ゼネオルシア家はガテラティオで一番力のある貴族である。権益の放棄を宣言したとはいえ、その地位に変わりはない。現当主のユウはまだ年若い青年で、人柄も良く人望も厚い。以前はその言動により目立っていた幼さも年相応の落ち着きを備えれば、端正な顔立ちに惹かれる者は多いだろう。
ようするに、年頃の若い娘にとってユウ・ゼネオルシアという存在は恰好の的だった。
大聖堂の出入り口、貴族の娘に足止めされているユウの姿を見つけ、ジャンはまたかと顔を顰める。あの娘は確か以前長老派と呼ばれていた流派に属していた家のものだ。復讐対象だった家系は本家分家含め全て頭に入れていたからすぐにわかる。アニエス派を組んだ流れが主流となった今では彼らは肩身が狭く、再興の為にゼネオルシア家に取り入ろうというのだろう。
1883