デートして、繋げて、それから地下で行われたライブを終えバンド仲間と解散し、一人ジャケットに手を突っ込んでライブハウスを出た。春が訪れる三月。夜でも春の穏やかな暖かさが感じられる季節にアダムは欠伸をしながら愛用のギターケースを背負い歩く。
夜ももう遅いくせに人の波は止まない。近くの駅方面へ歩いていく足達に逆らい、アダムは一人自宅へと足を進めていた。
その時は愛用しているワイヤレスイヤホンが充電切れでたまたま何も音楽を聴いていなかった。
だから突如流れてきたソレはアダムの耳に大きく入ってきた。
ソレはグランドピアノから出る音だった。力強く、そして滑らかに奏でられる音色にアダムはピタリと足を止めてしまった。普段ジャズを聴かないアダムでも分かるくらい、素晴らしい演奏だった。
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