「お花見に行きたいなあ」
朝食を食べている最中、寂雷が唐突にそんな言葉を溢す。あまりに唐突だったので、左馬刻は眉間の皺を深くして、はあ?と返すしか出来なかった。
「今年はまだ行けてなくてね」
「いや、それ以前に、もうすぐ五月だぞ?もう花見は無理だろ」
葉桜だって遅いだろ、と左馬刻が突っ込めば、そうかな、と呟いた寂雷の視線がすうと流れる。天気予報を見るために点けていたテレビ画面には、『ホッカイドウの桜はもうすぐ満開!』とのテロップと共に、薄ピンクの花が一面に映っていた。つまりは。
「……旅行に行きたいなら、そう言えよ」
「だから言ってるだろう、お花見に行きたいと」
(こーいう所あるよな、センセーは)
それが嫌ではないのだから、全く感情というのは不思議なものだ。左馬刻は軽くため息をついて端末を手に取り、「次の休みは?」と聞いた。明後日から、と返した寂雷は、桜に負けない満面の笑みを浮かべている。
この笑顔を見るためなら何でもやってやろうと思ってしまうのだから、やはり、惚れた弱みは恐ろしい。