真実の愛について-第三部カーテンの隙間から射す街灯の薄明かりが、天井の木目を微かに照らしている。そのうちの一点を食い入るように見つめていた一条は、静かに息を吐き、ようやく瞬きをした。
バイト仲間との飲み会の後、帰宅した一条と村上は着替えもそこそこに床についた。布団を敷くなり、倒れ込むように眠ってしまった村上は隣で安らかな寝息を立てている。一方の一条は寝つかれず、深夜0時を回っても天井とにらみ合いを続けていた。
この世に真実の愛は存在するのか。
美沢の話をきっかけにその議論は始まった。即座に否定派にまわった自分を、村上がどう思うか考えなかったわけではない。むしろこの時は、村上の反応を楽しむ余裕もあったように思う。
親子の愛を真実の愛だと説く美沢に、隣の村上が熱心に頷くのを見るまでは。
――この世に絶対なんてあるもんか。なんでわからねえんだ、なんで。
一条は上半身を起こし、村上の布団にいざり寄った。掛け布団の中に律儀に収まった右手を探り当て、そっと握る。
村上の気持ちを信じていないわけではない。
愛されていることも、この手が温かいことも、十分すぎるほどに知っている。
それでも。自分の中に、相反する二つの感情があった。この温もりを手放したくないのと同時に、時折、突き離したくなる衝動に駆られるのだ。
そして村上が去ったなら、罵倒して追いすがり、引き戻そうとするのだろう。
――証明できるならしてみろよ。
返事はない。
村上の寝顔を見つめたまま、一条はまんじりともせず夜明けを待った。