消えた記憶 淡い光が広がっていた。点灯していない蛍光灯がついた天井がカーテンで仕切られている。
なぜオレはこんな所に居るのだろうか。思い出そうとして頬に風を感じた。そちらを向けば少し開いた窓があり、そこからの風がカーテンを揺らしていた。
多数の不規則な足音が遠くに聞こえる。館内放送が静かに誰かを呼び出していた。乾燥機で乾かされたシーツの匂いがして、自分が横になっているベッドを見やる。ここが病院であることは間違いなさそうだ。淡い桃色のカーテンがベッドをぐるりと囲んでいる。
すると早足で歩いてくる足音が聞こえた。それはこちらへ近付いてくる。それをぼんやりと聞いていたらカーテンが勢いよく引かれた。白衣を着た男がこちらを見ている。白衣を着ているからには医者だろう。服の上からでもわかる筋肉質な肉体をしている。医者はオレを見て安堵したように表情を緩めた。
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