泪の理由(ワケ)を泪は弱さの象徴だ。
我はそう確信している。
あ奴らはその弱さゆえに悲しみ、嘆き、怒り、絶望し、泪するのだ。
故に我は泣かぬ。そのようなものはとうに忘れた。
我は泪を知らぬ。そのようなものは理解する必要もない。
そのようなものは、強き者には無縁だ。
他人の傷など、他人の苦しみなど、知ったことではない。
奴は、我が視るいかなる時も泪しなかった。
我にその腕を痛めつけられてもなお、主君の真実を知ってもなお、我の業を見てもなお、過去の災を知ってもなお。
その眼に泪が光ることはなかった。
我は確信した。奴は強きものだと。
故に我はあの男を認めた。
我は泪の理由を、知らない。
「……勝者が泣くな」
「…………」
仰向けに転がる我に、覆いかぶさる金色の髪。
その手には退魔の剣が握られ、今にも我が額を貫かんとしている。
仮に負けても我は強きもの、決して泪したりはせぬ。
睨むように仰げばその瞳からは雫が落ちて我が頬を濡らした。
「なぜ貴様が泣くのだ」
「わからない」
「では泣くな」
「泣いて、ない」
顔を歪め、その手の剣はブレることなく構えられたまま、ぽたぽたと雫が落ちる。
「泣いているではないか」
「煩い、黙れ」
我は軽く息をついて、目を閉じた。
そうしたほうが奴もやりやすいだろうと。
そんな我が顔に、ぽたぽたと、ぽたぽたと、泪が落ち続ける。
我は泪を知らない。
我は泪を理解しない。
我は強者故、奴も強者故、泪を知らない。
そして今後も、永遠に、理解することはない。
死ぬ瞬間にそのことが勿体ないと、彼の泪を理解できないのは勿体ないと思うと同時に。
奴の泪を理解しないのは勝者に対する唯一の賛辞であり同時に敗者の特権であると、そう思うことにしよう。