夏の誘い いかにも初夏だと言わんばかりの青空と空気の匂い。ジリジリと照り付ける太陽の威力が強くてほんの少し汗ばむ季節。
     魔界とは打って変わって人間界は明るい、と思う。目に映る全てが夏らしい眩しさをたたえて輝いていた。
     ベンチに腰掛けて、ぼんやりと街並みを眺めみる。人々の会話や、車の往来の音が合わさって、ひとつの街を作り上げている。人間界ならどこにでもあるような都会の風景。ただ、ひとりの悪魔を除いては。
    「ほら、買ってきたぞ」
    「ありがとう、ルシファー」
     片手にアイスティーを携えて、ルシファーがこちらへと歩いてくる。
     それにしても、ただ歩いているだけなのに嫌味なくらいに格好良い悪魔だ。魔界で見慣れた私服とはまた違う、隙のないスーツに身を包んでいる。様になっているしとても似合っている。
     ほんの少し頬に熱が集まったことを自覚して、パタパタと手で顔を仰ぎながらアイスティーに手を伸ばした。
    「フ…、見惚れたか?」
     心底嬉しそうに言われて、返事がワンテンポ遅れてしまう。これでは図星だと白状しているようなものじゃないか。畳み掛けるように、図星か、と声をかけられるものだから、ギュッと顔を顰めてしまう。アイスティーを無言でグイグイと吸い上げた。
    「そう拗ねるな。おまえと久しぶりのデートだからな。浮かれてるんだよ、俺も」
    「もう……」
     私の髪や頬を撫でる手つきも、彼の目に浮かんでいる色も優しくて、胸の底がギュゥっと甘く締め付けられる。
    「……そういえばルシファーは暑くないの?」
     スーツどころか、小洒落たネクタイまでしっかりと締められている。魔界とは違って、こちらは湿度もあるし暑いのではないだろうか。
    「そうだな……少し上着を持っていてくれるか?」
    「もちろ、ん……!?」
     半袖だ。嘘でしょう!? ジャケットの下、半袖だったの!?
     シワひとつない半袖のワイシャツから、彼の白くて筋肉質な腕がすらりと伸びていた。そのまま片手でネクタイを緩めるものだから、ごくりと喉を鳴らしてしまう。
    「ん? どうした?」
     私の気持ちを見透かすように目を細めながら、ルシファーはグッと顔を近付ける。目を逸らして逃げてしまいたいのに、怪しく光る黒と赤の混じった双眼から目が離せない。
    「……続きはまた夜に聴かせてもらうとしよう。構わないな?」
     ルシファーは顔を耳に寄せて、砂糖菓子のように甘くて狡い誘惑を私の鼓膜に響かせる。心臓が燃えるように震えるのを感じながらこくこくと必死に頷けば、彼は口の端を吊り上げた。
    「ほら、行こうか」
     ダンスでも誘うかのように伸ばされたルシファーの手に導かれるように、自分の手をそっと重ねる。
     彼は軽く私の指に口付けた後、指を絡めるようにしながら私を立ち上がらせた。逃がすものかと言わんばかりに。
     悪魔に魅入られ、悪魔との恋に身を焦がす人間に、逃げるという術は残されていない。もちろん、逃げるつもりもないのだけれど。
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