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    フスキ

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    フスキ

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    水麿小説、静ちゃんと巴ちゃんと。静・巴がまろくんに懐いてしまってやきもちを妬くすいくんのお話です。告白話。

    (水麿と静と巴)思い描いた答え ただの親友、でいられた頃が懐かしいと思う。そしてずっとそう在りたかったとも。
     そんなふうに水心子が考えてしまうのは、己が変わってしまったからだ。想いを宛てる先の清麿が変わったわけではない。変質したのは、自分だ。

     本丸に来て、清麿がたくさんのものに愛される刀であることが分かった。考えてみれば当然のことなのだ。もとより柔和で優しく、そのうえ美しい刀だ。政府にいた頃は関わる相手が水心子くらいしかいなかったから、彼を好きになるものも水心子だけだった。今は違う。本丸で、数多の仲間に囲まれている。彼らが清麿を好きにならないはずがない。
     最初のうちは、さすが清麿、と思うだけだった。それ以上を考える余裕がなかっただけだ。本丸の生活に慣れ、他の仲間に慣れてみれば、いつの間にか清麿の傍は自分だけの居場所ではなくなっていた。清麿のもとには刀剣が集う。それでも、我慢しようとした。
     巴形薙刀と静形薙刀が、清麿に懐き始めたあたりから、我慢さえつらくなった。
     彼らは清麿に、よく密着する。子が親に懐くとか、犬が飼い主に懐くとかに近いものであることは水心子にもよく分かっている。けれど、一瞬だけ、よからぬ想像がよぎった。
     ──清麿と、二人が、付き合っていたらどうしよう。
     分かっているのだ、そんなわけはない。それでも一度浮かんだ思考はなかなか消え去ってくれなかった。
     そんなふうに考えてしまうのだって、水心子が清麿にそういう想いを寄せているからだ。それを自覚してしまったから、他者もそうなのではないかという疑念が生まれる。馬鹿げたこと、なのだろうに。
     ──馬鹿げたこと、だって、笑ってよ。
     気づけばもう、二人きりで彼が笑っている姿を見たのもずっと前だ。

     審神者の使いを終え、清麿を探して本丸の廊下を歩く。駄賃にと甘味をもらったので、一緒に食べようと誘いたかった。
     縁側に出た時、探していた薄紫の頭を見つけた。──けれど同時に、彼を起点に左右に伸びる背の高いものたちの身体も目に入って、ぐ、と息を飲んだ。
     心を襲う靄を振り切るように、彼の背後まで歩み寄る。
     振り向きもしないのに、清麿は『水心子?』と呼んでくれた。
    「……よく、分かるな」
    「分かるよ。君のことだもの」
     言葉だけがいつも甘やかだ。彼の肩に、そっと触れる。
    「……膝枕、重たくない?」
     ふふ、と笑った清麿が、ちいさく振り向いて大丈夫だと口にした。
    「少し痺れてきてしまったけれどね。でも、二人ともぐっすりだから」
     左右から清麿の腿に頭を載せ、巴形と静形が両側に伸びて寝ている。二人で分け合うのでは寝づらいだろうに、どちらも安らかな寝顔をしていた。
    「脚……痺れるなら、起こしてもいいんじゃないか」
     けれど彼はううんと首を振った。
    「二人とも、午前は馬当番を頑張っていたからね。休める時に休んだほうがいいんだよ」
     僕なんて今日は非番なのだから。……そう続けられることが、歯がゆい。非番だから、自由にしたらいいだろう。そして、……できるなら、僕と一緒に。
     うまく言えない。どうしてだろう。甘味をもらったんだと言えばいい。一緒に食べよう、と誘うだけでいい。それなのに、言葉が出てこない。
     誘えないのは、断られるかもと思うからだ。今はもう政府にいた、二人だけだった頃とは違う。清麿は他者を選べる。水心子だけをいつまでも選び続けてくれる確証なんてない。
     ──そうだ、親友、でなくなったのは、彼のほうこそそうかもしれない。水心子のそれは友情が恋情に変質してしまったからだけれど、彼の場合は、単純に、もう、水心子を一番だと思っていないという、ことだって。
     ぐちゃ。頭の中が、墨で汚される。心まで支配されていく。
     泣き出しそうな心地で、目の前の清麿の肩を掻き抱いた。
    「水心子?」
     しかし彼は、いつもの穏やかな声のまま。
    「ふふ、どうしたんだい、水心子も甘えん坊さん?」
     彼の手が、側頭部を撫でてくる。優しい手つき。二人きりならば嬉しいだけの触れ合いなのに、今彼の膝を占領するのは、ふたつの薙刀で。
     もし、彼らと清麿が、恋仲だったら。
     知っている、そうなったら敵うわけがない。清麿がもしも彼らのような屈強なものが好きなら、水心子なんかで満足してくれるわけはないだろう。水心子は彼自身より背が低く、力も弱くて、頼りない。
     敵わないと思うから、こんな想像をしてしまうのだ。すこしでも生きる道はないかと探すために空想する。それでも、やはり、太刀打ちできるわけはない。
    「……きよまろ……」
     呼ぶ以外に何も言えぬまま力を込めると、彼も何か普段と違うことを察したらしい。慌てた声が名前を呼んできて、大丈夫かと窺ってくれる。
    「水心子、何かあった? もしかして、どこか具合が悪いのかい? ……水心子、顔を見せて」
     そう言われたって見せられる顔なんてしていない。さらにきつく抱きしめた。
     うろたえる清麿の膝、静形が、ぱちりと目を開けた。
    「……んん~……よく寝た……」
     巴形にぶつからないように伸び上がった彼と目が合う。つり目がきょとんと水心子を映した。
    「おお、清麿が自慢に抱きつかれている」
    「こら……静形」
    「清麿はいつもお前の話ばかりしているぞ! 自慢なのだといつも嬉しそうに」
     膝枕のまま嬉々として話し始めた静形に呆気に取られていると、その反対側で巴形が唸り始めた。その目もまたうっすらと開く。
    「うるさいぞ静形……ん、水心子か」
    「あ、え、ええと」
     目を醒ました大男二人に見上げられると、思っていた以上に迫力があり水心子はついうろたえてしまった。すこしだけ苦笑した清麿が、大丈夫だよと二人の頭を撫でる。
    「怖くないよ。二人とも、優しい子たちだから」
     そして、静形も巴形も、幸せそうに笑うのだ。
    「……子たち、なんて、清麿が言われる側だろう」
    「まあ、俺たちは中身がないからな」
    「清麿にいろいろ教えてもらっているのだ。お前の友はいい刀だな!」
     笑いかけられるのも、すこしも嬉しくない。胸の内に広がる、邪魔だ、という感情をどうにもできない。消せないし飲み込めもしない、ただ、振り回されそうになることから必死に逃れようと清麿をきつく抱いた。
    「水心子? ……くるしい、よ」
     けほ、と彼が腕の中で咳き込む。それを聞いた瞬間、もう、耐え切れなくなった。
     ──僕は、君より背が低くて、力が弱くて、……なのに、君を害することしかできない。
    「ど、どうした」
     静形が焦って跳ね起きる。え、と動揺する清麿に、ゆっくり起き上がった巴形が告げた。
    「水心子、泣いているぞ」
     清麿が振り向こうとする。けれど強く抱きついているから水心子の顔は見られない。見せたくなんてなかった。見られたら、本当に嫌われてしまうように思えた。
    「水心子、どうしたの、顔が見たいよ」
     いやだいやだいやだ。見ないで。僕のことなんてもう振り向かないで。そう考えながら、うそつき、と自分で思う。
     本当はこちらを見て欲しかった、ずっと。水心子の親友の清麿に戻って欲しかった。そうしてくれたら、恋情なんて忘れるから。なかったことにするから、そう努力するから、だから、僕だけの君に……。

     腕が、ほどける。脇の下を持ち上げられて、清麿から離れていく。情けない短い悲鳴が漏れた。
    「お、おい、巴形、そんな持ち方をしては壊れてしまうぞ」
    「壊れるものか。俺たちより練度の高い刀だぞ」
     清麿に抱きついていたのを、巴形に持ち上げられ引きはがされた。足が宙に浮いている。
    「水心子」
     振り返った清麿が、目を丸くする。濡れた目で視線を交わす、水心子は今どういう顔をしているのだろう。自分でも、何も分からない。
     ぐっと息を詰めて、清麿が、巴形に『放してあげて』と言った。言葉に従って、水心子の足が床につく。
     清麿に抱きしめられた。
    「……え」
    「巴形、静形、……ごめんね、水心子と二人きりにしてくれないか」
     水心子が目を見開くうちに、二人は視線を交わし頷き合って、清麿に『分かった』と返した。そうして立ち去っていく。廊下がきしきし軋んだ。
     清麿の腕が、そっとほどける。自分はまた妙な顔をしてしまったのだろう、彼は切なげに微笑んで、大丈夫だよと手を繋いでくれた。
    「……お部屋に行こうか」

     部屋に戻った時、彼が息を飲んだ。座卓の上の駄賃のあんみつふたつを見たからだ。
    「……もしかして」
     さすがに察しがいい。僕の大好きな清麿は、そんなところさえ完璧なのだ。そう思いながら、うん、と頷いた。
    「もらったから……一緒に食べたくて、誘おうと思って、探してた」
     彼が表情を歪め、その顔を俯けてしまった。苦しげな声が零れる。
    「……ごめんね、気づけなくて。きっとぬるくなってしまったよね」
    「そんな……僕が言えなかっただけだ、清麿は悪くないよ」
    「そんなことない……水心子は優しいから、僕や二人を気遣って言えなかったんだろう。……こんなの、親友失格だよね……」
     飛びつくように、その肩を掴んだ。それだけは嫌だった。その言葉だけは受け取りたくない。
    「ちがう、いやだ、……僕から、君の親友って肩書だけは、奪わないで! ちゃんと、親友になるから……僕、ちゃんと、聞き分けよくして、欲張らないで、いるから、……っ」
     また視界が滲む。清麿が真意を測るような顔をした。どうしたの、と問われ、逆に肩に手を添えられる。
    「水心子、落ち着いて、だいじょうぶだよ……ごめんね、僕が変なことを言ってしまったから」
    「ちが……きみはっ……」
     うまく言葉が出てこない。そのくせ涙はぼろぼろと出た。拭うことも間に合わない手で、清麿を抱き寄せる。
     もう、いいや。諦めのように、堰は切れた。
    「……きよまろが、すきなんだ」
     言葉を飲む彼の身体を、強く抱いて、ぐすぐす鼻をすする。
     情けなくて、結局隠しきれなくて、馬鹿みたいだ。
     馬鹿だって、どうか、笑ってよ。
    「好きに……なっちゃったんだ。恋なんて、しちゃった、……でも、それで君の横にいられなくなるなら、親友のままでいい、親友のままがいいよ……。だから、おねがい、きよまろ、僕から君を奪わないで……」
     涙でもう何も見えないくらい、泣いて。しゃくりあげて、ふいに、頬に手を添えられた。ぐしゃぐしゃの顔が上向けられて、何も見えない視界の中、肌色が近づいてくる。
     唇に、柔らかいものが押し当てられた。
     瞬間、瞬きとともに涙がぼろっと落ちて、見えるものが一瞬クリアになる。清麿の顔がすぐ近くにあって、その頬は、真っ赤に染まっていた。
    「……ふえ?」
    「……君は、欲がないやつだよね」
     首筋にもたれかかってくる身体が、熱い。理解が及ばない頭を必死に回して、あることに思い至る。
     唇に触れた、柔らかいもの。……あれって。
    「……え、」
    「僕だって、ずっと悩んでいたよ。君の傍から離れれば、忘れられると思ったんだ。……でも、それって、余計なことだったんだよね」
     ごめんね。そう続けられて、やっとすべてがあぶり出されたようにじわりと繋がって、また涙が溢れた。
    「……きよまろ、もういっかい、言うよ」
     その答えが何なのか、僕はもしかしたら、分かっているんだろうか。
    「きみが好きなんだ……」
     そうして僕の、多分に希望の入り混じった想像通りの答えを、君はその唇で紡いでくれた。
     温かでせつない響きが耳に届く。
    「僕も、水心子が好きだよ……」
     ──ああ、そうやって君は笑ってくれる。馬鹿だって、嘲るんじゃなくて、本当の温かい笑顔をくれる。
     きみはいつだってそうだったのに、僕は信じられていなかったんだ。そのことも、償わせてくれるだろうか。
     君の傍で、ずっと、これから。

    「清麿、膝枕をしてくれ!」
    「いいけれど、どちらかは水心子にお願いしてね」
     この間と同じ縁側、清麿に飛びついてきた静形がきょとんとこちらを見る。
    「……わ、私の膝ですまないが、清麿の負担軽減のためだ。ご協力いただけると助かる」
    「ほう、水心子も膝枕をしてくれるのか。静形、どうする」
     問いかけた巴形に、静形はうぅんと不安げに唸った。
    「俺は、清麿がいい……水心子は壊してしまいそうだ……」
    「それは私が小さいからか!? 壊れてたまるか、私のほうに寝てくれ静形殿!」
    「ううううう怖いいいいい……!」
     そんなやり取りをしているうちに巴形が清麿の膝に寝てしまい、静形が固まる。
    「観念してもらおうか……」
    「ひいいいい」
    「膝枕をする側とされる側の言葉ではないよ水心子、静形……」
     苦笑するような清麿の声を聞きながら、静形の頭を自分の腿の上にねじ込む。震えながら横たわる静形がはっとしたように『清麿の膝よりまた硬さがあって、いいかもしれん……』と漏らすのを、清麿と顔を見合わせてけらけら笑った。
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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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