長閑な昼下がりに、欠伸をひとつ。豊前江は陽当たりの良い縁側で、ぐっと伸びをした。この場所は近頃、彼の休憩場所になっている。最近はずいぶんと寒さも薄れてきて、春の気配がすぐそばまで来ているのだと実感する。「暦の上ではずっと前に春なのに」と、篭手切江は毛布を被りつつぼやいていたけれど。
「ほーと、のどかな景色やね」
そう呟いて、くあとまた欠伸をこぼす。出陣も内番もない日は、大抵「れっすん」をするのが彼ら「江」の常である。その休憩時間──なんだかんだでいつも少しだけ長くなってしまう──に、ここで本丸の中庭を眺めるのは、豊前の日課のようなものになっていた。春の桜、夏の向日葵、秋の紅葉、冬の山茶花。移ろいゆく季節を、彼はここで見つめている。時折通りかかる刀たちに挨拶をして、そうして半刻が過ぎれば仲間たちの元へ戻る。「そのささやかな平和が、豊前のお気に入りなんだね」と、どこか嬉しそうに言った松井江を思い出して、豊前はそっと目を細めた。
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