シンジュクの近くで発生した野暮用が早く終わり、合鍵でふらりと上がり込んだ先生の家。電気が付いている割に気配が薄いと思ったら案の定、ソファですうすうと寝息を立てる先生がいた。膝の上に本があるところを見ると、読んでいるうちに寝てしまったのか。
(案外、世話が焼けるんだよな)
勝手知ったる他人の家、寝室からブランケットを取ってきて細長い体にかけてやり、本をテーブルに置く。
「んん…」
不意に漏れた吐息に、先日の甘い夜を思い出し、下腹が疼いた。
「あんまり無防備にしてると、食っちまうぞ」
聞いていないのを良いことに小さく呟く。とはいえ読書中に寝てしまうほど疲れているだろう先生に無理をさせる気はない。メシでも作っておくかとキッチンに向かう。
「…おや、食べてくれないのかい」
「起きてたのかよ」
「さっき、ね」
引き返して、唇に触れるだけの軽いキス。近くで見ると、目の下に薄っすらと隈が浮かんでいるのが分かる。
「疲れてんだろ」
「でも、せっかく来てくれたのだから…」
「先にメシ、な。作ってやるから、もう少し寝てろ」
へにゃりと笑って閉じられた瞼にキスを落とす。この人に世話を焼くのも甘やかすのも、俺だけだと思えば、悪くない。