「もう、大丈夫ですよ」
腕の傷口に絆創膏を貼ってそう声をかけると、逞しい手が小さく拳を作り、紅い瞳がすっと逸らされた。少しだけ、胸が疼く。
「礼は言わねえぜ、先生」
「ええ、私がやりたくてやっていることです」
これくらいで大袈裟だ、と言い張る彼を説き伏せ手当てをしたのは何度目だろうか。左馬刻くんは一つため息をついて、立ち上がった。
「…コーヒー、飲むだろ。淹れてやんよ」
礼は言わない、と言いながら毎回美味しいコーヒーを振舞ってくれる不器用な優しさに心が暖かくなる。救急箱を片付けて彼が座っていたソファーに腰掛けると、僅かに香水の匂いが立つ。
とくり、と跳ねた心臓に向き合う勇気は、まだ無かった。