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    いっか

    成人済み腐あり
    ドラク工10うちよそかきたい民
    今は軽率にエル主♀する
    支部(まとめ用本家)https://www.pixiv.net/users/684728
    くる(引越し先) https://crepu.net/user/ikkadq1o

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    いっか

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    エル主♀。全年齢。天超え済。
    過去グレンにてお付き合い済のエル主♀をモブ兵士から見た図。悪酔いルジュ。
    お久しぶりです。二ヶ月くらい体調悪くしていた間に全く何もしてなかったら書き方を忘れて残念…エル主を見守るモブになりたいの気持ち

    色に出でにけり   色に出でにけり



    年下上司の羽目を外した姿が見たいと最初に言い出したのは誰だったか。
    そいつの名誉のために一応伏せてやるが、どうにも怖いもの知らずなことを言う、と思った。

    我々、グレン城に仕える者は文官と武官に分かれていて、自分らが就いている兵士は武官の下っ端にあたる。
    もちろんトップは兵士長。
    文官はというと、歴史研究家連と、戦闘補助向きの魔法師団が置かれていて、その魔法師団に所属する破邪船師が、件の我々兵団の年下上司だ。

    エルジュという名の破邪船師は、ガミルゴ王と同じく世界でたった四人しかいない四術師の一人。
    本来なら、レイダメテス討伐後は出身であるグランゼドーラ王国に帰るはずだったそうだが、一身上の都合によりグレン王国に永住権を獲得しているらしい。
    他の大陸に比べれば、力のある術師を二人も擁しているオーグリード大陸は、国としては恵まれていた。

    エルジュは立場上は魔法師で文官なのだが、戦闘に長けているばかりか司令としての役割が向いていて実績も十分ある、という理由で、武官の一師団も任されていた。
    ただ、エルジュが率いる師団は、他の部隊と比べると要人の護送や領地の調査といった細かな仕事が多いので、団員もなるべく協和的で穏やかな気質の者が集められている。

    さて、この破邪船師、幼い時から城に従事していて、なお実力があるので、若干二十歳という若さでの師団長への抜擢であった。
    成人してすぐの試用兵役を終えてそのまま正規兵団に希望した新人兵士よりも一つか二つしか上じゃないし、一度離脱した後から希望した青年兵から見れば、年下上司になるわけだ。

    ところで、先から聞こえてくる休憩中の兵士らの会話をうかがうに、羽目を外した姿が見たいというのは、エルジュに対する嫉妬かやっかみかというとそうではないように聞こえる。
    慕うからこそ、頼られたい、甘えられたい、弱っているところが見たい、などと期待に胸を弾ませる気持ちがよくわかった。
    それをエルジュ本人に好意的に受け取られるかどうかは別だけれど。

    それだけ、エルジュが老若男女問わず支持されているのは単純に尊敬に値する。
    そればかりか、最古参の兵士長やガミルゴ王いわく、エルジュが十で仕え始めた時にはすでに今と変わらぬ振る舞いだったというのだから、心底驚くほかない。
    自分よりも幾つか若い青年がそうならざるを得ないような人生が想像できず、それはもはや感嘆と言うべきで、特に齢三つの長男に振り回される自分としては、一度は聞いてみたかった。

    でも、その過程には、決して快かったばかりではないことも当然あるに違いない。
    羽目を外すとまではいかないまでも、そういう立場にある年若い術師が、誰にも相談できないような悩みがあるのなら、たとえ部下であっても年嵩の男として、何か役に立てることはあるだろうかと密かに思いを馳せる。


    時は過ぎ、ひと月かふた月に一度の割合で行う兵団有志による懇親会が、グレン城下町下層にある酒場の一角で繰り広げられていた。
    聞こえはいいが、ただの飲み会に過ぎないし、市井の者も時折混ざる。
    酒と女と同じ釜飯があれば、男は何故か仲良くなった。
    それこそ、多くの者が羽目を外すほどには。

    つい先日、訓練場の隅で話題にされていた師団長のエルジュは兵士らが囲むいくつかのテーブルのうち壁際の一番端に座っていた。
    こっそり見遣れば、その座す位置は、まるで兵たちを一望できるように見える。
    こういう私的な場であっても、この人は師団長なのだなとほっとすると同時に、胸には少しの寂しさが浮かんだ。

    小一時間はしたか、エルジュの席から一番遠い兵士が何やらこそこそと怪しい動きをしているのに気付く。
    注視すれば、酒場の娘が持ってきたばかりの麦酒の冷えたグラスに、別のグラスの華酒を混ぜた瞬間がちょうど見えた。
    のどごしが良く爽快感のある黄金色の発泡麦酒は、それほど酒気が強くない。
    だが、樹液の発酵蒸留酒である透明な華酒は、水が如くの見た目とは裏腹に、酒豪が好む通り少ない量でも酒気が強い。
    透明なそれが麦酒に混ぜられたら飲むまで判らないし、いくら酒豪でも一杯か二杯くらいしか飲めないんじゃないだろうか。
    酒に弱い者ならひと口で引っくり返るかもしれないような代物。
    それをどうするのか、自分たちで飲むのなら自業自得で済む話なのに。
    席が離れているせいでろくに声もかけられず黙って目で追えば、そのグラスが人の手を渡りながら最後にはエルジュの前に置かれた。
    なんの疑いもなくグラスを手に取るエルジュに気の毒にと思いながらも、何も起こらなければいいと心の底から願う。

    グラスを少し傾けたかと思えば、エルジュが一瞬目を丸くして傾きを止めた。
    流石に酒気が強すぎることに気付いたのだと安堵したのも束の間、エルジュはゆっくりと目を閉じてそれを一気に煽って飲み干す。
    嘘だろ、と内心で冷や冷やしながら、グラスを空にして笑うエルジュに驚いて瞬きを繰り返した。
    ただ、その後はグラスの口に手の平で蓋をしたまま離さず、それとなく釈を躱して笑みを浮かべ、そのまま周囲の与太話を頷きつつ聞いている。
    とりあえず、懐の深い上司に助けられ、仲間の叱責に場が悪くなる危険は回避したらしい。
    大した上司だよ、まったく。

    酔っていたのか、酔ったのか、酔わないのか。
    どれにしろ、毒じゃないとはいえ無茶なことをする、と、却ってこちらの方が振り回されてしまった。
    気が抜けたようなため息をついてテーブルに目を戻し、新メニューのメギス鶏の唐揚げに八つ当たりみたいにフォークを思い切り刺して口に放り込む。
    そんな様子を、その上司に見られていたとは気付かずに。

    更に三十分くらい経ったか、メンバーのほとんどが酔いどれ管を巻いてきた頃、思い立ったようにエルジュの方を見ると、壁際に椅子を引いて凭れるように目を閉じている。
    酔うと寝てしまうタイプなのだろうか。
    それはそれでいいと微笑ましく、を通り越してニヤニヤと嬉しそうに兵士らに窺われている。
    確かに、平時こそ上司らしく頼りになる青年が年相応に酒に飲まれているのを見るのは面映い。
    賑やかな会話にふっと沈黙がおりた時は大概誰かが盗み見ていて、時折、しいとオーガらしくなく声を潜め合った。

    うん、と納得して頷いてから会話に戻ろうと思ったが、つ、と何気なく再び上司を見遣る。
    その視線の先では、やや薄く開いた銀めいた灰色の瞳に、言いようもない色が浮かんでいた。
    何かを探し求めるように、左から右へと胡乱に流し、その眼が正面の兵たちの様子を捉えてはまた静かに閉じて深く息を重ねている。
    あ、と思って、つい息を潜める。

    眠ってない。
    眠ったフリをしているだけだ。
    酔ったら眠るわけじゃないのに、今は寝たフリをした方がいいと彼自身が判断した結果なのだ。
    羽目を外すのを恐れているのか、そういう姿を見せることを恐れているのかはわからない。
    ただ、その眼に浮かんでいた、ある種の熱を帯びた艶に、なんとなく気が騒いだ。
    よくよく見れば、気怠げに足を組んで壁に凭れるエルジュのことをチラチラと、頬に期待を浮かべて見ている酒場雇いの娘や客の色男が何人かいる。
    ああ、そういうことか、と、妙に腑に落ちて、眼を逸らした。
    だから、眠ったフリを。

    入店して二時間と少し、ようやくお開きになって、ガタガタと騒がしくなる。
    精算の済んだ奴から、エルジュに一声かけて酒場から一人、また一人と出て行った。
    声をかけられた当の彼は、ああうんとふわふわした笑みを浮かべて片手を上げて半ば追い払うように帰途へ促していく。
    動けないのだろうかと心配して、自分も帰り支度を済ませてから立ち寄った。

    「エルジュさん、帰れそうですか?誰か呼びます?」

    恐る恐るかけた声に、パッと目を上げたエルジュが、色気すらたたえた赤い目尻を和げて微笑む。

    「なあ、確か、家、近くだよな?一緒に帰ってもらえると助かるんだが。」

    近くだったか、と頭の隅で考えて、上層に家があるエルジュからしてみれば、下層に家を構えるほとんどの兵よりは、中層にある自分の家は確かに近い方かもしれない。
    納得したようにハイと頷いたそばから、わかっていたようにエルジュが椅子から立ち上がって、それから腕を引かれる。
    酒場の出口へ向かうまでに、どことなく壁にされたような感覚を抱いた。
    オーガの中では平均的でも、人間のエルジュよりはガタイがいい自分の身体を盾にするように。
    刺さるような周囲の視線と共に聞こえてきたのは、残念そうな色っぽいため息ばかりだった。

    外へと出た途端に腕を離され、エルジュがほうと安堵したような息をつく。
    朱く色付いた頬を手の甲で擦って、エルジュが申し訳なさそうに見上げてきた。

    「巻き込んで悪かったな。」
    「……いえ?」

    大したことじゃないので、なんのことだと何食わぬ顔をして目を逸らす。
    それに気を良くしたのか、エルジュはハハと快活そうに笑って、先を歩いた。
    いつでも背筋の伸びている彼にしては珍しく、後ろ手を組んで背を丸めながら坂を上る。
    その背を見ながら瞬きを繰り返し、つい口をついて出たのは言い訳だ。

    「……悪気はなかったと思うんです。」

    だから、止めなかった、とは、本当に言い訳に過ぎないが。
    流し見るように後ろを少し振り向いたエルジュは、艶やかに微笑を浮かべる。

    「わかってるよ。宵のうちのことは宵のうち、さ。」

    どんなに好意的な理由があっても許されることではないが、そうであってもエルジュが許してくれていたことは何らかの形で知らしめられればいいと思う。

    「ボクも、結果的には君に救われていることだしね。」

    は、と息を吐き出したまま、エルジュが目を細めて駅前の階段を見つめた。
    救われている、というからには、やはり、エルジュの酔いには並ならぬ弊害があるのだろうか。

    「酔いすぎると、どうも良くないらしくて。」
    「良くない?」
    「ボクにもよくわからないんだけど……魔力酔いをしているせいかな、どうも無意識に周りを魅了してるらしい。ガミルゴが言うにはね。」

    目を見開いて驚く。
    魔力酔いというのは、ひどく魔力の強い魔法師にたまにあることで、体内にある魔力が暴走して本人の意図しないところで魔法が発動されてしまうという現象だ。
    幼い頃には感情の激昂による暴走などもあるらしいが、大人になっても酒気で発症するものとは知らなかった。

    ああ、それで。
    彼の周囲がソワソワしてたわけだ。

    「役に立ったんなら良かったですけど……今までそれで困ったこと無いんですか?」
    「ここまで酔うこともそう無いよ、比較的アルコールには強い方だし。」
    「ああ……じゃあ、あの酒やっぱり、相当強かったんすね。」
    「あれには参った。」

    そんな話をしている間にも、登って行った坂のもうすぐそこがエルジュの家だ。

    「それじゃあ、また明日。」

    扉の前で笑うエルジュに頷いた時、不意にエルジュの家の扉が開いた。
    え、と思う間に顔を出したのは、人間の女の子だった。

    「あ、やっぱり。エルジュ、おかえ、」

    言い終わる前には、エルジュは堪えるようなえも言われぬ表情を宿したままに、左腕がするりと伸びては息も詰まるほどに彼女を抱き寄せる。
    それと同時に、艶めいた魔力の波に周囲が揺れたのがわかった。
    え、と声が出たのは自分も彼女も同じで、驚いた彼女が顔を真っ赤にして慌てたようにこちらを見遣る。

    「あ、あの、お茶でもと思ったんだけど、あの……ごめんなさい。」

    ぎゅうぎゅうと音が鳴りそうなほどに強く抱きしめられているのは一目瞭然なので、いやいやと首を振る。

    「お構いなく。俺も遅くなると嫁に怒られますんで。お疲れ様でした。」

    彼女に対しては軽く会釈を返し、エルジュの背に声を掛ければ彼はそのまま片手を上げてひらひらと振った。
    パタリと扉が閉められても、目の前で起きたことを頭で整理するのにしばし動けなかった。
    ただ、扉の奥で、ここ玄関だよ、と焦ったような高い声がそのまま息遣いの中に消えたのが微かに聞こえて、慌ててその場を離れて帰路を辿った。

    のんびりと家へと歩きながら思うのは、エルジュの魔力酔いの真相について。
    本来、魔力を魔法として扱うには脳内におけるイメージが大事なのだと教わるが。
    魔力酔いであっても心の中で描いていない魔法が表出するとは考えにくい。
    ただ、エルジュ自身の人格は色好みなわけではないのに、なぜ、魔力酔いの効果が魅了なのだろうと思っていた。

    「……酔ってる時、好きな人に会いたいとしか考えてないんだな、多分。」

    成人してからも浮いた噂ひとつ無かったエルジュは、どういうわけか、病に倒れて長期で休んだ後、前より元気になって復帰したばかりか、可愛らしい彼女まで突然できた。
    ガミルゴ王とも兵士長とも顔見知りだという彼女は、おそらくエルジュが幼い頃からも顔見知りなのだと思われる。
    お付き合い早々に家で一緒に過ごしている彼女は、どうやら以前からずっと好きだった相手らしい。
    だとしたら、成人して酒を飲むようになってからも、彼女に対して想い患っていたに違いない。
    成人したからなおのこと。

    「そりゃそうか。飲んでる場合じゃ無ぇもんな。」

    長年の片思いをようやく実らせ家には恋人がいるとなれば、飲み会も仕事のうちとはいえ、さっさと終わらせて帰りたい気持ちは大いに理解できる。
    何せ、数年は前とはいえ、自分だって新婚の頃はそう思っていた。
    そう思うと、俺も早く帰ろう、と急ぎ足になる。

    そう頻繁に出るものではないとはいえ、エルジュの魔力酔いが魅了でなくなる日は来ないんじゃないだろうかと考えると何だか面白くて仕方がなかった。



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