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    まろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。

    #水麿
    mizumaro
    #水麿天使パロ

    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
     考えすぎかもしれない。それでも怖くて、怖くて堪らなくて、清麿に絶対入ってはいけないと言い聞かせて普段使っていない部屋に飛び込んだ。
    「きよまろ、ごめん。……早く治すから、治ったら、ちゃんと」
     そこで、水心子はひどく咳き込んでしまった。腹から破裂するようで、もう身体中が痛くて、涙が滲む。咳の隙間に、清麿がドアの外で発する心配の声が聞こえる。
    「……よ、まろ、……だいじょ、だから、そとに、いて」
     また、げほごほっと弾ける咳。あああ、もう、止まれ。薬は飲んだじゃないか。清麿に、心配させたくない。
     健康でいたいんだ、僕は。清麿とずっと一緒にいたいから。
     清麿を守れるのは僕しかいないから、僕が、こんなんじゃ駄目なのに。
     やっと少し咳が鎮まって、その時、清麿の声がした。
    「……ねえ、水心子。お願いだから、中に入らせて。傍にいさせてほしいんだ」
    「……だ、め、だよ、……きみに、うつったら、」
    「水心子。僕、分かったことがある」
     唐突に変わった話に、言葉を止めて先を待つ。清麿がかすかに、ふふ、と笑んだ気配がした。
    「僕は、人とは救済を必要とする、か弱い生き物なのだと思っていた。……けれど、違うよ。水心子と一緒に暮らして分かったんだ。人は、案外強い。決して脆くなんてない」
     ──僕がしていたことは、ただ「見くびっていた」だけだったんだ。
     清麿の、微笑む気配。言いたいことは分かる。けど、けれど、頷けない。
    「……でも、人は、あっさり死ぬよ。……僕は嫌だ、君が、もし、あっけなく、空に帰っちゃったら」
     嫌なんだ。清麿がいなくなったら、僕の何もかもは本当に意味を失くしてしまうだろう。今までの家族の死は、清麿に出会うための糧にできたけれど、清麿がいなくなったらどうしたらいいんだ。清麿の他なんて、何も要らないのに。
     清麿が、穏やかに声をかけてくれる。
    「そうだね。人はあっけなく死ぬこともある。……だから、傍にいたいと思うんだよ」
     ──きみが、そうなってしまわないように。
    「……ぼ、く」
    「水心子ときたら、自分の心配はちっともしてくれないんだもの。今、具合が悪いのは、水心子なのに。僕ではないのに、僕のことばかり心配して、自分はほったらかしで」
    「あ……」
     僕が君を心配しているってこと、ちゃんと理解できていなかっただろう。そう問われて、布団の中すこし縮こまる。清麿の言う通りだ。
    「……ごめん」
    「もう。……ねえ、水心子。風邪なんて、移らないかもしれない。移ったところで、そんなに重くはならないかもしれない。……そもそも、そんな先のことはどうでもいいんだ。僕は、今の君が、とても心配で不安なんだよ。今、君の傍にいたい。……開けるよ?」
     拒む言葉が、ひねり出せなかった。
     ドアが開いて、清麿が覗く。その腕に、熱さましのシートやスポーツドリンクが抱えられているのを見た時、……心配に垂れた清麿の眉を見た時、こらえきれなかった。
    「……きよ……まろぉ……」
     ぼろぼろと涙が生まれる。清麿は、ああほら、と苦笑しながら駆け寄ってきて、荷物を置いて抱きしめてくれた。
    「つらかったね、水心子……僕の心配をしてくれて、ありがとう。大丈夫だよ、傍にいるからね……」
     僕だけの天使は、僕の所属する単位をいつだって「二人」にしてくれる。

     涙が収まって、冷却シートを貼ってもらった水心子は、下の階のいつもの寝室で横になった。清麿が、そっと頭を撫でる手が心地いい。
    「水心子、ご飯なにがいいかな? 体力がつくものを食べなければね」
    「……クリームシチュー……」
    「あはは、いつも通りじゃないか」
     そうなんだけど、と、水心子も笑ってしまう。一人で部屋に籠もっていた時はあんなにつらかったのに、清麿がいることは不思議だ。心も身体も、柔く解ける。
    「あ、でも鶏肉がないや……ちょっと買いに行ってきてもいいかい?」
     しかしその言葉に飛び上がって、水心子は待ってと彼の手を掴んだ。
    「……と、鶏肉、なくていい。お肉要らないから、家にいて」
     すこし恥ずかしい気持ちも持ちつつ、そう強請ると、清麿は面映ゆそうに笑った。
    「……久しぶりだね、お肉のないシチュー」
    「清麿オリジナルって感じで、あれも大好き。嬉しい」
    「ふふふ、ありがとう」
     そんなやり取りをした時、また咳が出た。思わず強張る背を、清麿の手が撫でてくれて、それだけで痛みが和らぐ。少しもつらくなくなる。
     清麿は、もう奇跡なんて起こせないというけれど。僕だけが知っている。清麿は、僕だけに奇跡をくれる。本人にそんなつもりさえない形で。
     清麿は、いつまでも僕だけの天使だ。
    「でも、台所に行かないとシチューも作れないのだけれどな」
    「……僕が寝たら、作って」
    「寝るまでここにいて、ってことだね」
     あっさり心を読み取って、清麿は口元を綻ばせる。こんなに子供のようにして、嫌われないだろうかと少し怖くもあったのに、彼は水心子をどこまでも許した。
     白い手が布団をかけ直してくれる。そして肩口をぽんぽんと、一定のリズムで叩かれた。そうすると意識が柔らかい膜でくるまれたようにふわふわとしてきて、瞼が重くなってくる。自分が眠りにつこうとしていることを悟って、水心子は、無意識に清麿の服の裾を握った。
     清麿が困った顔で笑う。
    「……もう、それだと、離れられないよ……」
     はなれなければいい。どこにも。

     咳も忘れて、柔らかな眠りに落ちる。
     目を開けた時に君がまた笑ってくれたら、引いていた風邪さえも忘れてしまえる気がした。

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    フスキ

    DONEまろくんが天使だったパロの水麿、すいくん風邪っぴき編です。
    ひとは弱くそして強い(水麿天使パロ) 僕の天使。嘘でも誇張でもない、僕のために人間になった、僕だけの天使。
     水心子は、ほとんど使っていなかった二階の部屋に籠もり、布団をかぶって丸まっている。鼻の詰まった呼吸音がピスー、ピスーと響くことが、いやに間抜けで、布団を喉元まで引き上げた。
    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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    「……水心子」
     僕だけの天使、が、ドアの向こうから悲しげに呼びかける。
    「入らせて。ね、顔が見たいよ」
     清麿は、心細くて堪らないような声でそう言った。ぐっと息を詰める。顔が見たい、のは、こちらだってそうだ。心細くて堪らないのだって。けれど、ドアを開けるわけにはいかない。
     水心子は風邪を引いてしまった。もとより人である水心子は、きちんと病院に行き診察を受け、薬を飲んで今ここで寝ていられる。けれど、一緒に暮らす清麿は、元が天使だ。医療を受ける枠組みの中にいない。もし彼に移してしまって、悪化してしまっても、水心子には術がない。天使だったのが人になった身なのだ。病院で診られて、もしどこかに普通の人とは違う部分があって、それが発端となり彼を失うことにでもなったら。
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