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    hell_kawaii_

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    創作天使色々乗せます多分
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    夏休み

    ねこぜり?ぜりねこ???の学パロです

    生い茂る葉がキラキラと光って見えた。棒アイスを口に突っ込んで、木漏れ日の揺れるバス停のベンチに座って足をぶらぶらさせた。
    夏は日焼けをするから嫌いだ。お外に出たいなんて思わないし、ただでさえ何もしなくても汗をかく。夏休みだった。肌が小麦色に焼けた小さな子供たちが道を駆け抜けていく。少し待てばバスが来た。バスに乗ると、生ぬるい風が肌にあたって気持ち悪かった。節電にご協力ください、と書かれたポスターが嫌でも目に入るので、僕はそれをビリビリに破いてしまいたいと思った。


    学園前のバス停で降りた。学園前なんて体のいい言葉でまとめられているが、実際は山の麓で、坂道を登りきらなければ学園の門すら見えない住宅地だ。食べきったアイスの棒を口にくわえたまま歩いて登る。自転車で坂を走る主婦は、腰を上げて必死になってペダルを漕いでいる。こんな坂道だと言うのに、その主婦を追い抜いて、肌を黒くした野球部が列になって走り去って行った。よくやるなぁ、なんて呟いて、なるべく木陰や日陰をゆっくり歩いた。
    やっとの事で学園に着いた。ちょうどお昼を過ぎて、運動部の生徒たちが食後のウォーミングアップを始める頃だ。ちらほらとユニフォーム姿の生徒達がグラウンドに向かって歩いていた。僕は調理部で、夏休みの間に部活で学校に集まる必要はない。夏の活動といえば、お家で大人しく新しいレシピを考えたり、創作料理のコンテストに応募する料理の試作をする程度。それでも僕が学園に通いつめてるのには訳がある。グラウンドを横切って、やっとの事校舎の前に辿り着いた。振り返ってみると、陽炎がゆらゆらと揺れていて、その中で元気に体をぶん回す馬鹿みたいな生徒が巫山戯あって転がっていた。
    ガラガラと窓の開く音がした。
    「今日も来たのか?」
    猫田先生が、少し困った様に笑って僕を見ていた。
    「せんせー、僕ここまで来るのに熱中症になりましたー。保健室入れてくださーい」
    猫田先生は、少し窓からズレて、早く上がれと手招きした。僕も上機嫌で保健室に入る。今日もがんがんに効かせているクーラーが気持ち良い。適当な椅子に座って、クーラーの前でくるくると回った。猫田先生は、自分の席に戻って書き物をしている。
    「先生は節電しないの?」
    「うん?それよりお前、そのアイスの棒いつまでくわえてるんだ?早く捨てなさい」
    聞こえない聞こえない、と猫田先生は知らんふりをする。ずるい大人というのは居るもので、猫田先生なそのいい例だ。僕は、猫田先生のそう言うところが好きだったりもするのだが。
    はいはいとゴミ箱にアイスの棒を捨てたついでに、リモコンを取って温度を確認してみると、18度に設定されている。もし歩いてここまで来なければ、がっつり寒い。
    「先生寒くないの?ずっと保健室にいるんでしょー?」
    「夏は、これくらいが丁度良くないか?」
    「ふぅーん」
    少し肌が冷えてきたので、風の当たらないソファに移って寝転がった。テーブルには、図書室からかっぱらってきた先月号の雑誌が数冊置かれている。手に取ってパラパラと捲った。大体は先週読んだが、他に見るものもないので仕方がない。適当に流し読んでいたページも、今日はちょっと読み込んでみようと思った。夏定番の心霊スポット。吊り橋効果で彼氏をゲット。頭おかしいんじゃないの?馬鹿みたいな記事だけど、よく見ると近場のお化けトンネルの写真が載っていて、行ってみたいななんて少し思ってしまった。
    「猫田先生は幽霊っていると思うー?」
    「んー、居ないんじゃないか?」
    「先生はそう思うんだー。」
    お前がそうだよ。なんて言葉は飲み込んだ。それきり、やっぱり今日もそれを伝えられないまま、黙り込んでしまった。雑誌を顔の上に落として、手をぶらんと下に降ろした。

    猫田先生は、先月夏休みに入る少し前に死んだ。朝のホームルームの時間に、生徒全員が体育館に集められて、教頭先生が静かな声でそれを伝えた。その日は随分と涼しい一日で、いつもうるさい様な虫の声も何一つ聞こえなかった。ただ、ひたすらに青いだけの空を眺めていたのを、今でも覚えている。仲が良かったから、その後特別に生徒を代表して葬式に出た。棺に入れられて、ゆっくりと地面に掘られた穴の中に沈められて行くのをずっと見ていた。あの墓地に、先生は埋まっている。夏場だし、今頃先生の体は腐敗して骨になってる頃だと思う。先生が土に埋められた後、その足で保健室へ向かった。見ていたのに実感が湧かなくて、保健室に行けば先生はいつも通りそこに居るような気がして。そして、保健室のドアを開けたら本当に、いつもの椅子に座って頬杖をついて、夕焼けを見ている先生の後ろ姿があったのだ。あの日から、僕は毎日ここに通いつめている。不思議なのは、先生はずっとここにいて家に帰ったりもしないし、何かを食べたりしないのに、自分が死んだという事実に気付いていないのだ。先生の時間は止まってしまっていて、多分その時のまま、この保健室に閉じこもっている。
    あと少しでも、先生の時間が進んでしまったら、先生は消えてしまうのかもしれない。
    そう思うと、どうしても猫田先生が死んでしまった事を、本人に伝えることが出来なかった。先生がいる。それだけの事実に、気がついたらその日は涙が出て止まらなくなってしまった。訳も分からないまま、先生は僕の頭を撫でていてくれた。死んでいると言うのに、先生の手は暖かったし重みがあった。

    「心霊スポットに行きたいのか?」
    真っ暗だった視界が急に明るくなった。眩しくてぎゅっと目を瞑る。ゆっくり目を開けると、雑誌を手に持って読んでいる猫田先生の姿があった。
    「なんだ、このトンネルなら近くじゃないか。怖いならついて行ってやるがどうだ?」
    猫田先生はそう言ってしゃがみ込むと、僕の髪をそっと撫でた。僕は寝そべったまま、先生の指に頬を擦り寄せた。
    「先生子供扱いしないでよー、僕は怖いのなんてへっちゃらなんだからね?」
    「ほう、そうなのか」
    先生は頬を抓って悪戯っぽく笑った。僕は、ぶー、と頬を膨らませた。
    出来ることなら、先生にはいつまでもここにいて欲しい。絶対に、消えたりしないで欲しいと思った。
    「それよりせんせー、膝枕してよ。このソファかたい」
    「男の膝じゃ似通った硬さだと思うぞ」
    立ち上がって自分の席に帰ろうとしたので、腰に手を回して抱き着いて止めた。
    「やーだー!先生の膝がいいー!!!」
    勢いよく体を前のめりにしたので、そのまま僕の体はソファからずり落ちた。ついでに先生のズボンも下ろしてやろうと思ったけど、先生は直ぐに勘づいて、ズボンをしっかりと持ってガードされた。
    「やれやれ、困った生徒だな。仕事が進みそうもない」
    猫田先生は諦めたのか、ようやくソファに座ってくれた。僕は喜んで先生の膝を枕にして寝転がった。
    猫田先生は、当然の様に僕の頭を撫でてくれる。
    「先生、どこにも行かないでね」
    「まあ私立だし、そう簡単には教員の入れ替えはないと思うぞ?」
    「んー、そうじゃなくて」
    「はは、卒業したらもっと色んな人に出会うだろう?そしたら寂しい思いなんかしないと思うぞ」
    春に思い切って先生に告白した。先生はその事を覚えてくれている。今日もあの日と同じことを言って笑った。僕は猫田先生が好きなのに、自分の気持ちははぐらかして、将来不確定要素でしかない誰かさんの話ばかりする。
    「別に。それはもう良いんだけどさー」
    「いいのか?それはそれで少し寂しいな」
    「バカ猫ー」
    普通に今でも好きだわ。だからいなくなって欲しくないのに。ばーかばーか。腰に手を回してぎゅうぎゅうと締め付けてやった。幽霊なのに息をしている。温かさも感じるし、息をしているように肺がゆっくり膨らんだり収縮しているのを感じる。
    目を閉じて、その温もりを感じているうちに、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。


    目が覚めると、すっかり夜だった。先生はいつの間にか席に戻っていて、僕の頭の下にはふわふわしたクッションがあった。
    「せんせーおはよ」
    声をかけると、先生はにっこりと笑った。
    「おはよう。もう暗いぞ、そろそろ帰らないと危ないぞ」
    「んんん、泊まっちゃダメ?」
    「だめだ。俺が怒られるだろう?」
    「自分本位かよせんせー」
    拳を挙げて、ぶーぶーと文句を垂れると、猫田先生は困った様に頬をかいた。
    「本当に危ないぞ?ほーら、幽霊が出る前に帰りなさい」
    だから、お前が幽霊なんだよ、猫田先生。
    はいはいと適当に返事を返して立ち上がった。しょんぼりとしているのを見かねたのか、猫田先生は頭に手をぐりぐりと押し付けてきた。髪をわしゃわしゃと撫でられて髪が乱れる。
    「やー!!!」
    腕をペチペチと叩いてやった。先生は調子に乗ってもう片方の手も使って撫で回してきた。
    「やー!!!先生の変態!えっち!!!」
    「よし、じゃあそんな先生に襲われないように早く帰りなさい」
    背中を押され、廊下へとエスコートされる。扉を開けて、早く出なさいと催促してくる。
    頬をふくらませて立ち止まると、先生はつんと頬をつついてきた。仕返しに、先生のほっぺたをむにむにと揉んでやった。柔らかい。クーラーが効いていたせいか頬は冷たかった。手で包み込んでやると、じんわりと熱が伝わったようで、暖かくなっていく。目を細めて笑う先生の顔が、たまらなく好きだと思った。
    「せんせー、僕せんせーのこと好きだよ」
    「ああ、知ってる。」
    「せんせーは?」
    「どうだろうな」
    曖昧な返事が返った。先生は猫を撫でるように僕の顎を撫でた。時々、先生は僕にそれをする。別に、心地いいわけじゃないし、撫でられ慣れないからぎこちなくなって困る。でも、他の人にこれをやっているのを見たことがないし、特別だって前に言っていた。
    「せんせーズルくない?」
    ムッとして手を掴んだ。
    「はは、先生は大人だからな」
    生徒をからかって遊んでるのか、それとも本当は好きでいてくれてるのに隠しているのか、本当のところは僕には検討がつかない。だけど、僕が先生を諦められないのは、先生のそのどっちつかずな所が大好きだからで、それを先生が分かっててやっているのは間違いない事実だ。そんなずるさを前にすると、どうしても経験や年齢の差の壁を嫌でも実感する。早く大人になりたいと思った。大人になって、先生に追いついて、それで。
    「また明日も来ていい?」
    「ああ、待ってるぞ。アイスの棒は捨てて来いよ?」
    「はーい。またね、せんせー」
    笑って廊下に出たら扉を閉めた。保健室の外は生暖かくて、夏の匂いがする。
    明日も、多分先生が死んでしまったことを伝えられないと思った。夏が終わっても消えないでいて欲しい。夏休み明けにはきっと新しい先生も来るだろうけれど、それでも猫田先生はここにいて欲しいと思っている。気付かないで。ずっとここにいて、その席で外を眺めていいて欲しい。もう、たとえ大人になっても先生を迎えに来ることも叶わなくなってしまった。ならばせめて、いつまでも僕はその後ろ姿を可能な限り眺めていたい。そう思った。
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    hell_kawaii_

    DONE夏休み

    ねこぜり?ぜりねこ???の学パロです
    生い茂る葉がキラキラと光って見えた。棒アイスを口に突っ込んで、木漏れ日の揺れるバス停のベンチに座って足をぶらぶらさせた。
    夏は日焼けをするから嫌いだ。お外に出たいなんて思わないし、ただでさえ何もしなくても汗をかく。夏休みだった。肌が小麦色に焼けた小さな子供たちが道を駆け抜けていく。少し待てばバスが来た。バスに乗ると、生ぬるい風が肌にあたって気持ち悪かった。節電にご協力ください、と書かれたポスターが嫌でも目に入るので、僕はそれをビリビリに破いてしまいたいと思った。


    学園前のバス停で降りた。学園前なんて体のいい言葉でまとめられているが、実際は山の麓で、坂道を登りきらなければ学園の門すら見えない住宅地だ。食べきったアイスの棒を口にくわえたまま歩いて登る。自転車で坂を走る主婦は、腰を上げて必死になってペダルを漕いでいる。こんな坂道だと言うのに、その主婦を追い抜いて、肌を黒くした野球部が列になって走り去って行った。よくやるなぁ、なんて呟いて、なるべく木陰や日陰をゆっくり歩いた。
    やっとの事で学園に着いた。ちょうどお昼を過ぎて、運動部の生徒たちが食後のウォーミングアップを始める頃だ。ちらほらと 4545

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