布教する伊吹のレヴィ伊「そういや、おまえもなんかないの?」
「なんか?」
バスタブに沈みながらカチカチとゲームをしているレヴィが言う。視線はゲームの画面に向いているけれど、意識がこちら側にあるのが分かった。
「ぼくばっかり好きなものについて喋ってるだろ?花るりたんとかさ。だからおまえも、なんかぼくにもないかなって」
「え、いいの?」
これは、願ってもないチャンスだ。彼に自分の好きなものを共有できる嬉しさと、同じ苦しみを味わってほしいというほんの少しの加虐心。沸々と湧き上がる感情に名前をつけることは難しい。
「お、その反応だとあるんでござるか?いいよ、どんときて!」
どうやら遊んでいたゲームに一区切りがついたらしい。携帯ゲーム機をポイっと放り投げて、彼はバスタブの中で座り直した。
こちらをじいっと見つめる目線は、未知のものを知りたいとでもいうような、キラキラとした光に満ちている。
「あのね。TYPE-MOONって知ってる?」
「うーん、名前だけは知ってるけど。まだちゃんと履修できてないんだな、これが」
「ふふ、それは好都合。レヴィ、FGOをやろう!」
自身の体重を預け切っていたクッションから勢いよく立ち上がり、レヴィの前に仁王立ちする。パチパチと瞬きを繰り返す彼の様子が愛おしい。
「えふじーおー?」
「そう。フェイトグランドオーダーの略でね。人間界のゲームなんだよ」
D.D.D.にダウンロードできるかどうかはちょっと分からないけれど、ルシファーか殿下にゴリ押しして、どうにかして人間界の端末を仕入れてもらえばいい。
「レヴィ、絶対好きだと思うの。それでね、私、ドクターについて一緒にしゃべりたいなって!」
「ぼく知ってる。そういう前フリするってことは絶対にヤバい奴なんだろ。わかってるんだからな!」
ほんの僅かに、警戒するかのようにレヴィの目が細められる。だけどその裏にある好奇心が隠しきれていなかった。よし、もう一押しだ。
「レヴィに私の好きなゲーム、知ってほしいなぁ」
目の前でしゃがみ込んで、綺麗な琥珀色の眼を掬い上げるようにして見つめる。それから、しっとりとしている彼の頬っぺたをつんつんと突いた。
「それは狡いだろ…」という小さな呟きとともに、片手を顔の方に寄せるレヴィ。ああ、かわいい。ジロリと睨んでいるけれど、まるで迫力がない。お互いに本気で怒っている訳ではないと、よく知っているからこそのやりとりだった。
「いいよ、やってやるよ。その代わり!このゲームに関してはぼくのほうが初心者なんだから。色々教えろよな!」
「もちろん、最初からそのつもりだよ」
ずっとしゃがみ込んだままなのもしんどいものである。ゆっくりと立ち上がって思いっきり伸びをしていたら、服の端をクイっと掴まれた。レヴィの顔を見ると、絶対にこの手を離すもんかというような、真剣さが滲んでいる。
「どうしたの?」
「じゃあ、明日1日付き合ってよ。RADもないし。他の奴らと約束もしてないだろ?」
「そうだけど」
「だから、朝から晩までぼくと一緒にいてよ。いいでしょ?」