おきいこ未ぺらりと捲った雑誌の見開きに手が止まった。ただのファッション雑誌のはずやのに、こういうページを設けなページが埋まらんのかな。恋人との体験談だのフったフラれただのホンマかどうかわからん読者投稿のページをなぞる。
好意か恋愛かの判断ってどこですればええん?
いつも利用する駅は人がまばらで、誰もおれらを気にすることなく目の前を通り過ぎていく。壁の一端、自販機の横でおれは数日前見た記事の内容を必死に思い出していた。流し見したことが悔やまれる。もっとちゃんと読んでいたらよかったなあ、なんて。
「ええと」
目の前の名前も知らん女の子は俺が黙ってしまってからずっと地面を見続けていた。胸の前で組んだ手を白くなるまで握り締めて、おれの返事を待ってる女の子。
急に駅で呼び止められて『学校ですれ違って気になってた。ある日の帰りお婆ちゃんに席譲ってるのを見て好きになった』と言われておれはどう答えようか迷ってしまった。雑誌に太字で書かれたフったら刺されたという見出しが脳内に浮かんできて言葉が何も出なくなる。その例は極端とはいえ、なにか、なにか、言わんと。
でもそれらしい言葉がなんも思いつかん。
「ごめん、としか言えんので申し訳ないけど」
「はい」
なぜか頭の中にいつもモテたいモテたいと事あるごとに言っているイコさんが思い浮かぶ。あのひとなら雰囲気こわさんように立ち回りができるんやろか。それとも諸手をあげて歓迎するほうやろか。
「それじゃあ」
もうすこし取り繕った声を出せばよかった。女の子の顔は覚えてへんのにふるえる手だけが印象に残っていた。
いつもの隊室、いつもの面子。扉を開けた先の変わらん雰囲気に肩の力が抜けた。だらしなく椅子に座るとマリオが何か言いたげな顔をしたので、話しかけやすいように先にため息つく。
「どないしたん」
「ちょっと色々疲れることがあって」
「大丈夫なん?」
うすく笑うとマリオは「無理せんときよ」と心配そうな顔になった。
「なになに」
「なあんもないですよ」
興味津々といったふうに近付いてきたイコさんをかる~くいなし、おれは今日の予定を確認するためにテーブルの上のタブレットに目を落とした。