夏休み最後記念のルシ伊 昼間の騒々しさとは打って変わって、静まりかえった館の廊下を歩く。なじみのある人間界の月の光が窓から差し込んでいた。向かう先はキッチン。目的は何かお腹に入れるものの調達だ。
キッチンの方へと歩いて行けば、淡い光が漏れている。どうやら先客がいるらしい。マモン辺りがカップラでも仕込んでいるのだろうか、と見当を付けながら入り口に近づく。
「って、ルシファー?」
「あぁ、おまえか。こんな時間に起きているなんて、悪い子だな」
こちらを一瞥して、口角をつり上げながら言う。咎めるような言葉であるけれど、言い方はひどく甘ったるい。
「それを言うならルシファーもでしょ」
「俺はいいんだ」
「えぇ〜」
平然とした態度で言ってのけるものだから、彼の言葉には不思議な説得力が生まれていると思う。今まで何回それに流されてきたことだろうか。そういうのも悪くはないと思ってしまう地点で、私はかなりこの悪魔に絆されてしまっている。
「何してるの?」
「夜食を作っている」
そうっと彼の手元を伺うと、即席麺の袋をちょうど開けているところだった。
「ルシファーがカップラ食べるの?珍しいね」
「たまにはこういう日もあってもいいだろう。おまえも共犯だからな」
赤い宝石が挑戦的な光を宿しながらこちらを見下ろしている。挑むように見つめ返して、もちろん、と返事をした。