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    TGMルスハン片想い編

    #TGM
    #ルスハン
    #ハングマン
    hangman
    #コヨーテ
    ##TGM

    視線 ハードデックの洗礼をフルコースで食らった男をつまみ出し戻った店内は、ルースターを呼ぶ声の余韻で、まだ浮わついている。
     ルースターから視線をそらしたら、親友コヨーテに様子をうかがわれていた。ビールを飲みながら目を合わせると、心配そうに囁かれる。
    「そろそろ出るか?」
    「……まだいい」
     コヨーテとは新人の頃、ネオナチ思想の奴らに絡まれた際に一緒に切り抜けたのを機に、仲良くなった。コヨーテへの人種差別と、ハングマンがバイセクシャルであることで、標的にされたのだ。
     コヨーテはハングマンより少し若い。集中し過ぎて油断することはあるが、努力家だし優秀で、いいやつだ。二人とも成績優秀で、ルックスが良かったのも目を付けられた要因だった。軍人になるくらい健康ならそれなりに整うものだが、十代後半から二十代前半の内はまだあどけなさが残り、元々かわいらしい顔立ちの二人はよくそれをからかわれ、不快な思いをしていた。
     組織としての軍の男女比やハラスメント体質は、昔に比べればマシになりつつある。件の差別主義者たちは、すぐに軍から排除された。
     ハングマンがルースターを好きなことは、コヨーテにはとっくにバレている。
     コヨーテ自身には長く付き合っている彼女がいる。のろけのついでに「お前は最近どうだ?」と、恋愛相談をしやすくしてくれる。ピアノ演奏で盛り上がった後は大体、ルースターが女子にナンパされるのを見せ付けられる羽目になるから、気を使ってくれたのだ。
     確かに、そうなることは多いが、今日はルースターの隣にはフェニックスがいる。他国での任務から帰国したことも知らせていなかったようだから、それを責められるはずで、酒宴も仲間内だけで済むだろう。
     ルースターは、誰とでもすぐ仲良くできる気さくさがある割に、自分の生い立ちや内面を積極的に語るタイプではない。長年の仲間とも特別な関係になることは望んでいないらしい。唯一、ルームシェアしていたフェニックスとは親友であるようだが、それは、信頼できる適切な距離を保てる相手だからと思われる。
     ルースターが女性に声をかけられ、一緒に店を出るところを何度か見かけたが、ハングマンが知る限り、恋人と呼べるほど続いたことは無い。
     それでも、長年想いを燻らせているハングマンより、初めて会った相手の好意に友好的なのを、妬ましくないと言ったら嘘になる。
    「まだ好きなんだろ。いつも上機嫌なお前が不機嫌になる、唯一の相手だ」
    「残念ながらな」
     目の前に現れると一気に、全ての感情が過敏になる。離れたところでならルースターが誰とどうなろうが構わない。風の噂で結婚したとでも聞いてそのまま忘れられれば、一番楽かもしれない。だが実力が近いから、何度も再会してしまう。
     叶わない恋だと諦めて、二番目か、彼以上に好きになれる相手を探そうと出会いを重ねる。でも結局いつも、ルースターと同じように、自分も生い立ちや内面を曝せずに、関係を断つことになる。自分がそうだから――ルースターにも誰か、側にいられないのに忘れられない――最重要人物がいるのだろうと推測していた。
    「珍しく続きそうだって言ってたやつは?」
    「やっぱり――一番好きかって確認されると俺が答えに詰まるから――そろそろ潮時だと思われてるはずだ」
     嘘はつきたくない。一番目の恋が叶わないなら、二番目でもいいと言ってくれる相手もいるのかもしれないが、そこに甘え続ける器用さは無い。
    「俺はルースターもお前を意識してると思うけどな」
    「あいつは、チームワークに支障が出るのが嫌なだけで、俺と仲良くなりたいわけじゃない。冗談もぎこちないし、話がうまく噛み合わなかっただろ」
     話しかけられはするが、思春期の息子に対する父親みたいな気まずさが見えて、こちらも反抗期の息子みたいな反応になってしまう。
     好意や興味ははっきりしているのに、相性がいいとは思えなくて、積極的になれない。
    「感情的になるのはお互いだけって相手は、きっかけさえあれば親友になれるパターンの定石だろ。さっきも何だ?あのやり取り」
     You look good.
     どういうつもりでそう言ったのかわからないが、ぎこちなさの理由には思い当たる。
    「俺は別に、親友になりたいわけじゃない。さっきのあれは――あいつのせいだよ」
     最後にルースターと同じ任務に就いた時、共同のシャワー室で視線を感じた。たまにある、誰かに身体を品定めされる視線かと睨みつけたら、ルースターだった。
     ルースターはハングマンだとわかると、まずい、という顔で固まった。
    『お前、ゲイだっけ』
     わざとそう尋ねた。
    『悪い――かっこいい尻だなと思って――よく、鍛えてて』
     身体だけ見て、顔をよく見ていなかったのだろう。
     視線をそらされ、下心の有無をぼかされたことにイラついた。
    『お前は無駄にバットがでかくて大変そうだな』
     股間を確認し、わざと意地悪にそう言って振り切った。
     ルースターに自分がゲイ寄りのバイなのを知られているのかは確認していない。どこかで見聞きした可能性はあるが、どちらにしろからかうような素振りは無いから、偏見は無いのだろう。偏見のないヘテロの男ほど口説くのは難しい。男同士の恋愛が自分には関係のないことだからこそ、偏見に繋がらないことも多いからだ。
     度々、視線は感じていた。ハングマンが特定のサングラスをしている時は、無意識に見てしまうようだった。
     何か用かと問うと『ごめん、知り合いに似てたから』と誤魔化される。
     どうやらそれは本当で、ルースターの知る誰かに背格好が似ているようだ。サングラスの時なのは、目元は似ていないということか。背格好と横顔、笑い方。視界に入った時その辺りがルースターの記憶と重なって、反射的に反応してしまうのだろう。表情から推察した限りでは、現時点ではあまりいい関係では無さそうだ。
    『ナンパなら、もっと気のきいた台詞を用意しろ』と言ってしまった。
     気まずさの原因は、そういうやり取りの積み重ねのせいだ。不本意なことに、好みでないから警戒されているのだと思われているだろう。
    「尻を見られてたってやつか?前、酔って好きなタイプの話になった時、あいつ確かに、胸より尻派だとは言ってた」
    「へぇ」
     どうせ、女性限定の話だろう。好きな女性歌手もハングマンとは真逆のタイプだったと記憶している。
    「自覚してないだけで、男もいけるのかもしんねぇぞ。お前がバイなのは、今日来たメンバーには知られてなさそうだが」
    「いや……ボブは知ってる」
     気があるならはっきりそう言って欲しい。本人が自覚しているのかどうかは別として、見間違えている男が本命なら、ルースターも広義ではバイセクシャルかもしれない。それでも、あの一件でハングマンの印象が悪くなったであろうことは間違いない。
     ぎこちなさをもの凄く都合よく解釈するなら、好きだった男に似ていて、ハングマンの拒絶が無ければ口説こうとして、失敗しているのではないか。コヨーテはその可能性を説いてくるが、あれだけ目立った行動のできるルースターが、ハングマン一人口説くのに苦戦するなど考えにくい。男も恋愛対象なのを知っていて、仲違いする気はないが距離の詰め方がわからない。それを意識されてぎこちなくなっていると思う方が有り得る。
    「ボブとまともに喋ったの、さっきのが初めてじゃないのか?」
    「前に、そういうバーで会って少し話した。あいつもゲイかバイ」
     軍以外の場所で知り合った顔がいて驚いて、お互いたどたどしくなってしまった。ボブという呼び名は知っているから本名を聞こうとしたのに、結局全部ボブだった。言いふらされたりした様子はなかったから、信用はしている。知られている方が楽だ。
     ボブのことは嫌いじゃない。お互い好みからは外れていたのだが、バーで話していた間はずっと素の自分でいられた。
    「さっきの変なやりとりはそれか。まあ、意外ではないな」
    「その時、ルースターが好みなのもバレた。でも、特に支障はないと思う」
     今の恋人は、ルースターとかなりファッションセンスが似ている。迎えに来た彼を見られている。ボブに指摘はされなかったが、多分、ルースターとのやり取りを見て見当はつけられただろう。お互い、ジョークのセンスは既に知っている。ボブは人の私生活にわざわざ踏み込んでくるタイプではなさそうだし、相棒がフェニックスなら嫌がられるのは目に見えている。話したければこちらから、いつもの嫌味なハングマンモードで絡むしかない。
    「ルースター本人にもはっきり伝えれば、意外とうまくいくかもしれないぞ。お前の実力は認めてるみたいだし」
     ルースターは誰のこともライバル視などしていない。目標とする誰か、過去に何かあるのではないかと踏んでいたが、誰も正解を知らない。
    「……さあ」
     そこそこ仲良くなった後で、「友達として仲良くはしたいが恋人になる気はない」と言われるのが一番辛い。
    「どうして俺がこれだけ言うかわかるか?」
    「うん?」
    「お前がいい男だって一番知ってるのは、俺だから」
    「はは」
     思わず笑うと、コヨーテもいつも通り笑った。
    「俺の前だけじゃなくて、皆の前でも素顔で笑えば――きっとわかる」
     ハングマンの肩を抱き寄せるように笑ったコヨーテに、気持ちと身体の緊張感が解れる。
     でも、親密になったら今度、失うのが怖くなる。
    「お前の面倒見るだけで、今は手一杯だな」
     ビールを飲み干しながら、何気なくルースターに視線を戻すと、不意に視線が絡んだ。
     お互い一瞬、驚いた後でこちらが目を細めたら、ルースターはハングマンとコヨーテの様子に視線を泳がせてから目をそらした。
    「ルースター、俺に嫉妬してるんじゃないか?」
    「馬鹿言うなよ。お前が彼女ひとすじなのは、あいつでも知ってる」
    「向こうもフェニックスがこんな風に後押ししてたりしてな」
    「あっはは、じゃあ、もっといちゃつかねぇとな」
     すっかり機嫌が直って大声で笑うと、ルースターがまたこちらを見ている。新しいビールを開けてコヨーテと乾杯しながら、誘うように笑って見せる。
     ルースターの悪口でも言っているように見えただろうか。自分をごまかす度、胸はいつだってチクチクと軋む。

     触れるにはまだ、遠すぎる。

     ハングマンはコヨーテの腰に手を回し、ルースターに背を向けた。
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