まとまったらまとめたいねた 本部へ向かう途中にある歩道橋の上で俺は立ち止まった。あの頃はまだ真新しかった歩道橋。流石に10年風雨に晒されたら、それなりに色褪せて汚れて傷んでるとこが目についた。次に下に視線を向ける。がたがたと荷物を揺らしながら走るトラック。赤い車。白いワゴン。黒い車。バイク。色々通り過ぎていく。昔と比べて住人もだいぶ増えて、警戒区域もかなり狭まった。時代の流れを感じハァ、と息を吐く。
「水上?」
立ち止まってぼんやりしてた俺はイコさんの不思議そうな声に前を向いた。俺を見つめるイコさんは怪訝そうな顔でほんの少し首を傾げる。
「なんやボケーとして」
「……ぬくなってきたなと思いまして」
「もうすぐ春やしなぁ」
イコさんは「でもそのうちまたガクーンと気温下がるんちゃうん」とか言いながら前を向いて階段を降り始めた。その背中に10年前の景色がダブる。
「好きでも許されるんていつまでやろなぁ」
ふと口をついて出た言葉。誰をとか、何をとかは言わなかったのにイコさんはグリンっと勢いよく振り向いた。
「お前まだそんな」
慄いたように目を見開いて信じられへんもんでも見るような視線を浴び、俺は降りかけていた階段からそろそろと足を戻す。まずったな。
先に降りていたイコさんは一段、また一段と階段を登ってきた。
ひとつ下の段まで登ってきたイコさんの頭が間近に迫り、ギロリと下から睨まれ俺は唾を飲む。イコさんが手摺をガッチリ持ったのが見えた。
「なっ……に、を」
もう片方の手が俺の後頭部を掴んで折れるんかと思うくらい下へとさげられ、バランスを崩しそうになる。慌てて俺も手摺に手を伸ばし踏ん張るって無理やり顔を上げた。イコさんの顔がぼやけて見えた。ああ、もう。なにするんですか、子供みたいなことして。いや子供はこんなことせんわ。
「っう」
文句言おうと半開きの口にぬるりと入ってくる生暖かいソレを俺は反射的に迎え入れる。あかん。すぐさま思い直してほんの少し舌先に力を入れ入ってきた異物を押し出して自分の口を閉じた。
掴まれた後頭部がぎちぎち痛い。それでも必死にのけぞりながら距離をなんとか取ろうともがいていると、イコさんは自分の濡れた唇をべろりと舐めた。
「10年前も似たようなこと言うてたな」
手摺を持った手とは逆の手で口を隠す。またこんな場所でキスされたら敵わん。
「『好きでいてもいいですか』」
イコさんは最初にした告白の言葉をほじくり返してきた。
「ええよ、ってそん時は答えたな」
そう、ソレで浮かれてヘマしたトコまで覚えてる。そんで「もう許しません」って返されたら終わる話なのも理解してる。気持ちなんてふわふわしたもん変わって当たり前やし。
「ええ加減お前が変わるん待ってるんやけど」
体を起こして離れようとしたら割と強い力で頭を引き寄せられてイコさんのオデコと俺の額がくっついた。
「頭ええお前なら、俺の言うてること理解できるよな」
グググと押し付けられた額と、ここまで近付いてるのにキスしてへん違和感と、ピントの合わんイコさんのどアップで頭があまり回らんのですけど。
固まってしまった俺にイコさんはフンッと鼻息ひとつかましてパッと手を離すと、また階段を降り始めた。その後をぼんやり見つめる。
なんやかんや。