これは──誰のだろう。
よく見れば、いままでバラバラに入れられていた皿たちも今は綺麗に重ねられている。水垢まみれで濁っていた銀色の流し台も、掃除したのか蛍光灯の光を反射している。この箇所だけまるで別空間のようだ。
そういえば先日、新しい助手が来るって聞いたような──
がちゃり。
ドアが開く音がして、パッとそちらを見れば、
「あら?」
目をパチパチと瞬かせ、不思議そうにこちらを見る人がいた。
「こ……こんにちは」
灰色のフォーマルスーツに、黒のパンプス。つややかなロングストレートの髪。自然な色合いの口紅。その人が身に纏うもののせいなのか、その人自身の雰囲気のせいなのか。廊下ですれ違った先生に会釈するような感覚で、その人にも反射的に挨拶をした。
すると一瞬だけ驚いた顔を見せつつも、その人はすぐに微笑んで「こんにちは」とお辞儀をしてきた。明らかに自分よりも年上で、社会人であろうその礼節ある対応に変な緊張をしてしまう。
「あの……亀野先生なら今いないですよ」
なんとも言えない気まずさを感じて、とりあえず部屋の主の不在を伝える。するとその人は笑顔のまま「そうですよね」と言ってから、
「『調査だ』と言って、急に出かけられましたから」
と続ける。
「かばんを持たないままこの研究室を出ていかれたので、追いかけて渡してきたところでした。必要な資料も入っていたみたいで無事お渡し出来て良かったです」
「先生は相変わらずですね」
そう相づちを打ってから、自分は疑問に思ったことを口にした。
「……もしかして、新しい助手さんですか」