あくまでパートナー※辻が犬飼のことを「神父様」と読んでいます。
山深き森の中に小さな村があった。人々は信心深く、日々慎ましく暮らしていた。
村の奥にある教会は若い金髪碧眼の犬飼という名の青年が神父として一人で管理していた。
夜の村はすぐに寝静まる。家の灯りは早々に消え、山や森が夜空より濃い闇となって黒々とそびえ立つ。
「……こんばんは。」
闇夜に紛れて勝手口から入ってきたのは黒髪の青年だった。
「こんばんは、辻ちゃん。いい夜だね。」
「はい、神父様。悪魔には好都合です。」
ロウソクの灯りに近づくと黒髪の頭の左右に小さいが赤い角が生えている。背には蝙蝠のような羽が畳まれていた。
夜中の訪問者を書斎まで案内すると犬飼は真新しい本を手に取った。革張りのソファに並んで座り辻に文章を指し示しながら読み始める。読み上げる軽やかな声が優しく響いた。
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