夏至 クッションの上に寝そべっていた生駒はローテーブルの真ん中に何かを置く王子を眺めていた。
にゅ、と首を亀のように伸ばしてテーブルの上を見る。規則的にカットされ幾何学模様を織りなす綺麗なガラス容器だった。しかしそれの用途が分からず生駒は首を傾げる。
王子がテーブルの横へ持っていた盆を置きながら、生駒を手招いた。いそいそと呼ばれるままに寄っていく。
「なん?」
「キャンドルホルダー。ちょっと、ね」
「ろうそく立て?ろうそく無いのに?」
「ちゃんと用意してる。アロマキャンドルっていって香りがあるやつだよ。ローズ、ラベンダー、シトラス、シダーウッド、あとはスパイス系なんかもあるね」
王子は盆の上に乗っている小さなろうそくを一つずつ説明と共にテーブルの上へ一列に並べていく。目の前に整列したろうそくをマジマジと見つめる生駒に、王子は「1個選んで欲しいな」と言った。
「手に持ってもええ?」
横に座る王子が頷くのを確認してから、生駒は一番左にあるろうそくを手に取った。くるりと回し見をしたあと鼻を近づけ匂いを嗅ぐと、生駒の眉間に少し皺が寄る。怪しいものを見るような目でそれを元に戻す。
次に隣にあるろうそくを手に取り同じように匂いを確認する。それを繰り返し最後の一つを確認し終えた生駒は、真ん中にあるろうそくを一つ手に取った。
「これがええ」
「シトラス?」
「なんや王子ぽいなと思って」
ろうそくを受け取り、王子はそれをキャンドルホルダーへと入れた。盆の上にあったマッチ箱からマッチ棒を取り出すと、慣れた手つきで火を点ける。
ろうそくに火が灯った。
盆に置いていた空き缶にマッチ棒を放り込み、王子は立ち上がると部屋の入り口へと移動した。パチンと電気のスイッチを押す。
暗くなった部屋でゆらゆらと揺れる炎がガラスを照らしテーブルに綺麗な幾何学模様の影を作っていた。
「そんで何で急にろうそく?」
「夏至は知ってる?」
「さすがにそれは知っとる」
「キャンドルタイムっていうのがあってね、夏至の夜はこうやって電気を消してろうそくをつけようって」
「それは知らんなぁ」
揺らめく灯りに王子の瞳が揺らめくのを眺める。
「……いま考えた話とか?」
「さすがにそれは無いかな。さて」
王子が生駒の前にぴしりと背を伸ばして座った。
「ろうそくの火が消えるまで楽しい時間を過ごしたいんだけど、イコさんも一緒にどう?」
「キザな誘い方やなぁ」
恭しく差し伸べられた手のひらに、生駒は勢いよく自分の手を叩きつけ、笑った。