俳優パロマレシル1※にょたシルちゃん
※俳優パロ
※マレシル
※シル総愛され
※マレシルに割と重い過去がある
「アンタの護衛の唇が欲しいんだけど」
「それは僕に対する宣戦布告ということで良いのかシェーンハイト」
スタジオから控室に戻る途中で突然ぶつけられた言葉にマレウスはにっこりと最上の笑顔を浮かべる。そしてその唇を所望された護衛はといえば、狼狽に視線を彷徨わせていた。
「うん。アタシの言い方が悪かったわ。ルージュのオーディションに出させたいの」
銀の髪を無造作に括り長めの前髪で顔を隠した護衛は、何を言われているのかわからないというように小首を傾げる。
紺のスーツを纏う小柄な体。マレウスの影に隠れるように常に傍に居る少女の顎を許可を取ってから指先で上向かせ、ヴィルはやっぱりと頷いた。
「新作のルージュ。一本はアタシなんだけど、アタシの対の色が似合うのが居ないの。アンタの護衛なら、世界一似合う。保証するわ」
「あの、ヴィル先輩。俺は俳優でもモデルでもなく、護衛なのだが」
「主の命令には従うのよね。マレウス、アンタ、美しく着飾ったこの子が見たくない?」
「頼めるかシェーンハイト」
「任せて。来なさい、シルバー」
真顔のマレウスに了承され、突然の展開に困惑を浮かべながらもシルバーは手を引かれるままヴィルについていく。父と控室で交代して家に帰るだけだったからマレウスの護衛は大丈夫なのだが。
「お、俺などが、その、本当に?」
「美に関して冗談は言わない。ずっと不満だったのよ、誰か、凄くあの色が似合う子を知ってるのにって。今思い出して捜しに来たの」
カツカツと高いヒールの音が鳴る。学生時代から美しさに妥協を許さなかったヴィルを知っているシルバーは、ただひたすらにその後をついていくしかなかった。
「追加よ」
ばん、とドアを開け、ヴィルは言葉少なに言い放つ。
そしてシルバーはと言えば、華やかな美人が揃う部屋の中の雰囲気に圧倒されていた。
全員が一様に同じ桜色のルージュを乗せているようだ。つい手と内ポケットの付けられそうな部分に視線をやってしまうのを職業病と自覚しつつ、こんな場所に武器を隠している相手は居ないだろうと軽くかぶりを振る。
「シルバー」
呼ばれてちょこちょことヴィルに歩み寄る。
「ちょっと触るわよ」
髪を解かれ、長い前髪が横で編み込まれる。トップモデルのヴィル直々に、と周りがざわめくのがわかる。
「……うん。少し上を向いて」
言われるまま見上げた先で、仕上がりに満足したのかヴィルが薄く微笑む。
僅かにカーブを描く銀糸の髪。前髪を編み込んだことによって晒された美貌。
そして、小さな唇に乗せられた薔薇の花びらめいた淡い薄紅のルージュ。
部屋に入ってきたときには野暮ったいただの少女にしか見えなかった。
けれど今ヴィルに手を取られ立つのは、咲き初めの一輪の花だった。
周囲から向けられる視線に困惑する表情さえ、自分が姫であると知らされた森番の娘の1シーンを髣髴とさせる。
スリーピングビューティー。今彼女が付けられたルージュの名のままに。
鏡を手に取って、ヴィルはわずかな魔法で変身を見せた少女に今の己を見せる。
「言ったでしょ、世界一似合うって」
鏡の中に、自分ではない自分が映っている。青と紫の入り混じる瞳が困惑を深め、シルバーは多分無自覚だろう守ってあげたくなる風情のまま、ヴィルを上目遣いに見上げた。
「………すまない。俺には、似合うのかどうかも良くわからないんだが」
ひと際美しい容姿を持ちながらも美的感覚が壊滅的な後輩。
学生時代から変わりもしないその答えはヴィルには想定内だ。
「そのままマレウスの元に帰ってみなさいな。キスされるんじゃない?」
ぶんぶん、と首を横に振る様も狙っているのではないかと思われるほど愛らしい。成人は越えているはずなのだが。
頬がわずかに色付いて唇と揃いの桜色に染まっている。初めて会った日から互いに無自覚に色んな惚気を炸裂させつつまだくっつかないこの二人に、ヴィルは殊更にこりと、何かしら企む笑みを向けた。
「じゃあ、あの男が惚れ直すようにもっと頑張ってみましょうか。眠り姫」