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    はゆや

    @soushokukoebi

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    はゆや

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    平安パロ忘羨

    #忘羨
    WangXian
    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    思へどもなほぞあやしきあふことの なかりし昔いかで経つらむ 温家に仕える為、江厭離を都に送れ。

     この国を治める温氏からの通達だった。期間は三年。この通達を受ける名家は喜ぶ者が多かった。温若寒に気に入ってもらえれば入内する事ができ、一族の繁栄に繋がるからだ。
     しかし、厭離は違った。幼少期より親同士が婚約の約束をしていた金子軒を想っている。最初は想いが届かず、遠くから眺めるだけだったが、最近想いが通じ合い、もう少ししたら正式な婚姻を結ぼうと話したばかりだった。
     そして、温家は両親に罪を着せ、殺した仇でもある。滅亡は免れたものの、要求を拒否すれば今度こそ無事では済まないだろう。
    「子軒様。私は怖いのです。貴方が他の人の元に行ってしまったら耐えられない……」
    「阿離。私はずっと、いつまでも君のことを待っているよ」 
     金子軒は慣れない手つきで江厭離を抱きしめた。
     金子軒も、彼女の弟二人も、金子軒の心変わりなど露程も思っていない。
     江厭離は才も見た目も平凡だった。しかし、心は誰よりも美しい。三年という月日は長い。彼女の良さに、温氏の男が気づいてしまったら……
    「姉さん、俺が姉さんになるよ」






     魏無羨は蓮の花が彩られた衣に袖を通した。髪は綺麗に結い上げられ、白く柔らかな首筋が風に触れる。
    「江厭離、蓮花塢より参りました。本日から精一杯努めさせていただきます」
    「……気持ち悪いから誰もいない時は普通にしてくれないかしら?」
    「温情、そんな悲しいこと言わないで? 離離泣いちゃう。あぁ! その針を向けるな!謝るから!」 
    魏無羨は江厭離になりすまし、都にきた。彼が務める先は、温情の元だった。
     魏無羨と温情は知人だ。昔、彼女の弟である温寧を助けたことがあり、それから少し交流があった。温氏が江氏に攻め込もうとした時、江氏三姉弟を助けたのもこの人物である。
    「ほんとあんたって、大胆で奇想天外なことばかりするわよね。あまり問題起こしたら、使い物にならないって解雇にしてやるから」
    「本当か? じゃあ、今すぐ解雇にしてくれてもいいぜ!」
    「協力してあげたんだから、血反吐を吐くまで働かせるわよ!」
     二人のやり取りをみて、温情の御付き達もくすくすと笑う。
    「無羨さんを厭離さんの名前で呼ぶのは違和感ですし、名前を呼ぶわけにもいかないから、あだ名が欲しいですね」
    「蓮花塢にちなんで蓮の君とかいかがかしら?」
    「お! いいね! 俺は今日から蓮の君だ!」
    「魏無羨、言葉遣いとか本当に気をつけなさいよ。何かあった時、私も咎められるんだからね!」
     三年という月日は長い。温情と事情知る温情の御付き、そして護衛の温寧に協力してもらいながら、穏やかに過ごそう。そう、思っていた。


     魏無羨が静かに暮らすなど、三日たりとも保たなかった。
    「あー! 身体が訛る!!」
     蓮花塢に居た頃は剣を振るっていたが、今は毎日毎日筆を走らせる日々だ。
     冷たい空気が一層月を美しく見せる夜、魏無羨は部屋の前の庭で剣を舞った。
     侵入者だと間違われないよう、女装したまま江家の鈴を腰につけ、鳴らしながら。
     リン、リンとまるで神下ろしの儀のように神聖な音を響かせると、本当になにかを呼んでしまったらしい。
    「何者だ」
    「月に美男子とは今日はいい夢が見れそうだ」
     瞳の前に鋭く光る剣の先、魏無羨が呼び出したのは剣の名手のようだ。
    「答えろ。何者だ」
    「私は温情に使える江家の者。筆ばかり握って身体が痛かったから、動かしていたところ。この腰の鈴をよく見て」
    「確かにこれは江家しか持っていない物だ。……顔を見せなさい」
    「なんて破廉恥な人なの! 文もよこさずいきなり顔を見せろだなんて!」
     相手の男は固まり謝ると、走らない程度の速度で消えていった。
    「ふー。危ない、危ない。はあ、興が醒めた。やめだやめだ」







    「蓮の君!!」
     江晩吟顔負けの恐ろしい顔をした温情は、魏無羨の顔に厚みのある文を押し付けた。
    「これは一体どういうことなの?!」
     中身を見ると、どうやら夜の常識的な過ごし方がしたためられた文だった。
    「なんだこの悪趣味な文は! 誰だこの失礼な奴! 藍忘機? 一体何者だ!」
    「藍忘機ですって!」
     お付きたちは騒めいた。
     なんと、昨日やってきたのは、五大世家のひとつ、藍家本筋の次男、藍忘機だったようだ。
     品行方正、掟に厳しい男。雪の様に冷えた目、儚い美しさで女性を魅了する。都では少女たちの憧れの的だ。
    「へぇー。あいつそんな凄い人だったんだ。確かに、美男子だったけどな」
    「関心している場合じゃないでしょ! はぁ、三年どころか三日も持たずに問題を起こすなんて……」
     藍忘機は魏無羨と同じく、温氏によって三年宮勤めを言い渡されてこの地にいるようだ。
     そして昨日、夜の見回り当番だったらしい。他のものは温情の領域に恐ろしくて入ってこないが、掟重視の男は、関係ないようだ。
     己の責務を全うしようと怪しげな剣の音を突き止めようとしたのだ。
    「お願いだから、次剣が振りたい時は温寧と一緒にやってちょうだい!」
     本当はふざけた文を送り返してやりたいところだが、魏無羨は江厭離の代わりに来ている。
     姉の評判をこれ以上貶める訳にはいかないのだ。
     ぐっと我慢し、温情監修の元、返事を書いた。



     さすがに二夜連続当番はないだろう。
     剣さえ振らなければいいだろうと魏無羨は懲りずに庭で身体を動かしていた。
     「君は反省という言葉を知らないのか」
     「ら、藍忘機さん!」
     何故なんだ! 見回りは週に一度で当番制を温情から聞いたのに!
    「何故ここに居るの?」
    「夜風にあたっていたら、不審な声が聞こえたから」
    「そう……はぁ、この箱庭はつまらなくてつまらなくて仕方がないの」
     本当なら早く部屋に戻るべきだと分かっている。だが、何故だか藍忘機は魏無羨の好奇心を駆り立てる。
    「私が怪しいと思うなら、好きなだけ見張っていたらいいわ。気にせず自由に過ごさせてもらうから。それとも剣の相手でもしてくれるのかしら?」
     藍忘機はゆっくり鞘から剣を抜く。魏無羨は最高潮に気持ちが高ぶり、顔が見えることなど気にせず、全力で迎え撃つ。
     
     楽しい!

     雲夢で魏無羨の強さに敵うものは居なかった。
     こんなに本気で、気持ちに余裕がなくなるくらい剣を振るうのはいつぶりだろうか。
     容赦なく空気を切り裂く二つの音を、少し欠けた月は温かく見守るのだった。





     都にきて早一ヶ月が経つ頃だった。
     「おい、温情」
     北の地を侵略している温若寒の次男、温晁が久々に都に戻ってきたのだ。
     義理の親の仇、温晁。両親を失い、浮浪だった魏無羨を救った江家を奪った男。
     怒りと表情を扇子で隠し、暴れたがる牙を懸命に抑える。
    「若様、お久しぶりです。私に一体何の用でしょうか?」
    「金氏を骨抜きにした女の顔を拝みたくて、わざわざ足を運んだ。さぁ、扇子を下ろせ」
    「……文も無く、関係を築かぬ内に、女性の顔を見るのは失礼よ」
    「温情、お前、誰に物を申している」
    「温情! 私なら大丈夫よ! 若様、私の顔が醜くても傷つけないって約束していただけるかしら?」
     魏無羨がゆっくりと扇子を下ろすと、緩んだ温晁の顔は一気に引きつった。
    「な?! なんだこの不細工?! はっ、金子軒はとんだ物好きだ! 不愉快だ」
     足早に去っていき、姿が見えなくなった頃、全員で笑った。
    「やっぱり、姉さんを手籠めにするつもりでここに来させたな! ばーか! お前の考えてる事なんてまるわかりだ!」
     魏無羨は唇から大幅にはみ出た紅を擦り、毛虫のような眉毛で笑う。
     平凡な江厭離を都に呼ぶ理由などひとつしかない。
     金子軒は色男だ。そんな色男が惚れ込む女に興味があったのだと分かっていた。

     




    「今日の三日月は一層綺麗に見えるな」
     温家に濡れ衣を着せられ死んだ義父母は復讐するな。生き残れと最期に言っていた。
     江叔父さん。俺、あいつから姉さんを守ったよ。
    「蓮の君」
    「藍湛」
     あれから魏無羨と藍忘機は夜の逢瀬を繰り返していた。
    「藍湛、私は今日とても気分が良いの。笛を吹きたい気分だわ」
    「笛をふけるのか?」
    「結構上手だよ」
    「私は、琴を弾く」
    「へぇ~聴いてみたいわ、貴方の琴の音を……そうだ! 明日私の部屋で演奏会しましょ! 夜だからあまり大きな音は出せないけど、こっそり、どう?」
    「……金子軒はいいのか?」
    「? 彼は関係ないでしょ?」
    「本当に良いのか?」
    「うん!」
    「分かった」
    「え? 帰っちゃうの?」
    「今日は、帰る」
     いつもは剣を振り、語り、楽しむのに残念だ。
    「はーあ。今日は美人をつまみに酒を楽しみたかったのにな……俺も寝るか」









     夜、鼻歌を歌いながら笛の手入れをしていると、扉が開く音がした。
    「藍湛! あなたの琴格好いいな! なんか一曲弾いてよ!」
    「うん」
     藍忘機の奏でる琴の音は、一音一音が優しく心地よい。
     初めて聴いたその曲に魏無羨は心が奪われ、自然と笛の音を合わせていく。
     笛から唇を離し、朧月の様に潤んだ瞳と目が合う。
    「私、この曲とても好き」
    「蓮の君」
     藍忘機の手が魏無羨の手を握る。
     こんなに体温が高い人っているのか? よく見ると耳も仄かに赤くなっている。
    「藍湛、体調悪いの? 無理してる?」
    「蓮の君」
     まるで雲の様に魏無羨を隠そうと鍛えられた身体がどんどん近寄ってくる。
     魏無羨の鼓動はまるで太鼓を叩くように大きくなっていった。一歩下がろうとした時、誤って衣を踏み、体勢を崩してしまった。
    「蓮の君!」
     魏無羨を支えようと腰に回された手。揺れ動くまつ毛が触れ合いそうなほど近づく距離。
     どちらが先かは分からない。気づいたら唇が重なっていた。
     駄目だ、離れないと。そう思うが、魏無羨の身体は動かない。
     
     甘い、唇ってこんなに甘いのか――

     魏無羨の肩にぎこちなく藍忘機の手が這った時、魏無羨は我に返り突き飛ばす。
    「すまない……君が……」
    「藍湛、ごめん。今日は……帰って」
    「すまない」



     失念していた。女が自分の部屋に誘う。それがどんな意味を持つか。
     そして、自身は彼に求められたとき、嫌悪感は無く、むしろ……
    「女装して、心までおかしくなったのか?」
     それ以来、魏無羨は夜外に出るのをやめた。



     逢瀬をやめてからひと月が経った頃、藍忘機から文が届いた。


     わびぬれば 今はた同じ 難波 なる
     みをつくしても 逢はむとぞ思ふ



    「藍湛、ごめん」



     玉の緒よ絶えなば絶えね ながらへば忍ぶることの弱りもぞする


     書いた文を握り締め、火鉢に投げ捨てた。
     文と共にこの想いが消えてなくなることを願って。




     

     雪が降りだしそうな朝、江晩吟は都へやってきた。
     「おい! お前、一体何をやらかした!」
     江晩吟によると、藍忘機が金子軒に面会を求め、金鱗台を訪れたようだ。
     ”江厭離と婚約を破棄して欲しい。彼女の純潔を奪ってしまった”
     江厭離の代わりに魏無羨が都に行っている事を知っている金子軒は驚愕し、蓮花塢まで駆け付けたようだ。
    「あー。転んで唇が重なっちゃったんだよね」
    「一体どんな転び方をしたらそうなるんだ! これ以上大きな揉め事は御免だぞ!」
     思考を張り巡らせた温情が江厭離が体調を崩したと温晁に告げると、さっさと蓮花塢に戻せ。そしてこの地に足を二度と踏み入れるなと返事が来たようだ。
     魏無羨は返事を聞いたその日のうちに荷物を纏め、都を後にした。



     魏無羨が都を出て半年が経った頃だった。
    「姉さん! 綺麗だよ!」
     婚礼衣装に身を包み、頬を染める江厭離に魏無羨は心が躍った。
    「阿羨、ありがとう」
    「あーあ。夫がもっといい男ならよかったのに、それだけが残念だ!」
     今日は待ちに待った祝言の日だ。
    「魏無羨気をつけろよ。藍家も来るんだからな」
    「分かってるよ」
     魏無羨が蓮花塢に戻ってからすぐの頃、江家三姉弟は、藍忘機が不在の藍家に頭を下げに行った。
     温晁に江厭離が狙われないように、魏無羨が女装して都に行ったこと。
     藍忘機が強くて、友達になりたくて正体を隠したまま、意味を考えずに誘ってしまったこと。
     二度と藍忘機に近づかないこと。
      きっと後で話を聞いた藍忘機は揶揄われたと思い、怒り狂っただろう。
    「あいつから、俺に話しかける事なんて絶対ないだろ? 安心しろ」
    「お前が話しかけるかもしれないだろ!」
    「さすがの俺も声かけられる訳ないだろ?!」
    「どうだかな……俺はお前をずっと見張ってられないから、あいつら二人に監視させる」
    「はいはい。お好きにどうぞ」


     婚礼の儀は無事に終わり、魏無羨は突き刺さる視線を躱し続けた。
     形式ばった堅い場所は苦手だ。姉の婚礼をみた魏無羨は早々に宿に戻った。
    「はぁ……疲れた。お前たち、俺は部屋から出る予定無いから後はいいぞ」
    「師兄、我々は隣の部屋にいますので、なにかあれば、絶対に、絶対に声をかけてくださいね」
     部屋から出る気などない。いつ、あの堅物に会うか分からないのに。
     酒を流し込み、布団に体を預けていると、誰から扉を叩いている。
    「そろそろ夕餉の時間だな? 飯か? はいはーい……え?」
     扉を開けると勢いよく閉まり、視界が暗くなる。背中に痛みが走り、自身が誰かに押し倒されたと理解した。
     誰かと考えなくても分かる。この懐かしい匂いは——―

    「蓮の君」
    「やぁ、藍湛。夜這いなんて大胆だな?」
    「なぜ文の返事をくれなかった」
    「文? なんのこと?」
    「……なぜ、なにも言ってくれなかった」
    「言えるわけないだろ? 偽装して都に来ましたなんて」
    「そういう意味ではない」
    「ごめん。お前といるの楽しくて、女装してることすら忘れちゃってたんだ。殴って気が済むなら好きなだけ殴れ」
     魏無羨がそう言い目を瞑ると、振ってきたのは拳ではなく、唇だった。
     恋しい、恋しいと求めるその唇は魏無羨の心をかき乱していく。
    「だっ…、んっ…んむぅ…あっ、やめろッ……」
     唇が解放されると、次は耳が支配される。
     ぴちゃりぴちゃりと奥まで音が響き、背筋がぞくりと震えだす。
    「藍湛、駄目、やめろ…やめっ…」
    「気が済むまで良い言ったのは君だ」
    「これで気が済むのか?」
    「済まない」
    「じゃあ、やめろよ」
     魏無羨の手首を握る力は強くなっていく。
    「どんなに君を求めても、君と重なっても、私の想いが気が済むことは未来永劫無い」
    「俺男だってわかってるよな?」
    「私が愛しているのは君だけ」
     なんでこの男は、俺を諦めさせてくれないんだろう。
     江澄ごめん、約束守れそうにないや。

    「そう。じゃあ、今日一日で藍湛の気が済むように満足させてやるから、覚悟しろよ」



     から始まり
     身体を重ねた一夜の後、藍湛を避けて、逃げて往生際の悪い魏嬰と、絶対に諦めない藍湛の攻防合戦
     最終的にハッピーエンド
     って話がみたいんですよね。
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