好奇心は蜂を動かす(蜂楽と潔と凛) 部屋に戻ると、ベッドの上で大の字になっている蜂楽が「おかえり〜♪」と声を掛けてきた。軽く返事をしてベッドに腰を下ろせば、うつ伏せになった蜂楽がごろんと左隣に転がってくる。じゃれつくようにヘッドロックを仕掛けると、きゃらきゃらと蜂楽から楽しそうな声があがり、つられて潔も笑う。
「潔! いーさーぎー! ギブギブ!」
「うるせー! いつもチョップしてくるお返しだ、こんにゃろ!」
ぺちぺちと潔の腕を叩き、両足をバタつかせていた蜂楽が、ふと動きを止める。すん、と鼻を鳴らし潔の腹、胸、首と順番に蜂楽の頭が移動し、離れてから首を傾げた。
「蜂楽……? 何かあった?」
「んーっと、」
内緒話をするように、潔の耳元に蜂楽は口を寄せる。
「……潔から、“凛ちゃんの匂い”がする」
「は、は。……気のせいだろ!」
「やっぱり〜? だよねぇ」
潔の視線は、隣に居る蜂楽に向けられているため、気付くことは無い。耳打ちをする時から視線を向けていた蜂楽は、自分自身に痛いほど突き刺さる視線を送る浅葱色の瞳に、背筋が震えた。
***
語学勉強を終え、テキストを閉じた凛は疲労を吐き出すように長いため息をつく。毎回、群がってきて、質問責めに遭い、それに答えるだけであっという間に時間が過ぎ、疲労が溜まる。
「凛ちゃん♪ そんなにため息ばかりじゃ、幸せが裸足で逃げ出すぞ」
「元凶が言うな」
ふわふわと左右に揺れる蜂楽の頭をテキストでポンと抑えれば、ピタリと動きを止める。ニイと口角が上がった瞬間、蜂楽は凛の腕を掻い潜り距離を詰める。反応に遅れ、半ば押し倒される様な形で床に倒れ込んだ2人に視線が集まる。
「おい、何す「凛ちゃんからも、“潔の匂い”するね」
蜂楽の言葉は、ちいさく、繊細で、凛にだけ聞こえるように、明確な意志を持って発された。
「…………蜂楽、覚えとけ」
「んにゃ?」
「Curiosity killed the cat.」
そう言い放ち、凛は蜂楽を押し退け、立ち上がる。
「凛ちゃんもっかい! もっかい言って!」
「……潔なら聞き取れただろ。ちゃんと勉強しとけ」
そう言い残し、凛は部屋から出て行ってしまう。部屋に残された蜂楽は、先程凛が口にした言葉を忘れないように呟く潔へと、苦笑しながら駆け寄った。